ベリアルへの秘策
「いい目をするようになったじゃねぇか。そっちのは、あの時、俺様の部下のオーガ将軍と戦ってた嬢ちゃんか? そっちも見違えたぜ。コーマがいなければ戦いを挑んでいたところだな。どうだ? 二人一緒に戦うか?」
ベリアルの影。いや、戦う以上、こいつは最強の魔王ベリアルだ。ベリアルは笑いながら、そして殺気を飛ばしながら言う。笑ってはいるが、二人一緒に戦うという言葉は冗談ではない、本気の提案だ。俺たちがそれを受け入れても、ベリアルは俺たちを卑怯者だなんて思わない。ただ、自分の楽しみが増えるだけに思うだろう。
「悪いが、クリスはただの立会人だ。ベリアル、お前の目的が俺と戦うことなら、マユはもう必要ないだろ。返してくれ」
「ん? あぁ、あっちの扉の奥にいるぜ。安心しろ、もしお前が死んだら、あいつにお前の骸を運ばせてやるよ」
「いつから最強の魔王は宅配サービスをするようになったんだ? あいにく、うちの魔王城は宅配圏外だからな、自分の足で帰らせてもらうよ。お前を倒してな」
俺がそう言ってエクスカリバーを構えると、ベリアルはまるで豆鉄砲を喰らったように目を丸くしたのち、
「がはは、殺気を飛ばしている俺様にそんな大口をたたいたのはお前がはじめてだ。そうか、俺様を倒すか」
そして、ベリアルの笑いが消えた、その瞬間。
その姿も消えた――と同時に俺の目の前に現れ、拳を突き出す。
俺はその拳をエクスカリバーで突いた。
「面白い――俺様と力で真っ向勝負に挑む気か?」
「……ぐぎぎ」
歯を噛みしめるが、やっぱりベリアルの力は強大だ。
だが――
(勝負はするつもりだが、力比べをするつもりはないよ)
俺はエクスカリバーそのものを手放した。剣を逸らされることは予想していたかもしれないが、この場で剣を捨てるのは予想外だったのか、ベリアルの動きが僅かに大振りになる。その瞬間、俺はアイテムバッグからエントキラーを取り出し、その腹を薙ぎ払った。
(やったかっ!)
それは思ってはいけないフラグだった。
次の瞬間、ベリアルの蹴りが俺に激突する。
と同時に、俺は天井に叩きつけられていた。壊れない天井というのは厄介だ。せめて砕けてくれたら衝撃が少しは緩和できるのに。
骨は何本か折れているだろうし、内臓も傷ついているかもしれない。口の中が血の味しかしない。
でも――
動けるのなら治せる!
アイテムバッグからエリクシールを取り出し、自分に振りかける。
と同時に、全ての怪我はリセットされた。
怪我はリセットされても、武器を二個失ったか。
落ちているエクスカリバーと、ベリアルの腹に刺さったままのエントキラー。
「楽しいぜ、コーマ」
「こっちは全然楽しくないよ。お前、前に戦ったときより強くなってるんじゃないか?」
「それこそお互い様だぞ。俺様は獣化という変身能力があっただろ。あれを失った代わりに、いつでもあの獣化している時と同じ力で戦えるわけだ。俺様は最初から本気で戦っているんだぜ? お前も本気だせよ」
ベリアルが言っていることは嘘ではないのだろう。腹の傷はすでに塞がっている。自己回復力が凄すぎて、エントキラーがベリアルの腹に完全に食い込んでいる。
ベリアルはそのエントキラーの柄を掴むと、力任せに引っ張った。血飛沫が飛ぶが、そんなことを気にする様子もなく、エントキラーを後ろに投げ飛ばした。
「どうだ? 今度は拳同士戦うか?」
「……あいにく、こっちは剣には困っていないんでな」
そう言って、俺は二本目のエクスカリバーを取り出した。
大丈夫、傷は塞がっているが、流れた血が戻る訳じゃない。
俺のエリクシールと違い、体力は完全には回復していない。
なんて思っているが、
(エントキラーの本気の一撃を受けてこの程度かよ)
これから奇をてらった攻撃を何回喰らわせたら勝てるんだ?
「はぁ……わかったよ。俺も本気で戦わせてもらう」
「ん?」
「今までが本気で戦っていなかったわけじゃない。実戦で使ったことがないから、できれば使いたくなかったんだよ」
俺がそう言う。
「コーマさん、まさか封印解除第三段階ですか!?」
クリスが叫んだ。お前、もしも本当に封印解除第三階だったとしたら、ネタ晴らしもいいところだぞ。
だが、そうではない。
俺は剣を捨て、拳を握りしめ、そして、前に跳んだ。
「お、拳で戦うのか、いいぜ、やってやる!」
「行くぞ、ベリアル! アイテムクリエイト!」
俺がそう叫ぶと同時に――
「なっ」
ベリアルも流石に驚いたようだ。そりゃ驚くだろう。
何しろ、
「どうだ? お前が腹から斧を生やすなら、俺は手から剣を生やす!」
俺の拳から細剣が生え、ベリアルの拳に突き刺さっていたのだから。
「それだとお前も動けないだろうがっ!」
ベリアルが反対の拳で殴り掛かってくる。その拳が俺の胸に届こうかと言う時、
「アイテムクリエイト!」
そう叫ぶと同時に、今度は俺の胸から剣が生え、ベリアルの拳に突き刺さった。
「今の俺に死角はないぞ」
俺は現在、自分の体中に生えた鱗を、アイテムクリエイトによって剣へと作り替えているのだから。
そして、その切れ味は――もはやエクスカリバーをも上回る。




