伝説の料理人
修行パートが終わり、俺たちは予選審査用の品を作っていた。
「修行の成果を見せてみろ! キャンディ!」
「はい、師匠!」
キャンディは溶かした飴を棒で混ぜ、一分のうちにそれを作り出した。
黄金色に輝く木の下で佇む少女。彼女の手には本がある。さすがに本の中身までは表現されていないけれど、木葉一枚一枚までは表現されている。
「師匠、どうですか?」
「……よくやったな。俺に教えることはもう何もない」
「はい――木工細工の組み立てばかりやらされたときはもうダメかと思ってましたけど、本当に成長するんですね」
飴細工をいくら作っても細工スキルが成長しなかった。さらに、俺も飴細工の修行法なんてわかるわけないから、とりあえず細工スキルのレベルを上げることに専念してもらった。ちなみに、飴細工作りも無駄ということはなく、キャンディにいままでなかった料理スキルが発現し、レベル3にまで上昇していた。
技の神薬も十分にチートな薬だな。
最近、力の神薬を飲んでもなんか成長している実感がないし、技の神薬に切り替えようかな。
「先生――俺たちもう帰っていい?」
マルジュからそんな声があがる。
なんだよ、不満なのか?
寝ずに働かされて? 交代で寝ているだろ。
俺とキャンディは文字通り不眠不休だぞ? 睡眠代替薬や疲労回復薬は飲んでいるけど。
「商品は売り切れたのか?」
「えっと、まだ売れ続けているけど」
「なら、頑張って売れよ」
「さっき、コメットが急遽開いたオークションで先生が作った変な木工細工が金貨20枚で売れて、なんかバカらしくなったんだけど」
ん、おぉ、俺が作った木製の機関車の玩具(レール付き)、金貨20枚で売れたのか。
なんでも、有名な科学者と物理学者が最後まで競り合っていたらしい。科学者と物理学者の違いなんてよくわからないんだけど、でも見る人が見たらわかるんだなぁ。
蒸気機関は再現されていないが、レールや電車の結合部はかなりよくできていると思うから、もしかしたら数十年後には魔法動力の機関車がこの世界を走っているかもしれないな。
なんて思ったりした。
「その金貨は、とりあえず恵まれない子供たちにでも寄付するとして――」
「先生、なんでお金に執着ないのにお金を稼げるのさ」
「金に執着しないから稼げるんだと思うぞ。とまぁそれより、見てみろ、マルジュ。これが予選用の品だ。これだけのものなら、十分決勝に行けるだろ」
「俺はさっき作っていた奴のほうが好きだけどな」
「あれは決勝戦用だよ。時間的にもな……じゃあ、俺とキャンディは今から参加申し込みに行くから、マルジュは今ある分が売れたら一度宿に戻って休憩してくれ。一般観戦可能な決勝戦は午後からだからな」
チケットはコメットちゃんが取っているそうなので問題ないだろう。
そして、俺たちは十五時間ぶりに店の外に出て――それに驚いた。
壁中にチラシが貼られていた。
今日の芸術料理コンテストのイラストが。
特別審査員は……おぉ、食の達人Sか。ルシルの料理を普通に完食したオリハルコンの胃袋を持つ仮面の少女だ。何故かジャージ姿の。
彼女、まだこの町にいたのか、それともたまたまこの町に訪れていたのか。
彼女なら公正な審査をしてくれるだろうし、例の金貸しの息はかかっていないだろう。
そして、俺が金貸しのことを思い出したら、今度はあちこちから伝説の料理人の噂が聞こえてきた。
「伝説の料理人か……その噂は俺も聞いたんだけど、キャンディ、知ってるか?」
「この町で彼女を知らない人はいません。彼女が作る料理は、まるで生きているかのようで、芸術料理コンテストに参加するなら、間違いなく優勝候補になります」
「そんなに凄いのか……」
「はい、まるで生きているというか、本当に生きているんじゃないか? というか、彼女が料理コンテストに参加すると常に数十人の被害者が出ますからね。料理に襲われて。彼女が持つ薬のおかげで死者は出ていませんし、彼女の料理を食べることで悟りを開いた料理人も現れ、今ではこの町で一番人気の――」
「ちょっと待ってくれ――その料理人の名前を――」
大会会場の前にたどり着くと同時に、俺も嫌な答えにたどり着いた。
まさか――いや、まさか、あいつがここにいるなんてことは――
「ふふふ、芸術料理コンテスト! 私のためにあるようなコンテストじゃない! 今度こそ殺人料理コンテスト以外のトロフィーを持って帰ってコーマをぎゃふんと……あれ? コーマ、こんなところで何をしてるの?」
「お前こそこんなところで何をしてるんだよ、ルシル!」
まさかの殺人料理人がそこにいた。




