ルシルからの緊急連絡
アルバムをめくっていく。
その男は、何枚かの写真に写っていたが、どこからどう見ても、ベリアルの影と瓜二つだった。違うとすれば、その男の服装が白衣姿ということと、とても気弱そうだというところか。
「確かに似ていますよね。でも、全然違いますね」
クリスも写真を覗きこんで俺と同じ感想を持ったようだ。
「そうだよな。見た目は一緒だが、性格は全然違う」
性格は写真からも読み取れる。生徒からも慕われている、とても優しそうな男だ。
名前は、クロード・ブラウン。体育教師か。
わかるのはそれだけだった。時間があるときに、クロードの部屋を探すことにしよう。
とりあえず、アルバムはアイテムバッグに入れた。
そして、俺は部屋中にある、魔物を封印された箱を
「この魔物たちは放置だな」
「可哀そうですが、仕方ありませんね」
クリスが魔物に同情を示した。まぁ、数百年封印されるのは確かに辛いだろうが、俺が魔物を放置するのを残念がったのは、魔物の素材の中に、現在は手に入らないアイテムがあるのではないかと思ったからというだけなんだけど。
でも、アイテムバッグの中には生きているものを入れることはできない。ちなみに、生きていなければ大丈夫じゃないかと思って、マネットが作ったゴーレムや、動いている不死生物をアイテムバッグに入れようとしたことがあったけれど、それらも入れることができなかった。アイテムクリエイトで作ったスライムたちは入れることができるんだけど。
そのあたりは何か明確な区分けがあるようだ。鑑定できるかどうかの違いだろうか?
「でも、思ったより成果はないな。これだと、わざわざ地上に落下してまで見る必要はなかったか」
「地上に落下したのは完全にコーマさんのミスですけどね」
「まぁ、そう言うなって。クリスに落下したときの対処法を伝授してやるから。中々凄い対処法なんだぞ」
「私は多段ジャンプスキルがあるから必要ないですよ」
……はぁ、クリスも昔はもうちょっと派手なリアクションを取ってくれたと思うんだが。
これが年を取ったということなんだろうか? いや、成長したってことなんだろうな。クリスもいつまでもリアクション芸人ではいられないってことか。
「コーマさん、何か失礼なことを思っていません?」
「いや、正直、本音で言えば焦っている。本当は今すぐ魔王城に戻りたいんだけどな。ルシルたちが心配で仕方ないけど、今は待っているしかできないから、気を紛らわすためにクリスをからかって遊ぼうなんて思っていないぞ」
「私の予想斜め上のことを思ってますね!」
クリスは怒りを通り越して、どう反応したらいいかわからないようだった。
「それで、コーマさん。地上にはどうやって降りるんですか? もしよかったら、突き落としますけど」
「お前、言ってることは殺人予告と一緒だからな。マジやめてくれ」
昔のクリスは本当に優しかったよな。
簡単に騙されてくれたし、なんだかんだいて、いつも優しかった。
「あの頃のクリスはどこにいったんだろ」
「今の私を作った大半は、きっとコーマさんですよ」
「なるほど、これが因果応報ということなのか……」
「まぁ、今でも月に一度はたぶん騙されていますけど。前も水瓶に入れるだけで水が浄化できる石というものを買ったんですけど、その石の割れ目から虫が湧いて出ましたし」
「……そもそも、お前が住んでいるフリーマーケットの寮は蛇口をひねるだけで水が出るんだから、そんな石を買う必要なかっただろ」
「それは買ってから気付きました。あ、でもアイテムバッグだけは絶対に肌身離さずに持っていますから、盗まれることはありませんよ」
成長しているのかしていないのかわからないことをクリスは言った。
その時だ。
『コーマ! 聞こえる!?』
酷く焦った声でルシルの声が聞こえてきた。
「あぁ、ルシルか。聞こえてるぞ。もう転移陣の封印解除ができるようになったのか?」
一時間はかかるって言ってたのに、まだニ十分程度しか経っていない。
ルシルが全力で封印解除をしてくれたのだろう。
「それなら――すぐに」
『大変なの! マユが攫われたの!』
「……はっ? なんでマユが! いったい誰に!?」
『ベリアルの影よっ! あいつが急に現れて、マユを連れて去っていったの! マユを守ろうとして、ゴブカリと数人のゴブリンが怪我をしたけど、全員治療済みよ』
……一体、何がどうなってるんだ?
なんでマユなんだ?
「ルシル! 転移陣の封印の解除はまだか?」
『まだ時間がかかるわ――あと、手紙が落ちていたの。【大森林の遺跡で待ってる】……コーマ、これって』
「大森林の遺跡――クリスが言っていたあそこか」
ベリアルの影が待つ存在。
俺を待っているのか?
「……もう、本当に何がなんだかわからないが――俺とクリスは遺跡に行く。タラとコメットちゃんには薬を持って行かせるから、ルシルは引き続き封印の解除を頼む」
『……コーマ、無理しないでね』
「バカ言え。ここで無理しないでいつ無理するって言うんだよ」
俺はそう言うと、通信イヤリングを切り、コメットちゃんとタラに連絡を取った。




