聖戦の結末
14時45分。計画は動き始めた。
『こちらアルファ。ターゲットB発見。これより接触を試みる』
「アルファ了解。検討を祈る」
『ラジャ』
通信イヤリングを、トランシーバー風に改造した玩具(非売品)を使ってマルジュとやり取りした俺たちは、全員に頷いた。
学生服の上着を脱ぎ、丸めた布団に着せてベッドの上に並べた。
よく見なくてもすぐに見抜くことができるが、これは時間稼ぎと、もう一つ、トランシーバー風に改造したイヤリングを布団の中に忍ばせ、誰かが入ってきたらすぐにわかるようにしている。
女子生徒が移動を開始する前にバセロナードに見つかったら、女子生徒は女湯には入ってこない。そうなったら、全てが露見する前に女湯から逃げないといけないからだ。
「手筈通りに。独断行動をしたものは切り捨てる」
ヨハンがそう言って部屋を出た。
長い廊下。死角が多く、従業員に出くわす危険がとても高い。いきなり危険度MAXゾーンだ。
俺ならば索敵スキルがあるので、従業員の位置は手に取るようにわかるのだが、今回は俺は手を出さない。
「いきなり拙者の出番のようだな」
そう言って眼鏡の男子生徒Bは懐から聴診器を取り出した。
彼の名前はシュビルツ・キーリング。キーリング家はフレアランドでも随一の名家でありながら、その出自は全員が探検家である。
探検家。トレージャーハンターとも言われ、冒険者の中でも隠された遺跡や財宝を探す職業である。
学校には、古代文字や遺跡について学ばせるために学校に入学させられた。
彼は聴診器を床に当てる。
「動いている足音は二つ。大丈夫、こちらとは全く違う方向に移動している」
凄いな……足音だけでわかるのか。
全員がそそくさと移動を始め、階段を下りる。浴場は一階の奥にある。
「厄介だな」
シュビルツが呟いた。
「どうした?」
「この先で床掃除をしているようだ。浴場はこの廊下を通らないといけないというのに」
「……僕に任せて」
そう言ったのは、小学生のような幼い外見の、だが実年齢は15歳の少年、ピロシキ。
劇団一座マトリョーシ一家の座長の息子として育った彼は、役の幅を広げるために多くの生徒が通う学校に入って来たそうだ。
彼は全員に物影に隠れるように言うと、喉を触りながら、
「あ……あ……あぁ、うん」
まるでチューニングするように声質を変えていき、
「おおい、掃除はそのくらいにして厨房に来てくれ。頼みたいことがある」
その声は……俺たちを出迎えた宿の主人そのものだった。
そしてピロシキも一緒に隠れる。
俺たちとそんなに変わらない年齢の女性従業員が去った。
「よし、行こう」
ヨハンを先頭に、俺たちは女湯に忍び込む。
女湯の前には清掃中の看板がかかっているが、
「大丈夫だ。中には誰もいない」
シュビルツが言った。その言葉を皮切りに、全員が脱衣場へと流れ込む。
「……ごくり」
誰かが生唾を飲み込んだ。
わかるよ。誰も入ったことがないとはいえ、女湯や女子トイレ、女子更衣室といった男子禁制の場所は入るだけでもいろいろと感じるものがあるよな。
そして、俺たちは脱衣場で服を脱ぎ、前もって用意していた水着に着替えた。
服を着たまま蒸し風呂に入る気にはなれないからな。
もちろん、脱いだ服がここにあれば、誰かが中にいることはバレバレなので、脱いだ服は風呂敷に入れて持って入る。
俺は腰につけたままのアイテムバッグに入れた。
そして、まっしぐらに女湯へと入っていく。
扉を開けると同時に、硫黄の匂いがした。
まるで刑務所のような高い壁と四角い空の露天風呂。
温泉は源泉かけ流しのようで、後で男風呂に入るときはゆっくりしようと思った。
誰かが風呂用の椅子を見てまたもや生唾を飲み込んだ。
「なぁ、女子って、あの椅子に座るんだよな……直接尻を乗せるんだよな」
「おい、ヨハンを押さえろ! あの目はヤバイ! 舌を出すな!」
「ヨハン、正気に戻れ。お前の行動は同性の俺が見てもさすがに気持ち悪い!」
「うるさい、毒を喰らわば皿までだ!」
「冷静になれ。いいか? 誰が使ったのかわからない風呂用の椅子を舐めても楽しいのか? 女子生徒が使った後だと確実にうちの女子生徒が使った椅子だ。舐めるならそのほうがいいだろ!」
壊れかけたヨハンに、俺がそう説得した。
