飴細工職人の修行
「芸術料理コンテストですか?」
キャンディが尋ね返すので、俺は明日行われることになったコンテストの詳細について説明した。
賞金の額、審査内容等。
今日の夜までに全ての料理店にビラが配られ、コンテストの開催が告知される。まずは明日の昼までに一品を持って行き、それが審査され、一時間後に予選通過者の発表がされる。
決勝戦は、かつて殺人料理コンテストが行われた闘技場で実演形式で行われ、審査員と観客の投票によって優勝が決まる。
「急な開催だけどさ、賞金、条件、ともにこれしかないだろうな」
「で、でも、私、まだまだ修行中で――」
「だろうな――」
俺はそう言うと、先程の飴細工体験の飴を見る。
少し冷めてしまっていて、しっかり固まってしまっているので、熱を加える。
「あ、あの、はじめての方がなさると飴が焦げてしまって」
「確かに飴細工を作るのははじめてだけど、でも素人ってわけじゃないぞ」
俺は適温に熱せられた飴細工を棒で引っ張り、指先と鋏、針を動かしフェニックスを作り出す。
「悪いが、料理も細工も俺の得意分野だ」
何しろ、俺は料理スキル、細工スキル、ともにレベル10だからな。
経験はないけれど、それをスキルでカバーできる。
「……凄い、本当に生きているみたい」
「今にも飛び出しそうだ」
「羽の一本一本まで再現されている」
「校長先生って本当に何者なの?」
生徒たちが俺のフェニックスを見てそんな感想を漏らす。
コメットちゃん、「コーマ様だから当然です」みたいな顔はしなくていいから。
そして、キャンディもまた――
「お父さんと同じレベル……ううん、それ以上かも」
そして、キャンディは工房の床に手を付き、
「お願いします。私に、その技術を教えてください」
「あぁ、教えてやるよ。徹夜になるから、まずはこの栄養ドリンクでも飲みな」
俺はそう笑いかけ、かつてクルトにも飲ませたそれを取り出した。
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技の神薬【薬品】 レア:★×8
10時間スキル成長率を500倍にする薬。超薬、霊薬および神薬は1日1本までしか飲むことができない。
伝説の薬であり、生きている間に一度出会えるかどうか。買うことができるかどうかは別の話。
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キャンディは疑うそぶりを見せず、俺が出した薬を一気に飲んだ。
そして、睡眠代替薬等、必要になりそうな薬の在庫を確認すると、マルジュ達を見た。
「じゃあ、お前等はとっとと宿に帰って飯食って寝ろ!」
「「えぇぇぇぇえ……」」
生徒たちからブーイングが上がる。
「こーちょー先生、俺たちも手伝いたいよ」
「ビラ配りとか、なんでもするから」
「キャンキャンのこと放っておけないよ」
「キャンキャンって、いつの間にそんなあだ名つけてるんだよ」
俺はため息を漏らし、
「わかったよ。これから試作品を作るから、その販売をコメットちゃんと一緒にしてくれ」
「わかった! 先生、これも売っていいの?」
俺が作った不死鳥の飴細工を女子生徒が指差して言った。
「あぁ、いいぞ。値段はコメットちゃんに一任するから。じゃあ、キャンディはこれから修行だ。明日までに細工レベル5を目指すからな」
「は、はい!」
キャンディは頷き、そして明日を目指して修行を開始した。
※※※
一方その頃。
金貸し『マネー&マネー』の執務室。
ふたりの男が話をしていた。
『こんな時に芸術料理コンテストだと……? どうするつもりだ? あの飴細工職人が優勝して借金を返済するようなことがあれば、金貨20枚からの損失だぞ』
『安心してください、既に手は打っております』
『手を打っているだと? いったい何を――』
『実は先日より時折訪れるあの伝説の料理人――彼女と先ほどコンタクトを取ることに成功しました』
『あの伝説の料理人とコンタクト? まさか、彼女を出場させるつもりか?』
『ええ、あの人なら間違いなく今回のコンテストで優勝をかっさらうことでしょう』
『そうだな、彼女なら問題ないだろう。主も悪よのぉ』
『いえいえ、社長の方こそ――』
俺はその声――コメットちゃんに頼んで執務室の中にこっそり放り込んでもらった通信イヤリングから聞こえる声を聞いて、こいつら、全然悪人じゃないなと思った。
てっきり、着け火とか闇討ちとかそういうことをしてくるかと思ったが、その心配はなさそうだ。
正々堂々の勝負ならば、こっちも受けて立つよ。
飴細工の熱により焼けただれるキャンディの手のひらを見て、そう思った。
どこまで成長できるか……それは彼女の頑張り次第なのだが、これなら問題ないだろう。




