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異世界でアイテムコレクター  作者: 時野洋輔@アニメ化企画進行中
Episode13 迷宮事変

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特別企画「くるとし」

あけましておめでとうございます。

「明けましておめでとうございます」

『おめでとうございます』


 俺の挨拶に、魔王城の面々が応えるように挨拶をする。

 今日は新年最初の日だ。

 ということで、料理もお節とお雑煮だ。


「旧年は皆にも世話になった。今年はできることなら平和に過ごしたいと思っている。もう他の魔王と戦うだとか、侵入者の人間と戦うだとか、そういうのはせずに、アイテムコレクション……じゃねぇや。72財宝を集めるために尽力を尽くしたいと思う。まぁ、そう簡単に見つかるとは思えないけれど、力を貸して欲しい。それでは、乾杯!」


 俺がそう言うと、全員がグラスを持って手を挙げた。

 こうして、新年の挨拶は終わったわけだが――その俺はというと、


「コーマ様、大丈夫ですか?」


 このように、コメットちゃんが駆け寄ってくるほどに弱っていた。


「だ、大丈夫だ。ちょっと朝から胃もたれしている程度だし」

「……コーマ様も成長なさいましたね。あの大惨事で胃もたれ程度とは」


 コメットちゃんがしみじみと呟く。

 それを見て、ルシルは嘆息を漏らす。

 ちなみに、ルシルはお雑煮の代わりにぜんざいを食べている。鏡開きはまだ早いというのに。


「コーマもだらしないわね。いつもならアルティメットポーションを飲めばすぐに治ってたのに」

「お前な……いつもの比じゃなかっただろ。お節の三段重を魔物化なんてしやがって。三段重だからって、散弾銃で料理を打ち出してきたんだぞ。しかも散弾銃なのに正確無比のコントロールって意味わからないぞ。デューク東郷さんもびっくりだよ。びっくりし過ぎて、後ろに誰か立っても気付かないよ」

「まぁ、お雑煮を作って象化して踏まれちゃうよりはよかったんじゃない?」

「……ルシル、お前、最近自分の料理が料理じゃないって自覚してないか?」


 まぁ、こんな俺とルシルの会話も日常茶飯事で、俺がルシルの料理を食べてのたうち回っていてもコメットちゃん以外はろくに心配をしていない。理不尽だ。ルシルの料理を月に一度は食べてやる約束をしたけれど、それ以外は絶対に食べない。

 今年の抱負は、ルシル料理を12回摂取にしよう。


「さてと、お年玉を渡そう。まずは、カリーヌとゴブカリからだな」

「わーい、お兄ちゃん、ありがとう」

「僕もいただいてよろしいのでしょうか?」


 と言ってもふたりは子供も子供。まだ誕生日も迎えていないゼロ歳児だ。平均年齢500歳を超えている魔王軍幹部パーティーの中でも数少ない子供だ。

 ちなみに、お年玉といっても、現金は使い道がないので、選べるギフトを作成。

 ふたりが望むものを俺が買ってくる。そういうシステムを採用した。俺が作ってもいいのだけれど、俺が作るとどうしても原価が安くなってしまうからな。


「コメットちゃんとタラもな。ふたりにもプレゼントな」

「ありがとうございます。大切に使わせてもらいますね」

「感謝いたします」


 コメットちゃんとタラも笑顔で受け取った。見た目10歳のふたりだが、コボルトとしての年齢を聞いたところ、まだ10歳にも満たないというので当然、お年玉を受け取る側だ。マネットも見た目子供だけれども、年齢は数百歳らしいのでお年玉は無しだ。

