コーマの役目
「なんでこーちょー先生まで大会に参加してるんだよ」
決勝戦開始前。参加者には個室の控え室が割り当てられていて、既に決勝戦の参加者は全員入室している。
その控え室に、マルジュがやってきた。関係者以外立ち入り禁止なのだが、コメットちゃんが一緒だからいろいろと納得がいった。コメットちゃんはこの大会の関係者だ。何しろ、資金提供から大会の立案、裏工作などは全て彼女がやったのだから。彼女が言うには、奴隷だったときに相当メイベルに指導を受けたらしい。
つまり、コメットちゃんがいたら、関係者席も顔パスで入れることになる。共にいるマルジュも。
「先生、キャンディの応援だけじゃなかったのかよ」
「事情があるんだよ……事情が……な」
「なんだよ、それ。答えになってないよ」
「マルジュくん、ちょっと待ってください」
コメットちゃんはマルジュを制し、俺に尋ねた。
「あの、コーマ様……町中で噂になっていますけど、やはり本当だったのですね」
「あぁ、本当だ。あれの対策をしないといけない。いくらアルティメットポーションで治療しているとはいえ――俺だけはあれを食べたくない」
「そう言いながらも、コーマ様、毎月食べていますよね。文句を言いながらも」
「約束だからな……」
俺はルシルの料理を一カ月に一度食べるという約束をしている。それだけは守っている。おかげで、通常の毒に対する耐性はありえないほどに増している。今なら青酸カリを一気飲みしても耐えられるんじゃないだろうか? アーモンド臭どんとこいだ。
「とくわからないけど、こーちょー先生、キャンディの邪魔はしないでくれよ」
「しないしない。ていうか、お前、キャンディに惚れたのか? 委員長が泣くぞ」
「違うよっ!」
マルジュはそう言うと、あいつにしては珍しく怒って出ていった。
なんなんだ? いったい。
それより、俺は料理を作らないといけない。
自分が助かるための料理を――
鯛の生態を調べようと思ったが、そもそも、この世界に鯛という名前の生き物は存在しないようだ。
ならば、俺が今からしないといけないのは、日本での鯛のイメージ。
きっとルシルが持っている鯛のイメージも似たような物だろう。
そう考えていたら――
「コーマ様――マルジュくんはただ、コーマ様になりたかったんだと思います」
「俺に? マルジュも校長先生になりたかったのか?」
あいつの前で、次期校長はカリエルナだって宣言してしまったからな。あいつ、意外と負けず嫌いだから。
うーん、あいつのためにもう一個学校を作ってそっちの校長になってもらっても……でもマルジュだしな。
「いえ、そうではなくて。マルジュくん、本当にコーマ様には感謝しているんです。孤児だった自分に食事と住む場所、さらに勉強させてもらえる場所まで与えて下さったコーマ様に対して」
「あいつが俺に感謝? ないない。いつも俺のことを小ばかにしてるようなあいつが」
「本当ですよ。カリエルナさんから聞きました。マルジュくんは将来、コーマ様のようになりたいと。コーマ様を目標にして頑張っていると。目標がコーマ様だからこそ、学校の中でなんて躓いていられない。だから、彼が学校で一番の成績を誇っているんだと思います」
コメットちゃんが俺の目を見て言った。
マルジュが……あいつがそんなことを思っていたのか。
「……やれやれ、参ったな」
俺はさっそくプランの練り直すことにした。
ルシル料理の被害者をゼロにする……正確には審査員以外にルシル料理を食べさせない。
そのための作戦は――
「あれしかないな」
俺はアイテムバッグの中に手を入れた。
※※※
そして、いよいよ決勝戦がはじまる。
参加者は、俺、ルシル、キャンディ、モブ7名。
そのうちのモブ1名が俺に近付いて来た。
白いコック帽を被り、分厚い唇、大きな目の男。その姿は、絵描き歌のかわいいコックさんみたいだ。
「あなたが予選一位通過者のコーマさんですね。私はマロモブ。近くのレストランでシェフをしている、予選を二位通過した者です。予選とはいえ、誰かに負けるのはこれがはじめてのことですからね、一度挨拶しておきたかったのですよ。一体、どんな不正な手段を使ったのかは知りませんが、予選とはいえ私に勝ったのですから、せいぜい無様な負け方はしないでくださいね。でも、どんな手段を使っても観客と、あの食の達人Sの舌はごまかせませんよ。ははは――」
そう言って、男は歩き去った。
えっと、名前は……なんだったっけ?
とにかくモブは歩き去った。
一体何しに来たのだろう?
そして、俺は会場を見回し、そしてルシルを見つけた。
一番奥の調理台の上に、食材や器材を取り出している。その目は真剣そのもので、俺のことなど目に入っていないようだ。
その調理台の隣にいたのはキャンディか。調理台の場所はくじ引きで行われたが――運の悪いやつだ。ルシル料理が暴走した場合、最初の被害者になりかねない。
でも――それを止めるのが俺の役目だ。




