情報収集の島の地図
~前回のあらすじ~
クルトくんの職場は思ったよりブラック企業のようです。
「マユ姉さんを助けてください」
ランダは14,15歳くらいの金髪三つ編みの少女。
再度そう頼む彼女の目に涙が浮かぶ。
だが、当然、私にはそれがどういう意味かはわからない。
「えっと、少し事情がわかりませんので、マユお姉さん? について教えてもらえませんか?」
「あ、すみません……マユ姉さんは、この家に閉じ込められている女性の名前なんです。私はマユ姉さんの妹になるために養女として迎えられました」
「妹になるために?」
そこで、私は彼女が言ったことを思い出しました。
「もしかして、それが人質になるってこと?」
そう尋ねると、ランダはコクリと頷いた。
「マユさんもフリードさん……の娘さんなの?」
「いえ、マユ姉さんは、この島の守り神です」
「守り神?」
「フリードがそう語っていました。マユ姉さんは――」
「おい、ランダ! ランダはいるか? クリスティーナ様も一緒だな」
突如、扉が叩かれ、フリードさんの声が響いた。
ランダはきつい表情で扉を睨みつけ、咄嗟に笑顔に変わり、扉を開けてフリードを出迎えた。
「はい、お父様! クリスティーナ様に地上のことを伺っていたんです。話でしか聞いたことのない場所でしたので」
「そうか。クリスティーナ様に島の地図をお渡しすることと、あとお願いがあってまいりました」
「お願いですか……何でしょうか?」
「クリスティーナ様は眼帯を付けた女海賊と戦ったと聞いております」
「……はい、シミター使いの女性ですね」
「その女海賊を、できることなら生きたまま捕らえてほしいのです」
「元より海賊を殺すつもりはありません」
問答無用で人を殺す海賊ならまだしも、彼女達は襲った船の乗組員を誰一人殺していなかった。
ならば私もできることなら彼女達を殺したくはないと思っていた。
「ありがとうございます。それでは、海賊の島までの案内は部下にさせましょう。今日は当館でお休みになり、明日、港においでください」
「あ……そうか、海賊のところに行くには船が必要ですね」
何も考えずに食堂を出て行ったけれど、考えてみれば海賊の場所も海賊のもとへ行く手段も考えていなかった。
「ええ。島に住む、病で苦しむ皆のための仕事です。我々にできることならなんでも仰ってください」
「それでは、一度島を見て回りたいと思います」
いい人なんだと思う。
島に住む皆のためにここまでできるような領主は滅多にいないでしょう。
ただ、ランダの言った話が気になりますが。
「では、部下に案内をさせましょう」
「ありがとうございます」
とりあえず、まずは病気で苦しむ人を助けるのが第一ですね。
コーマさんがいたら、変な薬で治療してあげられるかもしれません。
でも、コーマさんも何か考えがあって行動をしている気がするので、私には私のできることをしましょう。
玄関に行くと、初老の男が私を待っていた。
「クリスティーナ様を御案内するように仰せつかったブランモードと申します。ブランとお呼びください」
「ブランさん、では、まずは病院に行きたいんですが」
「病院でございますね、かしこまりました」
そして、私は島の地図を見ながらもブランさんの案内で島を見て回ることになったのですが、どこに行っても誰に聞いても似たような話しか得られませんでした。
風土病の原因についてはわからない。
そして、フリードのおかげで病気を抑えることができて助かっている。
海賊については漁師達が襲われることはない。
その程度でした。
守り神についても聞きたかったのですが、仮にランダの言っている通りフリードが何らかの理由で守り神を監禁しているのなら、ブランの前で聞くのはいけないだろうと思い、話を聞けないでいた。
一通り情報を集め終わり、フリードの屋敷に帰ろうか、そう思った時だった。
ブランの目が虚ろになり、近くにあったベンチに座った。
まさか、病気に!?
そう思ったが、違ったようで……
「久しぶりさね、クリス嬢ちゃん」
聞き覚えのある声でそう言ったのは、杖をついた呪術師風のローブを身に纏った老人。
「ジューンさん!?」
思わぬ再会に私は驚いた。
七人の英雄の一人、雷焔の魔術師ジューン。
「どうして、ジューンさんがここに?」
「目的は一緒さね。ワシもこの町に調査に来たのさね。彼にはちょっと眠ってもらっただけね」
そう言い、ジューンさんはブランが座っているベンチの横にあるベンチに座り、
「クリス嬢ちゃんもここに。立ち話は疲れるよ」
「は、はい」
恐れ多いという思いもありながら、私はジューンさんの横に座った。
「……さて、クリスの嬢ちゃんはこのギルドの依頼について、どこまで知っている?」
腰を曲げ、肘を膝の上に置いてジューンさんは私を見上げて尋ねた。
依頼について?
依頼の内容は、蒼の迷宮35階層のここでの調査。
魔物の情報。中でもとても珍しい巨大な魔物についての調査。
期限は3ヶ月以内、報酬は金貨3枚、別途ボーナス報酬あり。
ギルドから聞いたことをそのまま伝えると、ジューンさんは笑って言った。
「それは表向きの依頼さね。裏は違う」
「裏?」
「ああ、クリス嬢ちゃんは魔王について知っているかね?」
魔王……?
魔王って、あの物語の魔王でしょうか?
悪魔の王、魔族の王とも呼ばれ、人類を苦しめる架空の魔物。
私がそう答えたら、ジューンさんは笑っていった。
「それは違う。魔王というのは迷宮のボスさね」
「迷宮のボス?」
「そう、我々が倒した邪竜も魔王なのさね。クリス嬢ちゃんのお父さんを殺した邪竜がね」
……え?
思わぬセリフに、私の胸の鼓動が大きく鳴る。
邪竜が……父さんを殺した存在が魔王?
「邪竜、正確には魔王ルシファー。彼と同じ魔王がこの世界には何体も存在する。一部の人間しかしらない事実さね」
「……どうしてそれを?」
「何、嬢ちゃんと一緒にいたコーマといったかね? 彼も知っているようだから教えておこうと思ったさね」
私のお父さんを殺した邪竜が魔王であり、魔王は他にもいっぱいいる?
コーマさんもそれを知っていた。
「今回の依頼も、その魔王の調査なのさね」
そう言うと、ジューンさんは立ち上がり、最後にこう言った。
「この島に流行っている風土病、おそらくはこの島そのもの、アイランドタートルによる呪いだろうね」
「呪い? 病気じゃないんですか」
「ああ、危険なものだね。でも、おかしい」
ジューンさんはブランの前に立ち、そう言った。
ジューンさんが力を込めると、ブランがふらりと立ち上がる。
「これだけの呪い……アイランドタートルそのものの寿命を削る。一体、何の目的でこんなことをしているのかわからない。調べるとしたらそこからさね」
ジューンさんはそう言うと、杖の先端でブランの背中を押した。
そこでブランの目に光が戻った。
ジューンさんは私に、何も言わないように目配せをすると、背中を向けて立ち去った。
「クリスティーナ様、どうしました?」
ブランは自分が眠っていたことなど覚えていないのだろう、呆けた状態の私をみてそう尋ねた。
「いえ、何もありません。屋敷に戻りましょう」
情報が集まりすぎて混乱したまま、私は屋敷へと戻っていきました。




