伝説の鍛冶師
ブンドは瓶からグラスに大吟醸を注ぐと、僅かに残った残りの酒を土へと還した。
そして、無言でグラスを傾け、中身を一気に飲む。
「どんな時でも……酒は旨い。気持ちで味が変わると言うが、ありゃ迷信だ」
その言葉がタラに向けられて言ったのか、それともただの独り言なのかはブンド以外、誰にもわからないだろう。
ブンドはグラスに残っていた最後の一滴まで飲み干すと、土に向かっていった。
「悪いな、コーマ。お前が酒を飲まないってのは聞いていたが、供えるような花はこの迷宮には咲かん。もしも要らないなら、今の酒は死神にでも飲ませてやれ。うまくいけば地獄落ちは免れるかもしれないぞ……まぁ、死神に賄賂が有効かどうかはワシも知らないがな」
そしてブンドは「よっこらせ」と言う掛け声とともに立ち上がると、腰を大きく捻り、酒蔵からバッカスの酒を持ってきてグラスに注いだ。
まだ飲むつもりのようだ。
「タラといったか? お前も飲むか?」
「いえ、結構です」
タラは無言で首を振る。
「そうか、まぁガキには十年早いか。それで、お前はどうする?」
「主を待つだけです」
「待つってお前。これを見ただろ。出口は塞がれた。お前の主人が地下から穴を掘って上がってくるのを待つつもりか? 言っておくが、地下3キロの地点は岩盤は丈夫だが、そこから少しでも上がれば、一気に土壌は脆くなる。十中八九、途中で落盤するだろう。無理だ。諦めろ
「主には秘策があります故」
「秘策って、お前な」
ブンドは呆れたように言った。
どうやら、ブンドは俺が完全に死んだと思っているようだ。
ブンドがしんみりした空気を作っていたので出るタイミングを逃したが、登場するのはここらが潮時のようだ。
「悪いな、待たせて」
俺は家の陰から姿を現した。手にはアイテムBOXを持っている。
「コーマ! お前、どうやって――」
「いや、昔のゲー……物語にな、テレポートしたら岩の中にはまっちまって、“いしのなかにいる”って言うちょっとしたトラウマ物語があるって、以前、親父に教えてもらったことがあったんだよ。その脱出法は至極簡単で、もう一度テレポートしたらいいんだってさ。だから、転移陣で脱出した」
「転移陣って、お前、そんなもん地下には――」
「生憎、俺の転移陣は持ち運び可能なんでな」
俺はルシル特製、持ち運び転移陣を広げて言った。
こうなることを予想してもう一枚の持ち運び転移陣は家の裏に貼ってあったわけだ。
そして、俺はアイテムBOXに手を入れ、そこから戦利品をいくつか取り出す。
「おま、これ、オリハルコン鉱石じゃねぇか。一体いくつ手に入れたんだ」
「とりあえず70キロはあるな。でかい鉱脈を見つけた。他にも凄いものがあったぞ。オリハルコンを掘り終えて地下五キロまで行ったんだけどな。そこがゴールのようで、迷宮の床があった。さすがにそれは掘れなかったけど」
俺が取り出したそれを見て、ブンドは思わず目を細めた。
それほどに光り輝く赤い金属だった。
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アポイタカラ【素材】 レア:★×9
金よりも軽く、金剛石よりも硬い金属。決して錆びない。
太陽のように輝き、冷たいのが特徴。
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「これは……一体なんだ」
「ここはあんたの迷宮なんだろ? 知らないのか?」
「しらん。こんなものがこの迷宮の地下に――いや、そもそも迷宮の地下に終わりがあるなんて思ってもいなかった」
「これはアポイタカラって名前の金属だ。でも、俺の知っているところじゃ、多分別の名前で呼ばれている。ヒヒイロカネって金属だと思う」
「ヒヒイロカネ……聞いたことがある……ワシに譲ってくれ! これで最高の剣を打ってやる!」
「え? グンドって鍛冶師だったのか?」
「あぁ――そうだ。かつてワシは六本の剣を打ったことがある。どれもこれも伝説とまで言われた名剣だ。今は二本しか残っていないが、これがあれば、最後の一本が打てる気がする」
「……六本の剣?」
「うむ、まずは水の刀――村雨」
「……ちょっと待て、いきなり待ってくれ。村雨だって?」
村雨といえば、南総里見八犬伝に出てくる架空の刀じゃなかったか?
