初めてのルシル迷宮探索物語 その5
11階層の白金貨販売店のの買い取り価格は、銀貨5枚だった。安すぎるんじゃないかな?
そう思ったが、なんでも白金貨は一日潜ったら平均4枚~5枚手に入り、しかも白金と言いながら、それは表面だけで、中身は鉛らしくその価格なんだとか。芸術的価値も、今後、この迷宮で白金貨が手に入り続けるとしたら価格は落ちるだろうということで、銀貨5枚が妥当なんだという。
まぁ、僕も白金貨を二枚手に入れたから、確かに一日で銀貨10枚の報酬は破格といってもいいと思う。
そう思っていたんだけど、
「おい、誰か! 白金貨を売ってくれ! 銀貨6枚出す!」
「俺は銀貨6枚と銅貨20枚だ! 頼む、誰か売ってくれ!」
「おい、うちの店の前でそんな交渉するなっ! 白金貨が欲しければうちで買えっ! 一枚銀貨7枚だ!」
……うん、やっぱり銀貨5枚は少し安いみたいだ。
みんな商売熱心だね。
「カリナ、どうする?」
「私たちもメダル入れようか。面白そうだし」
「そうだね」
ということで、僕とカリナは列の一番後ろに並んで、順番を待つことにした。
壁から出てくるアイテムは本当に様々だった。千差万別と言ってもいいかもしれない。
一番のハズレは、ポーションだろうね。結構ポーションの出現率は高い。十回に三回はポーションみたいだ。
三連続ポーションが出てきている人がいて、腹がたったのか壁を全力で蹴っていた。直ぐに後悔していたけど。迷宮の壁ってとても硬いからね。
少し前に出て気付いたんだけど、壁の前で出てくるアイテムをチェックしている人がいた。
「何をしているんだろう?」
そう小さく呟くと、僕の前に並んでいた男の人が教えてくれた。
彼は出てくるアイテムに何らかの法則性があるんじゃないかと、出てくるアイテムを調べているんだという。法則がわかれば、欲しいアイテムが自由に手に入ると思っているんだろうね。
そういうことは僕にはできない。本当に法則性があればいいね。
そうこうしていたら、僕の前の人の順番になった。
何が出るのか気になっていると、出てきたのは薬瓶だった。
薬瓶には、丁寧にも「力の妙薬」と書かれたタグがついている。
力の妙薬って、確か飲めば一時間の間、力が五割増しになる薬だよね。勇者試験の間はものすごい高い値段で売れていたけど、今でも銀貨二〇枚で買い取ってくれるんじゃないかな?
当たりだ、いいな。
そう思っていたら、前の男の人は軽く舌打ちをした。
え? それで満足できないの?
もしかして、もっといいものが出るのかな?
次は僕の番になった。
「…………よし」
僕は意を決し、白金貨を壁の中に入れた。
すると、ガタンという音とともに、薬瓶が出てくる。見慣れた薬瓶。
「……ポーションだ」
ハズレだ。
「残念だったね、ラキアくん」
「うん、カリナ、任せたよ」
「任されるけど、でもこれってやっぱり運だと思うから、あまり期待しないでね」
カリナは苦笑してメダルを入れた。
そして、それは落ちてきた。
「……私もポーションだった」
残念、二人ともポーションだ。
運がないなぁ。
「……悔しいね」
カリナが言う。
「うん、本当に悔しい」
そう思っていたら、僕の次にメダルを入れた人が、純銀の熊の置物を引き当てていた。
……ひとり前だと力の妙薬で、ひとり後だと純銀の熊の置物だったのか。
とことん運がないと思う。
「残念だったな。まぁ、そういう日もあるさ」
力の妙薬を手に入れた男の人が僕の肩を叩く。彼は力の妙薬にはあまり納得していないようだったけれど、その後に続いた僕たちの結果が散々だったので嬉しそうだ。
「……ねぇ、ラキアくん。もう一回しない?」
「え? でもメダルはもうないよ?」
「あるじゃない、これが!」
そう言って、カリナは僕の鞄の中から、聖銀貨を取り出した。
それを見て、驚いたのは、力の妙薬を手に入れた男だった。
「……おい、それ、聖銀貨じゃないのかっ! どこで、どこで見つけた!」
「何? 聖銀貨だと!」
「本当にあったのか、聖銀貨がっ!」
「なんだと! 俺、一九階層まで行っても見つからなかったのに」
「銀貨一枚払う! どこで拾ったのか教えてくれ!」
「俺も、俺も頼む! 銀貨一枚払う」
「俺もだ」
……凄いことになった。
冒険者にとって情報を得ようとしたら対価が必要だということは常識だけど、全員が銀貨を払ってまで知りたい情報だったなんて。
結果、三〇人に対して僕はその情報を売ることになった。
十五階層の宝箱の裏に貼りつけてあったことを話すと、半数の、恐らく、他の冒険者を出し抜けると思った冒険者が即座にいなくなった。
そして、もう半数は、僕たちに何か期待の眼差しを送る。
つまり、聖銀貨を使えばどんなアイテムが出てくるかが気になっているのだろう。
ここでやっぱり使いません、なんて言ったらブーイングものだ。幸い、銀貨三〇枚の臨時収入も得られたし、これも情報提供の一貫だと諦めることにした。
僕とカリナは誰も並んでいない聖銀貨の投入口に、ふたりで一緒に聖銀貨を投入した。
すると、ガタンと音を立てて、それは出てきた。
「……薬瓶?」
ポーション二連続の悪夢が蘇る。
僕はそれを持ち上げる。
あれ? ポーションは赤色だけど、これは緑色?
グリーンポーションかな? そう思ってタグを見た。
「……魔力の聖薬?」
僕がそう呟くと、周囲からこれまでにないどよめきが巻き起こった。
「お前、魔力の聖薬といえば、魔力が恒久的に3%上昇するアイテムだぞ! 売れば……金貨一〇〇〇枚くらいになると思うぞ」
「金貨一〇〇〇枚!?」
それだけあれば、二人揃って人生三回くらい遊んで暮らせる。
凄い……凄いよ。そんな貴重なアイテムが、こんなところで手に入るなんて。
「……でも」
これを売って、冒険者を引退しても僕はたぶん幸せにはなれない。だって、僕はカリナとふたりで冒険をするのが一番楽しいんだから。
「ねぇ、カリナ。早速飲んでみなよ」
「え? でも……これを売ったら」
「僕は、これからもカリナの魔法に助けられる日が続くと思うんだ」
「いいの?」
カリナの問いに、僕は無言で頷いた。
すると、カリナは微笑み、瓶の蓋を開けて一気にそれを飲み干した。
遠巻きに見ていた人たちから、「勿体ない」という声もあがったけれど、これでよかったんだと思う。
こうして、僕たちのはじめてのこの迷宮の探索は終わったけれど、また今度来ようと思う。
でも……今度来るときは……
「うーん、魔力が上がったのかな……すぐにはわからないや。あれ? どうしたの、ラキアくん」
「ううん、なんでもないよ」
今度来る時までに彼女にちゃんと告白しないとね。




