狂った計画
魔王城に帰った俺は、さっそく草薙の剣をルシルに見せた。
ルシルは草薙の剣をじっくりと眺める。
「へぇ、これが草薙の剣なの……どう? コーマもアイテムクリエイトで作れるの?」
「いや、材料を聞いていないからな。ヒヒイロカネの合金をひたすら作っていけばいつかは作れるかもしれないが」
何種類かのヒヒイロカネの合金は俺も作ってみたが、ほとんどの合金は使い物にはならなかった。
とりあえず、この草薙の剣はアイテムバッグに入れておき、炎が弱点の敵とかが出てきたときに使うとするか。
通常のヒヒイロカネの剣は氷の剣だから、そういう意味では攻撃の幅が広がったことになる。
「それで、どうだ? 迷宮のほうは」
「大盛況ね。凄いことになってるわよ。メダルの出現率は減らしたけれど、それでも冒険者の数はうなぎのぼりで増えているわね」
「白金メダルの伝説当たりは?」
白金メダルのガチャの中には、排出率0.01%以下といえ伝説当たりを設定している。
聖銀メダルだとその出現率は五割にまで跳ね上がるが、現在、聖銀メダルの出現は一カ月に一枚だけにしているので、初日の三回以降は誰も聖銀ガチャを回せていない。
「今出たのは、アルティメットポーションミニボトルと、七色宝石ブローチね」
「七色宝石ブローチは出たのか」
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七色宝石ブローチ レア:★×7
七種類の宝石がちりばめられたブローチ。
光を当てると虹色に光り輝く。
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ちなみに、ベースになっているのはプラチナ。買い取り価格(推定)は金貨300枚。
アルティメットポーションミニボトルは、50ccしか入らない小瓶に入れたアルティメットポーションのことだ。これだと大怪我なら完全に治療することはできないが、それでも従来のポーションなどとは比べ物にならないし、大体の病気も治すことができる。買い取り価格もかなりのものだろう。
ちなみに、ハズレの品はポーションの他に、ボス部屋でスライムたちが冒険者から剥いだ装備類などを、シルフィアゴーレムが新品同様に磨き直して出している。
20階層まで到達できる冒険者たちの装備だから、そこそこいい物が使われていてハズレだけれども評判はいい。
中には、20階層で装備を失った冒険者が自分の装備を引き当てたが、それが自分の装備だとは気付かずに喜んでいたということもあった。
それだけシルフィアゴーレムの装備の整備の腕がいいということだろう。
「そう言えば、コーマ。迷宮に冒険者が増えたせいで、瘴気から魔物が生まれていたわよ」
「本当か!? なんて魔物だ?」
「……えっと、レッドスライム。カリーヌが喜んでたわ」
「……またスライムか」
なんでうちの迷宮はスライムしか生まれないんだろう。
さすがにルシルも残念そうだ。
「ちなみに、生まれたてのレッドスライムも、普通にミノタウロスより強かったわよ」
「それも異常だな。レッドスライムの管理はカリーヌに任せよう。カリーヌもやる気を出してるし、全員よく言うことを聞いてくれている」
「そうね。最近はスライムも畑を作って野菜や薬草を育てたり、錬金術の真似事でポーションを作ったりしてるの。白金貨ガチャのハズレのポーションも、全部スライムが作ったポーションよ。瓶はシルフィアゴーレムが作ってね」
「……そういえば、確かに俺ってあんなにポーションを作ってなかったよな。てっきり誰かが店で買って来たのかと思ってたよ」
この様子だと、当たり景品をいくつか用意しておけば、当分は景品の心配はなさそうだ。
「じゃあ、俺はブンドから聞いた素材の場所を探索に行くか。あぁ、でもその前に、ブンドにつまみを持って行ってやらないとな。酒ばかりで当てがないってのもつらいだろうし」
「あ、コーマ。それじゃ、私が作ってもいい? ポテトチップスって言うの? 芋を薄く切って揚げるだけだし、私にもできるわよ、きっと」
「お前はブンドを殺すつもりかっ! ていうか、ポテトチップスみたいな数の多いお菓子は作るな。一斉に襲い掛かられたら対処できない」
「私の料理は全員いい子だから、コーマがきっちり食べてくれるなら襲い掛かったりしないわよ」
