初めてのルシル迷宮探索物語 その3
13階層はいろいろと凄いことになっていた。
「テレビでこういうのあったわよね。当たりに入れば現金が貰えて、ハズレに入れば水が落ちてくるやつ。あれを元に作ったのよ」
日本のテレビにも詳しいルシルが胸を張って言った。
確かに、13階層の光景を見ていると、迷宮探索をしているというよりかは、バラエティー番組の罰ゲームを見ているみたいだ。
ちなみに、この部屋で起こるイベントは500種類あり、うち200種類は魔物と戦う魔物部屋だ。
ルシルが召喚して繁殖させているリザードマンや、マネットが作ったクレイゴーレム等。あとは天井から流れ出て来て、マユの配下の魔物と戦うこともある。
魔物の登場は全て転移陣を使っていて、魔物の待機部屋から出現し、魔物が一定以上の傷を負うと強制的に待機部屋に戻される仕組みだ。
もちろん、いきなり絶命してしまった魔物はその場で息絶えてしまうのだが、少しでも息があれば待機部屋に常駐している七匹の大天使スライムの加護により全回復する。
100種類は宝箱の部屋。ポーションや剣、食料や宝石の原石など様々な種類のアイテムが出現する。現在、冒険者がお持ち帰りしたアイテムで一番豪華なアイテムは、プラチナでできた竜の人形(原価無料、フリーマーケットでの買い取り価格金貨20枚)だ。ユーリからは銀貨10枚前後にしてくれと言われているが、ルシルが「私の作った階層なんだから、大当たりはちょっとはいいアイテムを用意してよね」と言われたため、そこそこいいアイテムを置かせてもらった。
100種類は試練の部屋。ミッションが発生し、そのミッションを達成したらアイテムが手に入り、失敗したら11階層に強制転移となる。これは本当にバラエティー色が強く「一分以内に激辛ドリンクを飲み干せ」だとか「一分以内にテーブルの上にある石の数を数えよ」だとか、「三分以内に天井からぶら下げられたパンを取れ」、「20秒以内にテーブルの上の辞書を使って〇〇という言葉の意味を調べよ」みたいな内容だったりする。
100種類は罠の部屋。罠といっても命に関わるものは何もない。水が落ちてきたり、粉が落ちてきたり、泥が落ちてきたりは序の口。強制的に11階層まで転移されてしまったり、最悪丸一日部屋に閉じ込められることもある。
ちなみに、部屋の管理は、シルフィアゴーレムが数名で行っている。
彼女たちは休む必要がないからな。24時間働ける。他にも主要な迷宮のシステム管理は彼女たちが行うことになっている。
「最初はどうかと思ったけど、この階層に夢中になってる人も多いみたいだな」
「そうでしょ? 私も見ていて飽きないわ。見てよ、天井の上からつるされたパンを取ろうとして脱いだ服を繋ぎ合わせてその先に剣を括りつけて振り回してるわ」
「本当にバラエティー番組みたいだな。この映像を録画して売り出すことができれば、それなりの金になりそうな気がする」
もちろん、映像や音声の録画媒体がこの世界には存在していないと思うので、実現は不可能だけれども。
「おっ、一部の冒険者は15階層まで到着してるな。攻略速度的には概ね予想通りか。14階層は一気に走り抜けている冒険者のほうが多いな」
14階層は俺が担当した。俺には本来、直属の配下の魔物はいないのだが、アークラーンに生息し、俺に懐いてしまった魔物たちを全て引き取ることにした。
そいつらは現在、広い14階層を思う存分走り回っている。
※※※
「………………」
「………………」
気まずい空気が僕とカリナを包み込んでいた。
結局、カリナは尿意をギリギリまで我慢して、ギリギリで我慢できなくなってしまった。
「だ、ダイジョブだよ、全然聞こえなかったし。ほら、僕、言われた通りにずっと歌っていたから」
「…………うん」
き、きまずい。冒険者になってから、トイレの無い場所の移動が多く、草むらや、ダンジョンの隅でトイレを済ませることはよくあることだけれども、カリナも同じ部屋の中でトイレを済ませるのははじめての経験だったから落ち込んでいるようだ。
「あぁ、でもよかったじゃない。僕たちが部屋を出たら綺麗な部屋に戻ってたんだし」
「……ラキアくん、もうこの部屋のことは忘れさせて。それより、14階層に行こうよ」
「……そうだね」
ということで、僕たちは14階層を目指そうとして――閉まっていた男から、さっきの粉塗れの男が出てきた。
「いう! いうおってあいあ?」
男は口を開けて、涙目でそんなことを叫んでいた。
「いう?」
「いうあおいう!」
そう言って、男は何かを飲む仕草をジェスチャーで伝えた。
あぁ、いうって、水のことか。
僕は持っていた3本の水筒のうち、飲みさしの一本を男に渡した。
男はその水筒を受け取ると、一気に飲み干した。僕は空になった水筒を受け取る。
「あぁ……助かった。死ぬかと思った」
「何があったんで……ぷっ……何があったんですか?」
「激辛ドリンクを飲み干したらアイテムが貰える部屋だったんだよ。それでこのざまだ。なんとか11階層への強制転移は免れてアイテムも貰ったが、水を全部飲み切っちまった。ほら、これ水の礼だ。白金貨3枚貰ったから1枚やるよ」
男はそう言うと、僕にプラチナのコインを1枚くれた。やっぱり、みんなもこれが白金貨だと思っているようだ。
そして、男が立ち去ったのを見て、僕とカリナは堪えていた感情を一気に吐き出した。
「見た? あの人の顏」
「面白かったね。全身粉塗れなのに唇を真っ赤に腫らせて、口の周りだけ粉が取れていて」
「うん、本当に面白かった」
あの男の人のおかげで、さっきまでの重い空気が一気に消え去った。
よかった。
そして、僕たちは今度こそ14階層に向かった。
途中で引き返す冒険者も多くいた。満ち足りた様子の人もいたら、少し落ち込んでいる人もいる。
14階層はどんな場所なんだろうか?
そう思いながら、僕は階段を下りていった。
「よかった、今度は魔物の一覧もある……14階層に出てくる魔物は――え……」
「狂走竜……って、あの狂暴な走竜だよね」
「一緒にいるのは玉ネズミ。繁殖力だけが特徴のネズミ……狂走竜のエサだよね」
狂走竜の強さはCランク冒険者が一対一でなんとか倒せるくらいの魔物だけれども、その恐ろしいところは、集団で狩りをすることだ。
これまでのお遊びとは全然違う。
本当の意味での迷宮探索はここから始まる……のかもしれない。




