迷宮作成会議
その日の夜、早速幹部が全員集合して、畳の上の大きな卓袱台を囲み、会議をしていた。
まず、改まって幹部の紹介をしてみよう。人物紹介的な意味もある。
ちなみに、コメットちゃん以下の順番は加入順。
コーマ――つまりは俺。元日本人の魔王。アイテムを作る力と鑑定の力があり、アイテムの力で成長した。
ルシル――俺の元ご主人様にして、魔王軍元帥。ルシファーの娘で超絶な魔法の才能と料理の才能(謎)を持つ。
コメット――ルシルが最初に召喚したコボルトのグーの体に、フリーマーケットの従業員のコメットちゃんの魂が融合した少女。魔王軍の本当の料理番。
タラ――グーと一緒に召喚されたコボルトのタラの体に、傭兵ゴーリキの魂が融合した少年。剣の実力は魔王軍随一。
マユ――蒼の迷宮の人魚の魔王。存在感が薄い。水がないと喋ることができないので、会話をする時はウォータースライムを頭に被る。
カリーヌ――俺の迷宮に最初に生まれたスライムが進化した少女。魔王軍のスライム全てのお姉さん。
マネット――マリオネットの魔王。糸を使って他人を操る力も持つ。ゴーレム作りの責任者。
ゴブカリ――魔物を統べる王、ゴブリン王になりかけたゴブリン。今はゴブリン将軍としてゴブリンやミノタウロスの指揮をする。
メディーナ――かつてルシファーに仕えていたメデューサ。石化能力と首が取れる一発芸の持ち主。
元々俺とルシル、そしてグー、タラの四人だけだった魔王軍幹部も、今は倍以上になったのか。思えば多くなったものだ。幹部以外の部下の数も増えたしな。
シルフィアゴーレムが俺たちが注文したお茶やコーヒーなどを卓袱台に置いていく。
俺はハッカ茶を飲んで口を僅かに湿らせると、さっそく本題に切り出した。
「みんな、集まってもらって申し訳ない。どうしてもみんなの意見を――特にゴブカリの意見を聞きたいことができた」
「僕の意見ですか?」
ゴブカリが意外そうな顔をする。この中で一番若いゴブカリの
「あぁ。まずは今日、ユーリから聞いた話を説明する」
そして、俺は語った。ユーリからの提案。迷宮の解放。
それにいの一番に賛成したのは、マネットだった。
「いいんじゃない? 冒険者を引き入れることは迷宮の成長になるし、僕のゴーレムの実験にもなるからね」
「私も別にいいと思うわよ。面倒なことは全部コーマがしてくれるんでしょ?」
マネットにルシルが続く。どこか懐かしむように言う。
「そういえば、お父様がいたころは毎日のように人間が訪れていたから、あの頃に戻るだけよね」
「私はコーマ様の意見に従うだけです」
「某もコメットと同じ意見です」
今のところ、ルシルとマネットは賛成派。コメットちゃんとタラは中立派か。まぁ、このあたりはおおむね予想通りだったりする。
「私は迷宮経営に関してはいままでほとんど関知していませんから、魔王様に従います」
メディーナがそう言った。そして、他の皆も、諸手を挙げて賛成はしないものの、反対する気はない。そんな感じだ。
だが、ひとつ、大きな問題がある。
「俺が一番話を聞きたいのは、ゴブカリの意見だ。と言うのも、ユーリとの話し合いで、ミノタウロスに十九階層を守らせることになった。十一階層を守らせるのは、おそらくゴブリンたちになると思う。ゴブリンは通常の迷宮の二階層や三階層にも現れるから、ユーリからも十一階層にはそういう魔物を配置するように言われたんだ。もしもゴブカリが反対するなら、十一階層には別の魔物を配置することになる。さすがにゴブリンとゴーレムとミノタウロスだけだと魔物が少ないからな。マユがよければ十六階層に水路のある階層を用意し、そこに魚の魔物を配置してもいいと思っているが」
「私は構いません。蒼の迷宮でも人を襲う魔物を迷宮内に放っていますから、その魔物を呼びます」
マユが二つ返事で了承した。そういえば、蒼の迷宮で俺たちを襲った鮫とかも、マユの配下なんだよな、一応は。
確かに、人を襲う魔物を配置するとなると、マユは経験者だ。マネットもそうか。
「魔王様――僕も賛成です」
「いいのか?」
「ええ、魔王様の庇護のおかげで、我々《ゴブリン》も大幅に人口を増やすことができました。今後は良き遺伝を残すためにも人と戦い種を選別するのは、群れを率いるリーダーとしては必須だと思っておりました。全員とはいいませんが、生まれて20日以降から十年未満のゴブリンでローテーションを組んで十一階層を守らせてもらいます」
「そうか……そう言ってもらえると助かる。だけれども、相手が格上だと思ったら戦わずに逃げるように言え。冒険者もゴブリン相手なら執拗に追ってくることはないだろう。それと怪我をしたゴブリンは即座に撤退しろ……そうだな、大天使スライム一匹を渡すから、怪我をしたら村に戻って治療するようにも言っておけ」
「勿体なきお言葉。本来僕たちゴブリンは、多くの魔王様にとっては使い捨ての存在だと両親より聞いていました。それほどまでに弱い種族です。そんな我々にここまでのご考慮、誠に痛み入ります」
そう言われて痛み入るのは俺のほうだよ。仲間に命を懸けて戦うように命じろと言ったのだ。
それを快く受け入れてくれたゴブカリには感謝しないといけない。
「じゃあ、ゴブカリは十一階層のミノタウロスを十九階層に移動させて、ゴブリンたちを十一階層に移動させる手筈を頼む。あと、これから別の種族を増やす予定だから、その管理もゴブカリに任せた。ルシル、お前には久しぶりに魔物を召喚してもらうぞ」
「いいわよ。私も魔力があがったから、ある程度の魔物なら召喚できると思うわ。何にする? ドラゴン? 悪魔とか?」
「いや、そんな力のある魔物はいらない。数がある程度増えて、ゴブリンより強く、ミノタウロスより弱い魔物がいいんだが……あぁ、マネットは十八階層に、ミノタウロスより弱いゴーレムを配置してくれ。マユは配置してくれる魔物のリストと特徴を俺に渡してくれ」
「お兄ちゃん、私たちはどうする? みんな戦う気満々だよ!」
「そうだな。スライムにはボスの間の門番をしてもらってもいいか?」
「ボスの間?」
「迷宮特有のギミックでな。ボスを倒さないと開かない扉のある部屋のことだ。ニ十階層のボスはカリーヌの弟の誰かにやってもらおう」
ボスがスライムというとまるで冗談みたいな話だ。だが、うちのスライムは現在、一匹一匹が一騎当千、万夫不当の猛者揃いだからな。
ユーリクラスの勇者でも、恐らく苦戦するだろう。
つまりは誰も通す気がないということだ。
「コーマは何をするの?」
「俺は特製の宝箱を作る。それと、マユ、マネット、ゴブカリ、お前たちにこれを渡しておくから、配置してくれ。魔物に持たせてもいいぞ」
俺が渡したのは、貨幣の詰まった袋だった。
アイテムを配置するのが面倒になってお金をそのまま置く――というわけではない。
これは俺の迷宮の目玉にする予定だ。
こうして、俺たちの本格的な迷宮作成がはじまった。
やるからには、本気でやらせてもらおう。
やるからには本気で!




