守るべきもののため
魔王城前の広場。
「マネット……凄いな。これ、全部お前が作ったのか?」
そこにたのは、総勢5000体のアイアンゴーレムだった。
アイアンゴーレム5000体分の鉄のインゴットを用意したのは俺だけれども、そのうちの500体くらいがゴーレムになればいいやと思っていた。まさか、一週間で全部の鉄をゴーレムにするとは思わなかった。
「……さすがにきつかったけどね。シルフィアゴーレムが手伝ってくれたからなんとかなったよ」
マネットはへとへとになりながらも俺にそう言った。
「コーマには言っていなかったかもしれないけど、僕もこの迷宮は結構気に入ってるんだ。だから、負けたりしたら承知しないぞ。僕はちょっと休むから」
「休むって、マネットはマリオネットだから眠らなくても平気なんじゃなかったっけ?」
「左腕の関節部が痛むんだよ。ちょっと無理し過ぎたみたいだから、自分の体を整備するんだよ」
「アルティメットポーションでも飲むか? あれならお前にも効果あるだろ」
「それは遠慮しておくよ。戦いでは何が起こるかわからないからね。その分、スライムたちには惜しみなく使ってあげなよ」
そう言ってマネットは右手を振って工房に向かった。
小さい背中に男を感じるな。
その期待に応えるためにも、今回の勝負は負けられない。
20階層のボス部屋を突破されたとき、まずは、アイアンゴーレムを使い、敵軍の士気を削ぐ。
アイアンゴーレムに命じ、全員21階層に移動させた。
アイアンゴーレムは、11階層から20階層までにいるストローゴーレムやウッドゴーレム、それにクレイゴーレムとはその性能も力も大きく異なるからな。
すでに、サイルマル王国とリーリウム王国の兵がラビスシティーに入ったという情報が、ユーリとメイベルより入った。
もちろん、全員の寝る場所は用意できないので、一部の兵だけが町の中に入り、他の兵たちは町の外で野営をしているという。
そして、明日。総員で攻撃を仕掛けてくるらしい。
ユーリが信用できる配下に探らせたが、サイルマル国王サイルマル12世――ベリアルの姿はないという。
その代わり、エリエールの姿は確認されたそうだ。
彼女とコンタクトを図ったが、今回、ユーリでもエリエールに接触することはできなかったそうだ。
移動するアイアンゴーレムを見ながら、俺は座った。
「……コーマ、緊張してるの?」
その横に、ルシルが座る。
「ん? あぁ、クリスマス会なんてバカなことをしていたけど、やっぱり今回は今までとは違うからな」
「前にも勇者たちが攻めてきたことがあったじゃない」
「……あの時は勇者が相手だったからな。あいつらは良くも悪くも、引き際を見極めていた。でも、国の兵ともなったら、そうはいかないだろ。最悪、皆殺しもあり得る」
自分で言っておいて、自分が怖くなる。
人を殺すことが当然になりつつある自分が怖くなる。
「……ねぇ、コーマ。逃げてもいいのよ?」
「……え?」
「だって、別にこの迷宮にこだわる必要はないでしょ。南の島にでも全員で移住して、迷宮は放置しちゃえば?」
「はは、そりゃいいな。確かに楽な道だ」
南の島か。そこで、俺は漁師になるのもいいかもな。
マユとその配下たちは最高の環境だろう。
狭い場所だと、カリーヌも喜ぶだろうな。そもそも、迷宮が広すぎるから、全員と一緒にいられないってカリーヌも言ってたし。
アイアンゴーレムを作らせたマネットには申し訳ないが、彼等には畑仕事をしてもらってもいい。野菜はやっぱり必要だ。
コメットちゃんとタラも、俺が行くと言ったらついてきてくれるだろうし、メディーナもきっとついてくる。ゴブカリだって、ゴブリンたちが平和に暮らせる環境なら一緒に来るに違いない。
「ね、いいでしょ?」
「そうだな。本当に最高の提案だ。ルシルにしては珍しすぎるよ。本当に、こんな時にクリスマス会をしようなんて言い出したやつと同じとは思えない」
「何よ、あの時、コーマも乗り気だったじゃない」
「……本当にいい考えだ」
俺はそう言って、何もない地面に寝転がった。
「でも、ダメだ。マネットも言っていたけど、俺はこの場所を気に行ってるんだ。逃げたら楽だけど、一度逃げたら逃げ続けないといけない。そのたびに自分たちの家を失うのは……やっぱり嫌だ」
「後悔……しない?」
「どっちを選んでも後悔するよ。でも、選ばなかったら絶対にもっと後悔する。それで、選んだのがこの答えだ」
俺はそう言って、アイテムバッグから木彫りのブローチを取り出した。
アンちゃんが作ってくれた勇者の証。
今の俺に勇者を名乗る資格なんてないのかもしれない。本当に勇者じゃないけれど。
でも、これは勇者の証は、勇気のブローチという名前のアイテムでもある。
アイテムバッグから隷属の首輪を取り出した。
元々、メイベルに嵌められていた隷属の首輪だ。
俺は彼女に約束した。必ず帰って、一緒にバーベキューをしようと。
「ルシル――お前は最後まで俺についてきてくれるのか?」
「え? 最後までなんてついていかないわよ」
「……おい、そこはついていくって言ってくれよ」
はぁ、なんだよ、それ。ルシルらしいけど、さすがに俺でもちょっとしょげるぞ。
「ついていくって、私が絶対にコーマの後ろにいないといけないじゃない。だから、一緒に行きましょ。どこまでも――」
「……あぁ、そうだな。一緒に行こう」
俺は立ち上がってそう言った。
そうだ、俺は誓ったんじゃないか。あの日、あの時。
俺はルシルのために戦うって。そのためなら、人類を全員敵に回してもいいって。
人類全員に比べたら、たかがふたつの国の軍隊くらい大したことはない。
「ルシル、この戦いが終わったら、俺のために料理を作ってくれ」
「え? いいの?」
「あぁ、俺はお前の料理のためにも頑張りたい!」
「わかったわ。今のセリフ、絶対忘れないから……って、コーマ。その台詞ってフラグって言うんじゃないの? ほら、戦争が終わったら結婚しよう! みたいな」
そんなメタな台詞を言うルシルの頭をくしゃくしゃと撫でて俺は言った。
メタな台詞で返す。
「いいか? 物語の主人公っていうのは守るものが多い方が強くなるんだよ」
まるで自分が物語の主人公であるような台詞を言い、そして、俺は言った。
俺の居場所全てを守ってやる。絶対に。
そのために、俺は戦ってやる。どこまでも。
いよいよ明日、人類VS魔王軍。




