悪夢はそこで笑う
ベリアルは強い。そんなことわかりきっていたことなのに、ここまで強くなった俺なら勝てると思っていた。
でも、最終的には隠し技である鱗の刀化までしたのに、今度はそれを逆に利用し、片目を失った。薬で治ったと言っても、一度視力を失ったという恐怖は消えて無くなることはない。
【殺せ、殺せ、殺せ】
俺がこうしてベリアルと戦いを続けていられるのは、俺の中の破壊衝動のおかげだ。
この破壊衝動がなければ、俺の脚はすくんで立ち上がることすらできなかったかもしれない。
だが、この破壊衝動に身を任せるのも危ない。本能のままに戦って、真正面から拳を交わせばベリアルには勝てないのだから。
破壊衝動が俺を前に突き動かし、恐怖心がベリアルの攻撃を避けさせる。
いつまで続くかわからない均衡。
このままではジリ貧だ。
ならば、二度目の秘密兵器投入。
「アイテムクリエイト!」
迫りくるベリアルの拳を、俺はそれで受け止めた。
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竜人盾【盾】 レア:★×8
竜人の鱗で作られた盾。
その硬さは竜人の強さに比例する。
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さすがにこれは痛みを感じる。アドレナリンの許容量を超えた。
鱗20枚が剥がされた。剣だと鱗一枚でいいのに、盾だと鱗20枚も使わないと作れないからな。
だが、その防御力は折り紙付きだ。
単純に俺に生えている鱗の数倍の強度になる。
矢が一本だったら簡単に折れるが、三本纏めたら折れない――みたいな感じで20枚で作った鱗の威力は中々のものだ。
「……やるな――」
ベリアルが笑って言う。
「グリューエルの奴に封印されてから、まともに戦うことができなかったからな」
「そういう感想は、戦いが終わってからいいやがれっ! アイテムクリエイト!」
俺がそういうと同時に、今度は盾から竜人刀が生えた。
鱗が敷き詰められた盾だから、こんな裏技もできる。
「アイテムクリエイトアイテムクリエイトアイテムクリエイトアイテムクリエイトアイテムクリエイトアイテムクリエイトアイテムクリエイトアイテムクリエイトアイテムクリエイトアイテムクリエイトアイテムクリエイトアイテムクリエイトアイテムクリエイトアイテムクリエイトアイテムクリエイトアイテムクリエイトアイテムクリエイトアイテムクリエイトアイテムクリエイト」
俺が叫び続けた! 19回叫んだ結果、盾から二十本の剣が生えた。
こうなってしまったらもう盾としての使い道はないに等しい。よく見ると、隙間もあるし。
「二本の刀――二刀流でダメなら、二十刀流だ」
一本の矢よりも三本の矢。二本の刀よりもニ十本の刀。
これなら、簡単に全部折るなんて真似できないだろう。
「ガハハハっ、いいな、コーマ。お前みたいなバカ、俺は大好きだっ!」
「お前にバカって言われたくないっ!」
俺はそういうと、盾に生えた剣をベリアルに向かって振り下ろす――フリをして――
「明かりっ!」
光魔法を盾の隙間から飛ばした。
思わぬところから現れた光の球に、一瞬ベリアルの目が眩んだ。その一瞬を俺は待っていた。
「(喰らいやがれっ!)」
俺の二十本の刀がベリアルの顏に当たった。
あまりの力任せの攻撃に、刀が次々に折れていく。
血飛沫が飛ぶ。
俺の最高の攻撃。
今できる手いっぱいの攻撃。
だが――
「……それで終わりか?」
顔から血を流しながら、ベリアルは笑っていた。
悪夢はまだそこで笑っていた。
「――ルシル……ずっと聞いていたんだろ」
『ええ、聞いてるわよ。コーマの力が暴走しないように聞いていたわ』
竜化したとき、ルシルに通信イヤリングを繋いでから、ルシルは通信を切らずにいた。
ずっと聞いていた。戦いの様子を音だけで聞いていた。
おかげで、事情を説明する手間が省けた。
俺は胸中で「クリスの奴め、余計なことを言いやがって」と呟く。
そして――
「封印解除第三段階だ」