 俺がポチ袋に入ったお年玉を渡していくと、ルシルは期待の眼差しでこちらを見てくる。 


「コーマ、コーマ。私には?」

「ルシルの分はあるはずないだろ。むしろお前はお年玉を上げる側だろ」


 自称2700歳のルシルは、10人しかいない魔王軍幹部の平均年齢を270歳上げている。うちの魔王軍では最高齢だ。

 メディーナもなんだかんだいって1500歳超えているし、マユやマネットも年の数は3ケタだからな。


「コーマ様、お待たせしました。って、あぁ、もうはじまっていたんですね」


 遅れてきたのは、マユだった。

 悪い、すっかり忘れていた。まぁ、いつもの事なんで許して欲しい。ほら、メディーナもいないしさ。


「カリーヌ。とりあえずお餅を用意したんだ」

「お餅好き」

「うん、スライムってなんとなくお餅が好きらしいからな。弟たちへのお年玉として持っていってくれないか?」

「わかった」


 カリーヌが笑顔でお餅を持って走っていく。

 その後も、魔王軍の新年会は楽しく続いた。


「じゃあ、俺はちょっと初売りセールを見てくるか。あいつの様子も見たいしな」


   ※※※


 フリーマーケット。

 いつも多くの客でにぎわうこの店は、いつにもまして大混雑していた。

 日本では当たり前のようにある振る舞い酒。それがフリーマーケットの前で配られているため、それを目当てに集まる人もいる。

 振る舞い酒といっても、小さな紙コップ一杯くらいの量しか配らないのだけど、それでも予想以上に多くの人が集まっていた。

 そして、その酒を配っているのが、巫女装束のクリスだ。もちろん、髪を二つにわけて三つ編みをすることは欠かしていない。


 なんだろう、金髪碧眼のクリスが巫女装束姿だと、日本被れのちょっと勘違い外国人さんみたいでバカっぽい。まぁ、クリスは見た目だけは美人だからそれでも似合うんだけどな。

 ちなみに、神子候補だから巫女装束という風にかけているんだけど、そもそも巫女装束を知らないクリスからしてみれば、ちょっと変わった民族衣装程度の認識でしかない。

 そういうことで、決してクリスを辱めるだけでなく、普通に慈善事業をさせていたわけだ。

 利息代わりとはいえ、勇者を無償で使えるのも俺くらいだろうな。


「あ、コーマさん。お酒がもうすぐなくなりそうです」

「そうか。まぁ、先着1000人って書いてあったしな。もう1000人には配っただろ」

「そうですね、1000人には配ったと思います」

「そうか。じゃあ、今並んでいる人までってことにしようか」


 そう言うと、俺はアイテムバッグから最後尾と書かれた看板を取り出し、俺自身が持つことにした。

 後から来る人には、「定員に達しましたので」と謝罪する。


 そして、クリスと合流してから10分後、振る舞い酒イベントは無事終了した。振る舞い酒用に使っていたテーブルに、「振る舞い酒は終了しました」と紙を貼るのも忘れない。

「コーマさんが素直に借金を許してくれたから、どんな危ない仕事をやらされるのかと思ったら、普通のお仕事でよかったです」

「まぁ、めでたい新年くらいはな。フリーマーケットの福袋がどうだったのかは知ってるか?」

「好評のうちに終了したみたいですよ。私も特選福袋という限定10個の福袋を昨日から並んで買いました」


 お、俺が特別に作った中身の見えない福袋か。

 ちなみに、俺の福袋は中身が気に入らなかった場合のみ、全商品の個別包装が未開封の状態でのみ返品可能としていたんだけど、クリスが言うには返品はなかったそうだ。


「借金している身でありながら福袋を買うなんて余裕だな、とか嫌味は言いたいけど、特選福袋を買うとはお目が高いな。一番のハズレでも転売するだけでもそれなりに儲かるみたいだぞ」


 特選福袋を作るにあたっては、メイベルにいろいろと怒られた。

 高価過ぎるとか、国宝級のアイテムだとか、こんなもの貴族でも持っていませんよ、だとか。


「貴族向けの福袋も買いたかったのですけれど、あれはちょっと高すぎましたし、即完売してしまいました」

「それはクリスには必要ないだろ。中身は化粧水がメインだから」

「それは確かに必要ありませんね」


 クリスには化粧水なんて必要ないと言っているのではなく、クリスはフリマの従業員寮で化粧水が使い放題だからだ。

 アルティメットポーションを配合した化粧水は、ニキビ、シミ、そばかすや肌の荒れなどを一瞬で治す効果があり、貴婦人の間で高値で取引されている。

 ちなみに、貴族向け福袋を買ったのは、貴族から依頼を受けた商人達だったという。なんと彼らは版画広告が刷られて貼りだされた一昨日の夜から店の前に並んでいたというのだから、恐れ入る。

