【特別企画】クリスマスパーティー【中編】
「クリスマス料理といえば、やっぱり基本はケーキと七面鳥だよな」
とはいえ、アイテムバッグの中に、鶏肉はあっても七面鳥はない。
本来ならば鶏肉を代用して済ませるところだが、俺はアイテムマスターを自称している――という設定もあったっけな――手前、そんな代用品で済ませるような真似をしたくはない。
「タラ、このあたりで七面鳥のいる場所って知ってるか?」
「七面鳥ですか……確か、南のバラバラ砂漠のサボテン地帯にそのような名前の鳥がいたと思いますが」
あれ? 七面鳥って森の中にいるイメージだったけど、砂漠にいるのか。
「バラバラ砂漠……さすがに遠いな。んー、シメー島にでも行けば、そういう食材が揃っているのだろうが、あの町には転移陣がないし」
「主よ。バラバラ砂漠なら、某の中のゴーリキが行ったことがあります。あの町の水汲み場では、古来の転移陣が使われており、某はそれをこの目で見たことがあります。転移石を使えるのではないでしょうか?」
「ん? いけるかな」
転移石って、見たことがある転移陣ではなくて、使ったことがある転移陣にしか移動できないような気がするし、タラとゴーリキは本来は別人だ。最近、ちょっと忘れがちだけれども、コメットちゃんも、タラも、肉体はコボルトから変異したものだし。
でも、まぁ試してみてもいいかな。試すのは無料だ。砂漠にいったら、サボテンとかをアイテム図鑑に登録したいし。
よし、行ってみるか。どうせタラがいてもクリスマスの準備をできるとは思えないし。
「行くぞ、タラ」
「はい、主よ」
俺とタラは手をつなぎ、タラに転移石を持たせて、会議室の壁に描かれた転移陣にジャンプし――ルシル迷宮の十一階層にいた。
十一階層は昔は俺たちの脱出用の階層だったが、今では冒険者のガチャ広場であり、注目を浴びた。
「おい、あれって白光のクリスティーナさんの従者のコーマじゃないか?」
俺も随分と有名になったものだ。
「そんなことより、隣にいるのは今年の唯一の勇者試験合格者のタラさんじゃないか」
……タラの主人である俺のことをそんなこと呼ばわりしてくる奴がいた。
「うおぉぉ、タラさんのことを見るのはじめてだ」
「やべ、俺、あの子なら抱ける」
「うわ、お前ってそういう趣味なのかよ」
口々にそんな声が飛んでくる。誰だよ、タラをショタっ子と見ている奴は。
そして、タラはさん付けで、俺は呼び捨てなのかよ。
別にいいんだけどな
……ここで十一階層の転移陣に飛び込むのはまずいよな。この転移陣は他の転移陣からの一方通行という設定になっているし。
仕方ない、一度十階層に戻るか。
あそこにいけば、地上に戻る転移陣があるから、そこから魔王城に戻ろう。
俺は梯子を上り、十階層へと移動する。
「主よ。そう言えば、砂漠の迷宮がありました。そこにいけば、七面鳥がいるやもしれません」
「本当か? 確かにその可能性はあるな。ついでに砂漠でしか手に入らない素材も採取していこう」
骨の迷宮も砂漠といえば砂漠だったけれども、あれは骨の砂だったし、サボテンも生えていなかったからな。バベルの塔の砂漠は観光なんてしている暇はなかったし。
そうだ、サボテンでデザートを作ろう。確か、果物を実らせるサボテンがあったはずだ。
日本でも名前はそれなりに知られていた、ドラゴンフルーツという果物もサボテンの果実のはずだし。鑑定スキルがあれば、毒を持っている果物かどうかの区別もつくからな。
「よし、行ってみるか」
「それではこちらです」
タラが俺を案内してくれる。なんでも、勇者はその講習において、現在冒険者ギルドが管理していて、勇者が出入りできる迷宮の場所は全て知らされているのだとか。
クリスはそこを適当に聞いていて全然頭に入ってきていなかったのか、迷宮の案内もほとんどできなかったからな。
そう言えば、ベリアルの迷宮もこの迷宮のどこかにあるんだよな? 前に行った迷宮の入り口の場所がよくわからないけれど。
案内されたのは普通の階段だった。
そして、普通の階段だからこそ、俺は驚いた。これが転移陣による移動だったらこうは驚かなかっただろう。
何故なら、迷宮の中に空が広がっていた。十一階層で、十階層の床と十一階層の地面の高低差は五メートル程度しかなかったはずなのに――明らかに五メートル上に天井がない。
よく真上を見ると、輝く壁があるけれど、その高さは百メートルはある。
「相変わらず、十一階層より下は法則無視の空間だな」
地面の砂を掬い上げ、指の間から零れ落ちるのを見ながら、俺はそう感想を漏らした。
広がる砂漠。階段の傍に黄色いサボテンが生えていたので、とりあえず剣で切り裂いて、アイテムバッグに入れておく。
「あと欲しいのは――そういえば砂漠にだけ咲く花とかはないかな」
「砂漠の花ですか……サボテンの花なら咲きますが」
「そうか、とりあえずサボテンを採取しにいくか。七面鳥を探すついでにな」
それでも見つからなかったら、その時は仕方がない。鶏を代用しよう。
「いえ、七面鳥がいたらすぐに見つかりますから、サボテン探しに集中しましょう」
「七面鳥ってそんなにすぐに見つかるものなのか?」
俺の問いに、タラは頷いた。
野生の嗅覚だろうか? そういうのならタラを信じよう。
そして、俺たちはサボテン採取に勤しんだ。
サボテンの果実も手に入れた。名前は、さっき思っていた通りのドラゴンフルーツだ。
そして――
「主、七面鳥が現れたようです」
「そうか、ようやくか。それで、どこにいるんだ?」
周囲の砂漠の上を見渡しても、鳥がいる気配はない。
「主、上です」
「上?」
おいおい、七面鳥は渡り鳥のように空を飛ぶことはできないだろ。飛べてもせいぜい高さ三メートル程だ。一体、何と勘違いして――
と空を見上げ、俺は――
「なんだ、あの怪物」
「だから、七面鳥です」
「首が七本生えているんだが」
「七面鳥ですから」
「それぞれの口から炎や吹雪、雷、闇の息とか噴き出してるんだが」
「七面鳥ですから」
「この世界の七面鳥ってあれなの?」
「ええ、そうです」
……俺の知っている七面鳥とは全然違うな。あれはどちらかといえば怪獣の類だ。キングギドラが進化した存在じゃないだろうか?
ドー〇リオだってあそこまで無茶なフォルムはしていないぞ。
「……どうしよ」
倒すのは簡単だ。あっという間に倒せるだろう。
でも、あれ――食べられるのか?
とても不味そうな存在に、倒していいものかどうか不安になった。
メリークリスマス!
私の今日の晩御飯は――焼き鳥でした!




