ヒヒイロカネの特性
アイテムBOXを魔王城の横に設置する。
そして、そこからオリハルコンを取り出して、まずは自分用にアイテムクリエイトでエクスカリバーを作った。
72財宝、エクスカリバーがこの手に戻ってきた。
「主の力はいつ見ても素晴らしいですね」
タラが感服した眼差しで言う。
「前にも言ったかもしれんが、これは俺の力じゃなくて、いつでも借り物の力だよ。ルシファーのな」
アイテムクリエイトと鑑定。そして、アイテムクリエイトから派生したいくつものスキル。
それらは全て、俺の中に存在するルシファーの力だ。それを忘れてはいけないと思っている。
だからと言って、アイテムクリエイトで作り出した力の神薬を含めた様々な神薬によって得られた力が自分のものかというと、それも少し違うような気がする。
俺が本当に血と汗と涙で手に入れた力と言えば、ルシル料理に対する僅かな耐性くらいなものだと思う。いつの日か、食の達人Sのように本当の意味でルシルの料理を食べたいという気持ちはあるけれど、たぶんあの域に達するにはまだまだ先だろう。
「そうだ、タラにも剣を作りたいと思ってたけど、希望はあるか?」
「よろしいのですか?」
「ミスリルの剣も業物だけど、やっぱりオリハルコンは違うからな」
タラは少し考え、
「大剣を――某より大きな剣を希望します」
「あぁ、ゴーリキはそんなの使ってたな」
「ええ、剣の知識はどうしてもあちらの知識に頼らざるを得ませんので」
「あちらって……今はふたりでひとりなんだろ? こちらじゃないのか?」
「それはそうなのですが、恐らく心はタラになりたいと思っているのだと思います。タラもゴーリキも。ゴーリキにはかつて主に牙を剥いたという過ちがありますから」
「いや、あの時はブラッドソードに操られていたわけだし、その頃は主ですらなかっただろ。むしろゴーリキはあの時ブラッドソードの力を抑えていたそうじゃないか」
「主がそういう風に理解してくれているのは頭では理解していますが、心はそうはいかないのです」
頭の固いやつだな。そういえば、コボルト時代のタラもまるで武士のような迫力があった気がする。
「ゴーリキの剣術にもタラの体術にも、ゴーリキの経験にもタラの忠誠にも俺は助けられているよ」
「そう言っていただければ少し救われた気持ちになります」
「じゃあ、タラには大剣を作るな」
俺はそう言うと、アイテムクリエイトではなく、まずはオリハルコンでハンマーを作ってから、かつてエクスカリバーを作った時のように力づくで剣を作った。そうしてできた剣もまたエクスカリバーという名前の剣だった。どうやら、オリハルコンでできた剣は全てエクスカリバー扱いになるらしい。
伝説の剣は意外と汎用性が高いようだ。
※※※
「というわけで、七つの72財宝が一気に集まるかもしれないんだ」
あくまでもブンドが作った剣が全て72財宝だった場合であり、今は手元にはない。
だが、その剣の素材と在り処は聞いて来たし、一年以内には全部作れるだろう(季節にしか取れない素材もあるので、今すぐ全部揃えるのは不可能だ)。
「72財宝?」
俺の報告を聞いて、ルシルがきょとんとした顔になった。
……おい、まさか、お前。
「あぁ、72財宝ね。うんうん、覚えていたわよ。あれよね、私を元の姿に戻すためにコーマったら集めてくれちゃってるのよね」
そう笑って手を一回叩いた。
「お前、忘れてただろ」
「忘れていないわよ。でも、コーマって、もう日本に戻らないんでしょ?」
「戻るつもりはないよ。一時帰宅ができるのなら、ちょっと日本に戻って読みかけの漫画を全巻買い揃えに行くくらいだ。流石に中途半端に終わらせるのはコレクターとしてどうかと思っていたし、琵琶湖でも釣り……は、コレクションとして残していたスマホはないからもう無理か」
この世界に来る前、俺は琵琶湖で全ての魚を釣り上げて写真を撮るというコレクター作業に勤しんでいた。
その写真はスマホの中にあり、今は鈴子と一緒に日本に戻ったはずだ。
ちゃんと両親の元に届いただろうか?
