突然の変異
兵たちが進軍を開始した。
11階層、12階層を順調に進む。11階層のゴブリンたちは避難をさせたが、12階層のウッドゴーレム、ストローゴーレムはそのままにしている。
ストローゴーレムの中にある納豆に、リーリウム王国の兵は一部嫌な顔をしていたが、サイルマル王国の兵は目は虚ろでありながらも統率が崩れる様子はない。
「メディーナ。やっぱり催眠状態を解除したほうがいいな」
「わかりました。ですが、催眠状態にある人間をひとりここまで連れてこないと――」
「わかった。ひとり攫ってみよう」
転移陣が使えたら楽なんだけどな。そうも言っていられない。
そして、兵たちは13階層を素通りするようだ。
俺は通信装置を使い、合図を送る。
すると、突如、13階層の天井付近の隠し空間からスライムが一匹飛び出し、サイルマル王国の兵を攫い、部屋へと飛び込む。
他の兵たちはスライムから兵を救出しようとするが、部屋に入ってしまえばこっちのもの。他の誰も入れない。
「くそっ、離せっ!」
スライムから逃げ出そうとするが、催眠状態にあるとはいえ、末端の兵の力で、うちのスライムから逃げられるわけがない。
そして、床がぱっかりと開いた。
落とし穴だ。
この部屋だけは実はただの部屋ではなく、非常用の脱出口の意味合いもあり、転移陣が使えないとき、俺たちが入れば一瞬にして200階層に移動できる仕掛けを施している。滑り台で。
「メディーナ、落ちてきた。催眠の解除方法を調べてくれ」
「わかりました」
メディーナはそう言うと、部屋を出ていった。
ひとり残された俺は椅子に座り、映像受信器を眺める。
13階層に残された兵たちは、そのまま進軍することになったようだ。
14階層には、狂走竜がいたのだけれども、奴等も全員避難させたので、現在は素通り状態だ。
ただし、宝箱には眠りガスを設置させてもらったんだけど……見事に宝箱を無視していく。
15階層の迷路も、地図を入手していたのか、一列になって通過していった。
さて、16階層。
ここからはBランクの冒険者でも厄介な場所だけれども、あいつらに対処できるかな?
そう思った時だ。
「コーマ様、大変です」
コメットちゃんが部屋に入ってきた。
「どうした?」
「200階層まで落ちて来た人が急に魔物になりました! 今、タラとメディーナさんが対処しています!」
「…………直ぐに行くっ!」
俺は監視室を飛び出して、滑り台の終着点を目指す。
そして、そこで見たのは――服装は間違いなく先ほどまでの兵。だが、その顔はすでに皮膚も眼球も存在しない不死生物のような魔物だった。
「すみません、コーマ様。催眠状態を解除した途端、このような姿に! 石化もできませんでした」
メディーナが目隠しを着けなおし、そう説明をした。
タラが戦っているが……信じられない。タラと互角に戦っている。
「……っ、1000人全部魔物が人間に化けているのか?」
「違います! 催眠状態を解除するまで、彼らは確かに人間でした」
「ベリアルの仕業か」
そういえば、ベリアルは、かつてグリューエルの名でリッチを生み出す研究をしていたと聞いたことがある。
その完成系がこれだというのか。俺は通信イヤリングを使い、ルシルに連絡を取った。
『どうしたの、コーマ』
「ルシル、封印解除第一段階、早く!」
俺が叫ぶと、突如、俺の中の封印が解かれ、破壊衝動が沸きあがりそうになる。
今の俺は竜化をある程度抑えることができるのだが、今回はそのまま力を解放した。
「タラ、どけっ!」
俺がそう叫ぶと、草薙の剣を抜き、その兵を切り裂いた。
胴体を切り裂かれた兵は、全身が一気に燃え上がり――そして塵となって消えた。
一方的な勝負だったが、これは俺が竜化できたからだ。
もしも竜化していなかったら、勝負はどう転ぶかわからなかった。
「……ルシル、まだ聞こえているな」
『何があったの?』
「転移陣の解析をしているところ悪いが、今すぐこっち――滑り台終着点に来てくれ。調べて貰いたいことがある」
俺はそう呟き、今もなお燃えながら、絶命している魔物を見る。
遺体は魔石に変わらない。こいつは、こんな成りになってもまだ人間なのだ。
こいつはタラと互角の勝負を繰り広げた。
もしも全員が同じ変身をしたら――スライムやアイアンゴーレムだけじゃ対処できないぞ。