それにヨハンの目は生気を取り戻す。
「悪い……よし、行こう、みんな」
ヨハンが持って来ていた「故障中、使用中止」のプレートをつけ、蒸し風呂の中に入った。
まずは皆がヨハンの姿を確認する。
「大丈夫だね。凝視しない限り気付かれないよ」
ピロシキが言った。
そして、全員が蒸し風呂の中に入った。
※※※
15分後。
「なぁ、女子が脱衣場に来てから入ったらよかったんじゃないか?」
誰かが言った。みな、もう限界だった。蒸し風呂――サウナほど温度も湿度も高くはないとはいえ、長時間入るものではないからな。
蒸し風呂は魔道具によって湯気がでているらしく、中から止めることはできなかったので、我慢大会状態になっている。
俺だけは耐熱ポーションを飲んでいるので全然平気なんだけど。
「そうだな、一回外に出て――」
「待て、足音が聞こえる」
シュビルツの声に全員が息をのんだ。
「うわぁ、凄い匂い。これが温泉の匂いかぁ」
「ねぇ、この温泉の効能に美肌ってなかったんだけど、男子が言ってたの嘘だったの?」
「美肌は療養項目ではないので、効能として書いてはいけない決まりになってるんです。でも美肌効果があるのは認めれていますよ」
「さすが委員長。物知りね」
「実は私も気になって、ここの職員さんに聞いたんです」
声がはっきりと聞こえてくる。
六人の女性が入ってきて、掛け湯をして女湯へと入って来た。
当然、さっきまで着ていた制服は纏っていない。
(ぐっ、湯気でよく見えない)
ヨハンがそう呟き、ふー、ふーと息を吐くが、当然、その息は部屋から出ることはない。
(おい、いま、胸のあたりに小さな影が見えなかったか?)
(マジか、俺、全然見えていないぞ)
(視力が上がる薬って売ってないのかな)
(あぁ、飛び出したらダメか! 出て行ったらだめか?)
(落ち着けヨハン。今出ていけば椅子を舐められないぞ)
(そうか……くそっ、椅子を舐めるか裸体を拝むか)
男たちがバカなことを言っている。
バカすぎるのは、長い間蒸し風呂に入っていたせいで頭がぼーっとしているせいだろう。
俺もそれを遠くから見ていた。
すると、女子生徒たちが上がった。
(((チャンスきたぁぁぁぁっ!)))
全員が歓喜した。
と同時にピロシキが倒れた。鼻血が出ているのは、湯当たりか、それとも興奮したのか。
とりあえず、ピロシキのHPは確認して、熱中症になっていたらエリクシールをかけてやろう。
(お、おい、どうなってるんだ? こっちに近付いてくるぞ)
(この看板が目に入らないのか?)
(やばい、隠れろ! ヨハンっ!)
(ダメだ、俺は今から神秘をみるんだ。もう捕まってもいい。ここで見る!)
そう言いきったヨハンを引きずり、扉の外からは見えない死角に逃げた。
そこなら女子生徒に気付かれないはずだった。
だが――
「本当にいたよ、バカな男子たちが」
そう言って女子生徒のひとりが入って来た。
「呆れた。全員いるんじゃない?」
「いや、マルジュだけはいないよ」
「本当だ。マルジュくんなら一番先頭にいると思ったのに」
そして、男子生徒は女子生徒を見て、言葉を失った。
なぜなら、女子生徒は――
「裸だと思った? 残念、女子のしおりには、今日の温泉はこれを着て入ることって書いてあったのよ」
そう、全員水着を着用していたのだ。本来は禁止されているはずの水着だが、貸し切りということと温泉の成分に強い水着を用意することで使わせてもらった。
「「「なんじゃそりゃぁぁぁぁっ!」」」
俺を除く全員が大声をあげ――その場で倒れた。
熱中症だった。
俺がコメットちゃんの裸を他の男に見せるわけがないだろ。
俺だってまだ見てないんだからな。
ヨハンが変態すぎて、書いた私が少し引いている……。
まぁ、普通に覗きは犯罪ですから。
熱中症で倒れた全員は、すぐにエリクシールで蘇生しました。
こんなバカな騒動ですが、あと2話続きます。
そして、こんなバカな話をしている間に申し訳ありませんが、
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犬耳コメットちゃんや、タラ、竜化したコーマの姿もありますので、ぜひ表紙だけでもご覧ください。