いや、エクスカリバーやグラムなどももともとは地球原案の刀だったけれど、村雨は江戸時代の物語だ。なんでそんな名前の武器があるんだ?
「あぁ、村雨だ。次に、炎の剣――」
「炎の剣――レーヴァテインか?」
「先に言うな……まぁ、その通りだ」」
レーヴァテインも作っていたのか。凄いな。
「他に、オリハルコンで――」
「エクスカリバーも作ったのかっ!?」
「何故それを知っている!?」
「いや、俺もオリハルコンで剣を作ったことがあるんだけど、その時にすでに名前がついていたから……」
「そうか、いや、ワシが作った時もすでに最初から名前がついておった」
現在三本の剣。
「なぁ、もしかしてグラムもグンドが作ったのか?」
「おぉ、竜殺しの奴な。あれも作ったぞ。今はどこにあるかの……十年前にエリエールの嬢ちゃんに渡したが」
「十年前?」
「あぁ、十年前だ。おしめが取れたか取れてないかのガキだったよ」
十年前といえば、エリエールさんは、7、8歳か。さすがにおしめ云々は大袈裟にしても、子供が来るような場所ではない。
確か、エリエールが勇者試験に合格したのは四年前だったはずだ。
何かの間違いではないかと思ったが、あの人もいろいろと裏があるからな。
そして、そのグラムが、どういうわけかクリスの親父の手に渡ったわけか。
「友人の死後隠居を決めて入口を塞いだのに、あの嬢ちゃんは穴を掘って訪れてな。要らないのなら貰っていくって、酒樽と交換して、グラムだけを持って行ったよ」
「だけってことは、今も他に剣はあるのか?」
「あぁ、二本だが残ってる。よし、持って来てやるから待ってろ」
グンドはそう言うと、家の中に入っていき、そして二本の剣を持って現れた。
そして、俺はその剣を見て絶句した。
なぜならその二本というのが、
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不滅の刃デュランダル【剣】 レア:72財宝
これにかかれば斬れないものは存在しないといわれる剣。
聖なる力を持ち、悪魔に対し絶大なダメージを誇る。
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という剣と、
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変幻の剣ジュワユーズ【魔剣】 レア:72財宝
一日に三十回、属性を変える剣。
神殺の力を持ち、天使に対し絶大なダメージを誇る。
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という剣だった。
どちらも72財宝。いや、ブンドが作ったというエクスカリバーとグラムもまた72財宝だったのだ。
とすれば、レーヴァテイン、そして村雨もまた72財宝である可能性は高い。
そしてもう一つ。
「ブンド、この剣を見てくれ」
俺はアイテムバッグからそれを取り出す。
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冷たき太陽の剣【魔剣】 レア:★×9
太陽の光と、凍てつく氷の力を持つ剣。
魔力を込めると幻影を生み出して相手を惑わせる。
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「ほう、立派な剣だ。まさか!? ヒヒイロカネで作ったのか」
「あぁ、さっきちょちょいと鍛えた」
本当はアイテムクリエイトで作っただけだが。
「これをどう思う?」
「素材をよく活かしている最高傑作の剣だ」
「これ以上の剣を作れる自信はあるか?」
俺の質問に、ブンドはその剣を凝視し、
「ある」
と大きく頷いた。
「コーマはただ金属の特性を活かしただけだ。ワシならヒヒイロカネに様々な素材を組み合わせることができる」
「なら、ヒヒイロカネを渡すし、必要な素材があるというならそれも取ってくる。が、条件がある。できた剣を一本、俺にくれ。それともう一つ、エクスカリバー以外の武器の素材の名前と、どこでそれを手に入れたか、それだけ教えてくれないか?」
「……ううむ、本来はそういうことは秘密にしておきたいのだが――」
「今度、見たこともない酒を目一杯持って来てやるから」
「わかった。その条件を飲もう! 酒とともに!」
「酒ばかり飲み過ぎて忘れるなよ――」
「安心しろ、目の前にワシの知らぬ金属があるんだ。おいおい眠っていられんよ」
そして、ブンドは俺に素材のリストと、知っている限りの素材の場所を教えてくれた。
剣は一週間後にできあがるという。とても楽しみだ。
俺は静かに待っていてくれたタラとともに、ブンドに暫しの別れを告げ、一度魔王城に戻るのだった。




