ドワーフの魔王は酒好き
迷宮10階層を俺とタラが歩いていた。
本来なら迷宮の探索は俺とクリスのコンビで移動するのだが、クリスに新しい通信イヤリングを渡そうとフリマに行ったら、クリスの奴、昨日から出かけているのだという。
どこに行ったのかメイベルに尋ねたけれど、行先は聞いていないという。
タラが勇者になっていなければ、迷宮内を自由に動けないところだった。
「クリス殿は大丈夫でしょうか?」
「クリスを殺せるような奴はいないと思うけど、どうだろうな。あいつのことだから、借金が数倍にもなって帰ってくるかもしれんぞ」
「それは返済大変ですね」
俺は冗談で言ったが、真顔のタラは、それを冗談と理解してくれたかどうかいまいち判断できない。
「主よ、これからどこに?」
「ん? あぁ、、ユーリの紹介でな。エリエールが発見したことになっている、いい鉱石が採掘できる迷宮があるらしいんだよ」
「鉱石ですか?」
「あぁ――ユーリが言うくらいだから、ミスリルくらいは見つかるかもしれないな」
それに、俺の目的はもう一つある。
つまり、その迷宮を管理する魔王に会うことだ。ユーリの派閥の魔王であり、一度会っておくように言われている。
十階層の中を歩いていく。
「ここか――」
そこは、普通に見たらただの何もない部屋なのだが、ここの土を掘ると隠し階段が現れる。
土は定期的に元に戻るため、本当に場所がわからなければ永遠に見つからない迷宮だ。
俺はアイテムバッグからスコップを二本取り出して掘っていく。
堀った土は邪魔にならないようにアイテムバッグの中に入れていく。
三メートルくらい堀り進めたところで、ようやく穴が貫通し、階段を見つけた。
迷宮特有の壁と天井の光のおかげで暗くはなく、石造りの階段を下りていく。
そして、俺は階段を下りて、驚いた。
「これが迷宮なのか?」
迷宮の広さは、1ヘクタールあるかどうかであり、部屋はひとつしかない。扉も階段も何もない部屋。
その部屋の中に、一軒の石造りの屋根があった。
その扉が開き、中から酒瓶を持った髭面の男が現れた。
「ん? エリエールの嬢ちゃんじゃねぇのか。ワシはここの管理者のブンドだ。ここは勇者エリエールの管理迷宮だぞ。エリエール嬢ちゃんからの紹介状か、ギルドからの許可証は持ってるかい?」
「あぁ、持ってる。これでいいか?」
俺はユーリから貰った許可証をブンドに渡す。
ブンドはそれを見ると、
「本物のようだな。まぁ、勝手にやってくれ」
「ちょっと待ってくれ、勝手にって、何をすればいいんだ?」
「何って、壁を掘るか土を掘るかすればいいだろ。そうすれば鉱石が出てくるから。あと、たまに魔物とかも出てくるから気をつけろよ。深く掘れば深く掘るほどレアな鉱石が出るはずだからな」
「へぇ……ちなみに、一番レアな鉱石ってどんな鉱石なんだ?」
「俺はただの管理者だ。詳しくは知らないが、エリエールの嬢ちゃんはよく金や宝石の原石を掘ってたな」
金か宝石か。俺が欲しいのは、ミスリルや、もっと言えばオリハルコンだ。
「あぁ、そう言えば、もうひとつ用事があったんだ。あんたと話をさせてくれないか?」
「ワシと話だって? こっちは何もねぇよ」
「ブンドって魔王なんだろ?」
「……その話を誰に聞いた?」
「ユーリだ」
俺がそう言うと、ブンドはその場に胡坐をかいて座り込んだ。
「ちっ、どういうつもりだ、あいつ」
「あぁ、俺も魔王だからな。同じ魔王同士情報交換したいんだ」
俺はそう言うと、不機嫌そうなブンドの前に、その瓶を置いた。
「お…………お、お前、そのワインをどこで手に入れた?」
「それも含めて情報交換しないか?」
「それもって、お前、これは――」
ブンドはそのワイン瓶を手に取り、まるで神を見たかのような表情で叫んだ。
「これは、バッカスの酒じゃねぇかっ!」
※※※
「な、水で割らないと飲めたもんじゃないだろ」
「バカ、お前、これは最初から水で割って飲むワインなんだよ。そんなことも知らなかったのか?」
「そうだったのか?」
でも、水で割ってかろうじて飲めるって感じで、決してうまいものじゃないんだけどな。
「そうだ、同じアルコールなら、大吟醸や芋焼酎、泡盛みたいなものもあるけど飲むか?」
俺はアイテムバッグから、図鑑を埋めるために作ったのはいいけれど結局飲まずにしまってある酒類を、これ幸いと出す。
