理事長室のアルバム
「あぁ、死ぬかと思った」
なんとか、理事長室のある建物の窓に飛び移った。
クリスは心底呆れたように言う。
「普通は死んでますよ」
「まぁな」
結果的に言えば、ロープが切れたとき、俺は落ちた。正真正銘、なんの細工もなく。
ロープが切れるなんて思っていなかった俺は、ホックをロープにつけていたから、ロープが切れたら命綱も意味がない。
そういえば、バベルの塔でユグドラシルを登る時にも結構ひどい使い方をしていたからな。あれで耐久力が落ちていたんだろう。
落ちながらも、俺はアイテムバッグから落下傘を出したのだが、そこで手が滑った。
落下傘の入ったリュックが遠くに落ちてしまった。
結果、俺は地面に叩きつけられるはずだった。
そこで俺が考えたのは、荷物を投げ捨てることだった。
地上にコメットちゃん達がいないことを確認すると、アイテムバッグから重いものをひたすら取り出しては下へと投げた。
重い物を投げるとその反作用で俺の落下速度は僅かに減速する。
そして、地上がアイテムの山になったとき、俺はそのアイテムの中に落ちた。
骨の何本かは使い物にならなくなったし、あの激痛は二度と御免だが、アルティメットポーションで治療して戻る。
転移陣で上空の建物に戻った俺は、クリスに戻ってきてもらい、持ち運び転移陣を運ばせ、転移で移動した。最初からこうしたらよかったんだ。
「で、ここが理事長室か」
そう言ってみたものの、理事長室のプレートが掛かっているほかは、理事長室のイメージとは大きく違う。
「これ、全部魔物が封印されているのか」
先ほど見た、リッチが封印されていた箱と同じような箱が大量に並べられていた。
「二首ドラゴン、吸血鬼、ファイヤーサラマンダー、悪魔まであるのか……」
箱には名前の書かれた羊皮紙が貼りつけられている。
「はい。レア種や絶滅種だらけです」
ここでベリアルは魔物の研究をしていたのだろうか?
一体、何の目的で?
「リッチが封印されていた箱はここにあったのか?」
隙間を見つけ、そこには『リッチ』と書かれた羊皮紙が落ちている。
クリスが剝がしたのだろう。
「はい、そこで見つけました。きっと理事長さんは魔物コレクターだったんですよ」
「本当に、ただの蒐集目的でこんなことをしているのだと言うのなら、ベリアルとも少しはわかりあえたかもしれないがな……」
当然、そんなわけはないだろう。
奴は何かを企んでいる。
それが何なのか、それを調べるためにここに来ている。
「ベリアルの目的は、別の世界に行くことじゃないんですか?」
「それは失敗に終わったんだろ? 別の天使の介入によって……」
ベリアルがこれまでしてきたことを思い出す。
学園の生徒をリッチへと変えた。
ブラッドソードでゴーリキを操った。
一角鯨を暴れさせた。
ユグドラシルの種を奪っていった。
そして、現在、サイルマル王国の兵を操り、俺たちの迷宮に攻め込んでいる。
悪事を行っているということ以外、一貫性がない。
それに、兵たちの魔物化の条件に、俺、ルシル、ゴブカリの三人が含まれているのも理由がわからない。
「……そういえば、気になることがもうひとつあったな」
ベリアルの影だ。
自分の事をベリアルだと思い込んでいたらしい、自称最強の魔王ベリアル。
あいつは、なんのために作られたんだ?
そう思った時、俺はそれを蹴ってしまった。
何を蹴ったのかと思うと、それは一冊の本だった。
なんの本かわからないまま、俺はそれを拾い上げてみる。
なんだ、写真?
この世界にも写真があったのか……いや、こんな空飛ぶ建物に比べたら白黒写真くらい問題ないよな。
「綺麗な絵ですね。まるで本物みたいです」
クリスが覗きこんで言うが、無視してそれを見た。
学生の写真や教師の写真。実験の様子などのアルバム。
グリューエルの写真もあった。優しそうな老婆の写真だ。裏で生徒を実験材料にしているとはとても思えない。
そして本を捲っていくと、そこで俺がみたのは――
「これは……」
その写真に写っていたのは、生徒と一緒に何かの実験をしている、ベリアルの影の姿だった。




