事後の報告と彼女の近況
被害報告が次々に上がってくる。
ゴブリン3匹、リザードマン20匹、ミノタウロス4体。マユの配下の魚も15匹死んでいる。狂走竜は3頭。ゴーレムに関しては数えきれない数になっている。
怪我人の数ではない、全て死んだ者の数だ。
「……はぁ、覚悟はしていたが、やっぱり配下が死ぬのは精神的に辛いな」
俺も冒険者の時は魔物を殺すのに躊躇はしないし、魔物を殺すことに対する罪悪感もなかった。だが、配下の魔物となるとこうも違うものなのか。
特にゴブリンたちは魔王軍にとっては初期段階からのメンバーだから、できればあまり死んでほしくなかった。
意図的に11階層には白金貨やアイテム等は配置しないようにしていたし、ゴブリンたちもよく戦ってくれたので、3匹という成果を残せた。
ちなみに、迷宮攻略がはじまったその日から、150階層から190階層までを子育てと訓練用のエリアとして開放していて、今日死んだ数以上に新たな生命が誕生しているので、迷宮としては十二分に成り立っている。
ちなみに、20階層に到着した冒険者は本日37名、内ボス部屋に突入したのは8名。
全員、スライムに丸呑みにされ、剣や盾など、一部の装備を引っぺがされて強制的に11階層への転移陣へと送り返されていた。
全員がミノタウロスをソロで撃破できるレベルの猛者5人がかりでも、うちのスライム一匹を倒すことはできない。
それと、白金貨はいい具合に冒険者の間に浸透した。
聖銀貨が初日3枚というのは少し少なかったけれど、その聖銀貨を使った三人は全員激レアアイテム(俺にとっては簡単に作れるアイテム)を手に入れた。
これで、当初の目的のひとつが達成された。
つまり、俺の迷宮が危険な場所だという認識はなくなっただろう。
明日からは聖銀貨のアイテムの価値を少し下げようと思うけど。
聖銀貨を使った三人の冒険者のうち二人は冒険者を引退すると言い出して、そのうち一組は仲間同士で喧嘩になっていた。
殴り合いにまで発展しそうになったところで、周りの冒険者に止められていた。
ちょっとやりすぎたのかもしれない。一番価値が高いであろう魔力の聖薬を手にしたカップルらしき冒険者が、すんなりとそのアイテムを自分たちの成長のために使っていたから行けるかと思ったんだけどな。
「これって、ガチャよね。コーマって、ガチャとか嫌いじゃなかった?」
「俺が嫌いなのはスマホゲームのガチャだ。本来の意味でのガチャは好きだぞ」
スマホゲームなどでよくあるガチャは、コンプするのにお金はかかりすぎるし、終わりも見えないから嫌いだ。
だが、本来のガチャ、100円硬貨を入れてガチャガチャをダイヤルを捻るガチャは大好きだ。全六種類や全八種類など、コンプは比較的しやすいからな。
そう言えば、小学校の頃、よく一緒にガチャをしていた友達、元気にしてるかな。あいつは俺と違って物を集めることというよりかは、ガチャそのものに執着している感じがあったけれど。でもよくダブった物をトレードしあったものだ。
そんな過去を懐かしみながら、俺は今日の結果をレポートに纏め、ユーリに報告に向かった。
※※※
ルルが俺の作ったぴよ子饅頭(福岡発祥、東京名物の銘菓に似せて作ったお菓子)とにらめっこしている間、ユーリは無言でその書類に目を通した。
ユーリが見ている書類って、ルルの頭で処理できているのだろうか? そんなことを考えていると、ユーリは笑顔で言った。
「やり過ぎだ」
そう苦言を呈された。冒険者から他の迷宮の解放の要求は一気になくなったそうだが、一部勇者から、この迷宮の冒険者の立ち入りを禁止し、勇者にだけ解放するようにと要求が来ているそうだ。
やり過ぎだとは言われたが、内容はこのままでも構わないと言ってくれた。ただし、アイテムの価値をもう少し下げるようにとは言われた。
それは俺も思っていたことなので、素直に従う。聖銀貨の表面もミスリルではなく、ミスリル一割、銀九割の合金を使い、聖銀貨の価値そのものを下げることにした。
「それと、例の話だが――」
「……クリスのことか?」
さすがに、俺もクリスについてはいろいろと気になっていた。
調査をしてもらった結果、コースフィールドに続く門を通ったところまでしかわからず、その後の足取りが完全に途絶えていた。
その続きをユーリには調べて貰っていた。
何しろ、もう一カ月。少しは心配する。
「リーリウム王国の王城に入っていくところを見たという報告が入った。信憑性のある話だ」
「リーリウム王国? いつのことだ?」
「彼女が行方をくらましてすぐのことだ」
……つまり、クリスの奴、リーリウム王国に一カ月以上もいるということになるのか。
それが本当なら、クリスはおそらくもう……
「無事では済まないだろうな」
ユーリは神妙な面持ちで言った。俺も同じことを思っている。
「……クリスの奴、ついに貞操を奪われちまったか」
俺もまた神妙な面持ちで言ったが、内心はほっとしていた。
あの城の中にいるっていうのなら、きっと国賓のような待遇を受けて楽しく暮らしているだろう。