「おま、これだけの――そうか、ついに現れたか」
ブンドは俺に対し跪き、拝みだした。
「ついに現れたんだな、酒の魔王が」
「ちげぇよ。俺はアイテムを作るのが得意なだけで、強いて言えばスライムの魔王だよ」
「スライム? おい、お前、スライムの魔王なのか?」
「種族は人間だけどな、迷宮で生まれるのはなぜか全部スライムなんだ。おかげでスライムクリエイトみたいな魔法まで使えるぞ」
「ははは、それは確かにスライムの魔王だ。ほら、お前も飲め」
「いや、さっき言っただろ。俺は酒はあまり飲まないんだよ」
「そうか、じゃあこれは俺が全部飲む」
そう言うと、ブンドは水で薄めたら美味しいと言っていたワインを、そのまま飲む。まるでカルピスの原液をそのまま飲むような行為だが、本人はいたって幸せそうだ。
「かぁ、こんな贅沢、絶対できないと思ってたぜ。まさかバッカスの酒をニ十本も貰えるとはな。そうだ、お前にこれをやるよ」
ブンドはそう言うと、俺に拳大の鉱石を放り投げた。
いったいなんだって、思ってその鉱石を鑑定すると――
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オリハルコン鉱石【素材】 レア:★×9
神々の金属、オリハルコンを含む鉱石。
伝説はこれより生まれる。
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「これ、オリハルコンじゃないかっ!?」
「おぉ、わかるのか? まぁ、うちの迷宮で採れる一番珍しい鉱石はこれだな。十年に一回くらいしか手に入らんからな」
「十年に一個……まだあるのか、これ」
「あぁ、あるにはあるが――この下だ。そうだな、三キロくらい掘れば見つかるんじゃないか?」
「なんだ、簡単だな」
地下3キロか。ルシル迷宮が地下200階で、1階層4メートルくらいだから、800メートル。
その2.5倍か。
「がはは、簡単なんて生易しいもんじゃねぇぞ。いいか? ここの迷宮で掘った土は二十四時間経過したら元に戻りだす。横穴なら走ればあっという間に戻れる距離だが、上下の移動となれば話は別だ。それだけじゃねぇ。迷宮とはいえ、この迷宮には地熱も存在する。地下3キロともなれば、その地熱は100度にも達する。それに硬い岩盤もあるからな、生半可な道具と力じゃ掘り進めることもできない」
「へぇ、でも一度オリハルコンは手に入れてるんだろ? どうやって手に入れたんだ?」
「優秀な魔法技師だったよ。ミスリルもまだあった時代だからな、ミスリルのドリルという土を掘る機械を使って堀り進めた。作るのに20年かかったって言ってたな。それを使って一晩中掘り進め、拳大のオリハルコンをふたつ持ってきた。でも、あいつが戻ってくるまえに土は元通りになっちまって生き埋めさ。土を外に運ぶために穴の中に入っていた奴らと一緒に。生き残ったドワーフは、ワシにひとつのオリハルコンを渡すと故郷に戻って行ったよ。西大陸のな」
今の話を聞いて、俺はふと思った。
もしかして、そのオリハルコンがドワーフ自治区にあったオリハルコンではないだろうか?
それにしても、ドリルか。そんなものを魔道具で作り上げた人がいたというのには驚きだ。
まだミスリルに関してはアイテムをあまり作っていないから、魔王城に戻ればミスリルの剣を一度溶かして作れるアイテムを全部作ってみよう。
そう思いながら、俺はオリハルコンから作れるアイテムのレシピを脳内で調べ、
「ちょっと待っててくれ」
俺はそう言うと、階段の方に行き、「アイテムクリエイト」と呟く。
オリハルコン鉱石からオリハルコンだけを取り出した。
そして、今度は、そのオリハルコン、魔石、そしてスクリューなどに使われているモーター型の魔道具からそれを作り出した。
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オリハルコンドリル【魔道具】 レア:★×9
なんでも掘れる掘れる、最強のドリル。
金剛石でもミスリルでも掘り進めることができる。
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できた。オリハルコンドリルの完成だ。
テ〇リアみたいなことをしているな、コーマ。
(ツッコミが入る前に作者がツッコミを入れる手法)