 まぁ、俺もコレクションアイテム入手のためなら48時間だろうが72時間だろうが親父とふたりで余裕で待っていられたけど。


「それで、特選福袋の中身は見たのか?」

「いえ、まだです。買ってからすぐに振る舞い酒の準備をしたので、寮に置いているはずですよ。コーマさんも一緒に見ますか?」

「んー、俺は中身を知ってるからなぁ。でも、メイベルたちもまだ忙しそうだし、クリスに付き合うか」


 フリーマーケットは客が入りきらないくらいの混雑ぶりだし、隣のサフラン雑貨店も同じく賑わっている。

 俺たちは隣の寮に向かった。寮のレストランは今日、明日、明後日は休みのようで、中には誰もいない。

 鍵を開けて寮に入り、


「待ってろ。飲み物を淹れてやるよ。クリスもハッカ茶でいいのか?」

「はい、ありがとうございます」


 俺は台所から勝手にミント茶葉を取り出して準備をする。


「そうだ。クリス、俺の故郷では、一年の計は元旦にありって言ってな。一年の始まりの日の朝に、その年の目標などを考えるのが一般的なんだ」

「それなら、似たような言葉がありますよ。『作物の出来具合は種の植え方で決まる』って言葉です」

 ……んー、それって同じような意味でありながら、微妙に違う気がするんだが。

 でも、言いたいことはわかるからいいとするか。

「それで、クリスは今年の目標はあるのか?」

「私の今年の目標は、騙されないことですね」

「へぇ、それは立派な目標じゃないか」

「はい。あ、ところで、コーマさん。もう仕事も終わったので……そろそろ履いていいですか?」

「何を?」

「えっと、コーマさんが言ったんじゃないですか。この服を着る時は下着を着けたらいけないって。だから、えっと……スース―して」


 ……あぁ、言ったな。確かに言った。


「この服は俺の故郷の服で、神に仕える者が着る服なんだ。下着を着けないのが良しとされているから、着るんじゃないぞ」


 と説明した。ただし、「男性にとっては良し」という意味であり、昨今はノーパンの巫女さんなんてまずいないだろう。

 クリスの奴、俺の説明を信じて本当に履いていないのか。

 一年の計が元旦に破綻しているぞ、この勇者。


「まぁ、お茶を飲んだら、部屋で着替えてきたらいいんじゃないか?」

「そうですね、そうします。この服は可愛いから個人的には好きなんですけどね」


 そう言って、クリスは福袋を開けたようだ。

 特選福袋の中身は、俺の特製のお神酒、銀の髪留めと、ルビーをあしらったブローチ。

 定価、銀貨10枚。フリーマーケットでの買い取り価格は銀貨14枚。仮にこのセットを普通に店で販売すれば銀貨20枚になるという。

 一般客にも売られている福袋なので、物語のオチになるようなひどい商品はない。

 

「あ、このルビーのブローチ可愛いですね。お母さんにプレゼントしようかな」

「転売して借金を返してもいいんだぞ」

「コーマさんへの借金は、ちゃんと私が働いて返します」


 そうかそうか。まぁ、頑張ってくれ。

 別にお金は必要ないんだけど、それでもクリスが汗水垂らして働いて稼いだお金だ。

 貰ったらちゃんと大切に貯金させてもらおう。


「それで、コーマさんの今年の目標は何ですか?」

「俺の目標はルシル料理を――いや、言わないでおこう」


 願い事は言えば叶わなくなる。そんな迷信を信じるわけではないけれど、やっぱり心のうちにしまっておこう。そもそも、ルシルの料理そのものが本来は迷信の類なのだから、迷信に頼るのも必要かもしれない。


「ルシルちゃんの料理を攻略することが目標なんですか? そう言えば、前にルシルちゃんから料理の御弁当を貰ったんですけど、怖くて食べれなかったんですよね」


 そう言って、クリスはあろうことかアイテムバッグからランチバッグを取り出した。


「バカ、クリス! なんてものを出すんだ!」

「大丈夫ですよ。蓋を開けなければ何もおきませんよ。ちなみに、中身は」


 クリスが何かを言いかけたが、それを遮るように内側から蓋が開き――いや、こじ開けられ、そいつらが現れた。

 今まで予想もしていなかった事態に、クリスは言葉を失った。


「……クリス、中身は……言うまでもないが」


 それでも尋ねたところ、クリスはこのルシル料理の名前を告げた。


「……ルシルちゃんはフライドチキンだって言ってました」

「そうか、やっぱりフライドチキンか。畜生!」


 俺はそう叫ぶと、今年の抱負を達成させるために一目散に寮の外へと飛び出した。

 お節を食べたことで油断していた。


 その日、フリーマーケットの空を大量の鶏が舞う奇跡が多くの人に目撃された。

 ただし、その鶏の奇跡の中、ひとつの悲しい事件があったことはほとんど知られていない。


 ……俺の新年の抱負は、元旦から破綻してしまった。 

酉年なので鶏オチです。

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