修学旅行最後の夜
バセロナードの説教は深夜まで及び、幸いというか、揺れる馬車の中でも俺は眠ってしまい、馬車酔いも幾分かマシだった。
そして、カリアナで一泊した。
カリアナの料理は和食で、生徒たちは初体験の箸に四苦八苦していたが、俺は勿論、コメットちゃんも魔王城でいつも使っているので慣れたものだ。
「私もすっかりタタミが落ち着くようになりました」
カリアナでは、全員が同じ部屋で寝る。
バセロナードも一緒のため、問題が起きることはない。が、そのバセロナードも緊張の糸が切れたのか、今は爆睡している。
俺たちが行方不明のため、バセロナードは一日中町の中を探し回っていたそうだ。
融通は利かないが、とても熱心でいい教師だと思う。
「それにしても、あいつらは元気だな……カリアナの散策か?」
「はい。蚕から生糸を紡ぐ作業を見ているそうです」
「絹か……」
そいえば、売っていたな。結構高い値段だったはずだ。
確か、カリアナの住民の先祖は、戦国時代の忍の一族だった。
戦国時代といえば、絹の生産はそこまで盛んではなく、日本の絹よりむしろ中国絹を重宝していたと思うけれど。
んー、その忍の一族が副業で絹織物でも作っていたのだろうか?
「それにしても、振り返ってみればこの修学旅行、俺がいつもやっていることと変わらなかったな」
「私は楽しかったですよ。コーマ様の護衛として同行して、護衛らしいことは何一つできませんでしたけど」
「いや、楽しかったのは俺も同じだよ……そうだな、今度は魔王軍の社員旅行でもするか」
「それはみんな喜ぶと思いますよ。私もうれしいです」
「うん、まぁ当分先になると思うけど……帰ったら校長の業務の続きをしないとサクヤにぶっ殺される」
「ははは、コーマ様は本当にお忙しいですね」
コメットちゃんは笑いながら言った。
「笑いごとじゃないんだけどね。本当に俺の分身を二、三人ほしいくらいだよ。マネットに作らせようか」
魔王としての業務は本体がして、鍛冶師、校長、勇者の従者を分身にやらせてちょうどいいくらいだ。
「前にそれをして失敗しましたよね」
「うっ、そういえばそんなこともあったな」
マネットが勝手に俺の影武者を作ろうとした結果、301体の俺の姿のゴーレムが暴走したことがあった。
全てルシル料理の餌食になったけど。
ゴーレムで分身を使って作業を効率化するのはダメだな。
「やっぱり人間地道に頑張るしかないか……」
「ですね。コーマ様、家事などは全て私がしますから」
「うん、ありがとうね、コメットちゃん」
本当に、うちの魔王軍はいい子が多いんだよね。ルシル以外は全員働き者だし。
俺が勝手に仕事を増やしているのが悪いんだよ。うん。
「……はぁ、学校なんて作るんじゃなかったな」
俺はそう呟いて、畳の上にごろんと寝転がった。
馬車酔いも大分マシになったけれど、気分は晴れない。
楽しいはずの修学旅行の最後の夜にこんな気持ちになるなんてな。
これって、あれかな。日曜日の夜は明日から学校があるから楽しいはずのアニメを見ていてもつらくなるという、サザエさん症候群(俗称)と同じ現象かな。
そう思っていたら、生徒たちがぞろぞろと帰って来た。
何故か全員にやにやしている。何かいいことでもあったのだろうか?
「校長先生、もう体調はよくなられましたか?」
そう尋ねたのは、カリエルナだ。
「ん、あぁ、大丈夫だ。悪いな、心配かけて」
「そうですか。あの、校長先生。キャンディのこと。そして、この修学旅行のこと、ありがとうございました。全員、とても楽しみました」
「そうか、楽しんでもらってよかったよ」
「それで、これ、皆からの気持ちです」
カリエルナが出したのは――絹でできた巾着袋であった。
色鮮やかな巾着袋だ。
「先生に何が一番似合うかなって思ってさ」
「先生、お金とかいっつも無地の皮袋に入れてるだろ」
「たまにはこういうオシャレな袋を持っていてもいいと思いますよ」
「大切に使ってくれよな」
俺はその巾着袋を見て、ふっと笑った。
学校を作ってよかったなと思った――そんな単純な思考を持っている俺自身がおかしかったのだ。
「お前ら、最終日にこんなもの買って、金が無くなったからって貸してやらないからな」
「こーちょー先生。俺、シグレ先生に買うお土産代無くなったんだよ」
「うるせぇ、マルジュ。そもそも、シグレはこの国が故郷だから土産はいらないだろ」
「よし、こーちょー先生の言質が取れた。シグレ先生の土産は要らないってさ」
「あ、マルジュ、お前ずるいぞ。俺のせいにするなよ――シグレはサクヤみたいに口うるさくはないけど、俺の印象が悪くなるだろうが!」
俺は、いや、俺たちはその後、修学旅行最後の夜を目一杯楽しむのだった。
次章予告
ユーリに紹介されてドワーフの魔王と会ったコーマ。コーマが持参した酒により、ふたりは一気に仲良くなり、コーマは様々な鉱石を手に入れることができたのだが、そのドワーフの魔王との会話で、自分の迷宮の思わぬ欠点を知ることになる。一方、ラビスシティーに訪れた謎の一団。他国の騎士一団だったが、彼等を率いる思わぬ人物とその行動に、コーマはどう対処すればいいのか本気で悩むことになる。
一方そのころ、クリスは例によって例のごとく騙されていた。
本格迷宮経営開始? のアイテムコレクター最新章。
11月28日より始動!