ふてくされるルシルの頭をぽんぽんと叩き、
「安心しろ。ブンドには食べさせないが、明後日にでもなったらお前の料理を食べてやるよ。月に一回は食べる約束だろ?」
優しい声でそう言った。すると、ルシルは上目遣いで俺に礼を言う。
「……ありがと、コーマ。ねぇ、今度から月に二回に――」
「しない。絶対に」
さすがに一度食べた毒を抜くには、半月では足りないよ。
とりあえず、これでブンドの命は救われたな。
※※※
コーマが帰った後、ワシはコーマがくれた梅酒という酒を飲んでいた。
甘くて、酒精も少ないが、それでも独特のコクがあり、中々に旨い。客人を迎える時に飲むにはこのくらいの酒でいいだろう。
「やぁ、ノーム。元気そうだね」
そう言って、そいつは現れた。子供の姿をしているが、見たままの人間ではないことはもちろんすぐにわかる。
「なんだい? その顔は――あぁ、この姿で来るのは初めてだったね。なら、これならどうだい?」
そう言うと、子供は皺混じりの老人の姿になる。その姿は知っている。人間の世界でグリューエルと呼ばれた学院長の姿だ。
しかし、それもまた本当の姿ではない。
「久しぶりだな――ベリアル。お前も酒を飲むか?」
「いただこう」
ワシはコーマから貰った酒とは別の――大した価値もないワインを瓶のままベリアルに投げた。
ベリアルはそれを受け取ると――手も触れずにコルクを抜いた。
そして、奴の影が手の中に集まったかと思うと、その影がワイングラスの形になり、そこに注いだワインを飲んだ。
「随分と安物のワインのようですね」
「自分用の酒だ。それでも十分だよ」
「あなたが今飲んでいるお酒を貰えませんか?」
「大事な友から貰った酒だ。お前などにはやらんよ」
「かつてあなたの封印を解いた、そしてあなたに魔王という力を与えた友である私の頼みでもですか?」
「ワシは貴様のことを友だと思ったことは一度もないよ。かつて貴様に頼まれて武器を打ったあの時もな」
「村雨、レーヴァテイン、デュランダル、ジュワユーズ、グラム。全て有効に使わせて貰っています。おっと、グラムだけは今はありませんが」
「……ふん、それで何をしに来た」
「七本目の剣が完成したと聞きました。エクスカリバーの時の二の舞は御免だったのですが……どうやら一歩遅かったみたいですね」
「あぁ、あの剣はもう――」
あの剣はもうない。コーマに渡した。
してやったりと言った感じだ。梅酒を飲む。
うん、うまい。
「コーマに……ルシファーの忘れ形見に渡したんですね。十分です」
「コーマが、ルシファーの忘れ形見だと!?」
「ええ、彼の体の中にはルシファーの力が眠っています」
ワシは思わずグラスを落としてしまった。
しかし、だとすると解せぬ。コーマの中は探らせてもらったが、ルシファーの気配は。
ワシはベリアルがしようとしていることと、コーマの現状。様々な状況を整理していく。
そして、一気に酒をかっくらった。
「がははは、そうか。コーマの奴がルシファーの……そいつは面白い」
「ええ、私もとても愉快です。それでですね、ノーム。貴方の役目はもう終わりました。七本の剣を作り終えたことで」
そう言うと、ベリアルは子供の姿へと戻り、ワシに手のひらを向けた。
「ベリアル、お前はまだ還ることを望んでいるのか? どうだ? この地に共にとどまらないか? ここにも旨い酒はあるし、楽しいことも多い。貴様がこの地に残るというのなら、本当に友として、共に酒を酌み交わしてもいいと思っているが」
「4000年前にも言いましたよね。私には使命があると。さようなら、古き精霊よ。あなたは還るべき場所へと戻りなさい」
そう言うと、ワシの体から力が抜ける。そう、ワシの力は本来は、あの時――迷宮を作り出したときに失われていた。
それがベリアルの策のせいで肉体を得て、ここまで生きることができた。
「覚えておけ、ベリアル。全て貴様の思い通りに行くと思うな。貴様の計画は既に破綻している。きっとな」
ワシのその声は果たしてベリアルに届いたのか――その返事を聞く前に、ワシの耳も口も目も鼻も失われていく。
せめて死ぬ前に、コーマの作ったあの梅酒の梅の実を齧っておきたかった。
そして、その日。
ひとつの迷宮が滅び去った。