「それに、私もこの姿で随分と馴染んじゃったしね。喋り方もこっちのほうが楽だし」
「そう言えば、お前、大きかったころは随分な言葉遣いだったもんな」
偉そうだった。今は別の意味で偉そうだけれども。
「でも、コーマが私のために72財宝を集めてくれるっていうのなら、喜んで待つわ。でも、どうなの? 集まりそうなの?」
「そうだな、とりあえずこれを見てくれ」
俺はアイテムバッグから六つの宝玉を取り出す。
それを見てルシルはそれが何か理解したようだ。
「精霊の宝玉ね」
「あぁ、火の宝玉、水の宝玉、風の宝玉、土の宝玉、闇の宝玉、光の宝玉だ。全部作った」
俺もただ遊んでいたわけじゃない。
材料が分かったからには全部作ったさ。属性アイテムを探すのには苦労した。本当は魔法書なども作りたかったんだけど、後回しにして全種類の宝玉を作った。
窃盗? 違う違う、今、西大陸の人々は精霊に依存しない、人の力で成長しようとしている。それを邪魔するつもりがないだけだ。
ちなみに、割れた宝玉で作ったためか、俺が知っている宝玉より僅かに小さい。
「じゃあ、剣と宝玉で13種類もあるのね」
ルシルが感心したように言うと、突如、
『ふぁぁぁ』
と声が聞こえて来た。
『はぁ、やっと出してくれた。アイテムバッグの中にはあんまり入れないで欲しいな』
「その声、いつぞやの火の精霊?」
「あぁ、サランの分身だよ。ほら、封霊石の中に封印してただろ。あれを移した」
『分身といっても、今はこっちのほうが本体みたいな感じかな。前の本体はほとんど力を失ってるからね。じゃあ、僕は寝るよ。あんまり力がないから』
そう言って、サランは火の宝玉の中で眠りについた。
レイシアと一緒にいた時のような覇気は感じないが、その声はしっかりと聞こえるようになっていた。
神子でもないのに声が聞こえるのはどういう理屈か、俺にはわからないけれど。
「剣と宝玉で13種類……ほかに何があるんだっけ?」
「手元にあるのは、魂の杯、ユグドラシルの種と、ユグドラシルの杖くらいかな」
「友好の指輪を忘れているわよ」
「あぁ、そうだったな。場所がわかってるのはユーリ……もとい闘神人形とブックメーカーの持つ魂の書だな」
「それで19種類……まだ三分の一にも満たないじゃない」
「甘いな。俺は今日、大量のオリハルコンとヒヒイロカネを手に入れた。どちらも伝説の金属だ。ヒヒイロカネは作れるアイテムが少なくて全部ハズレだったが、オリハルコンからは意外といろいろなものが作れるからな。オリハルコンで作れるものを全部作ったら、もしかしたら一個くらいは72財宝があるかもしれん。ヒヒイロカネは……しばらくは倉庫の肥やしだな」
「コーマ、それじゃ、あれ作って! ヒヒイロカネのフライパン!」
「いや、それはやめた方がいい」
俺はアイテムバッグから茶釜を取り出す。
ヒヒイロカネの茶釜だ。
「ヒヒイロカネという金属はちょっと扱いが難しくてな」
茶釜の中に水を十分に注ぎ、キッチンに行く。
そして、魔力コンロの上に置き、点火して、すぐに止めた。
時間にして3秒程度だろう。
「うそっ、もう?」
「あぁ、エネルギー保存の法則は完全に無視してるだろ。まぁ、この世界で物理法則云々を今更研究する気にはならないけど」
そう、すでに茶釜の湯が煮たっていた。
このヒヒイロカネは常温でのひんやりとした感触とは裏腹に、恐らく熱量増幅の力を持っているのだと思う。
アイテムクリエイトで氷の剣ができたのは、恐らくその熱量増幅の力をなんらかの方法で逆手に取ったのだろうが詳しいことはわからない。
「確かに、こんなものでフライパンを作ったら、料理が一瞬で焦げちゃうわね。仕方ないから普通のフライパンで料理を――」
「作るなよ!」
「まだ作らないわよ。コーマが今度食べてくれるのは三週間後でしょ」
わかってるならいいんだよ、わかってるなら。
俺はそう呟き、でもこの熱量増幅機能を何かに使えないかと思う。
「そうだ、これを炉の内側に入れたら、炉をさらに進化できるんじゃないか? それこそ――」
それこそミスリルやオリハルコンをも溶かすことができるような、伝説の炉が。
~ヒヒイロカネ(アポイタカラ)~
日本に存在したと言われる伝説の金属。
伝承によると、金より軽く、金剛石より硬い、ひんやりとしていて太陽のように輝き、
決して錆びることはなく、茶釜を作れば木葉3枚で湯が沸いたと言われています。
この素材を使って作られた伝説の剣は、皆さんも知っているかもしれません。
なんでも斬ることができるが、こんにゃくだけは苦手、
アニメ、ルパン三世に出てくる斬鉄剣です。
また、日本の三種の神器、
天叢雲剣、八尺瓊勾玉、神鏡八咫鏡もまたヒヒイロカネによって作られたと言われています(ただし、三種の神器は壇ノ浦の戦いで海に沈んだ、天叢雲剣、八尺瓊勾玉は太平洋戦争の時に消失しているなどという消失説も多く存在します)
天叢雲剣は八岐大蛇を退治した時に手に入れた草薙の剣であり、その炎で草を全て焼き払ったという伝説も残っていますが、ヒヒイロカネの熱量増幅の力を使ったのかもしれませんね。
ヒヒロカネは、実はオリハルコンと同じ金属ではないかという説も存在しますが、今作では、全く別の金属として扱っていきたいと思いますので、ご了承ください。




