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異世界でアイテムコレクター  作者: 時野洋輔@アニメ化企画進行中
Episode Extra03 修学旅行

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聖戦の計画

 見取り図を確認する。

 男部屋と女部屋の位置、男湯と女湯の位置などが記された地図。


「……まずは聖地おんなゆを一望できる(のぞきポイント)の場所だが――」


 俺が広げた見取り図を見て、ヨハンは女湯の場所に人形を置いた。


「…………っ! おい、ヨハン、それ!」

「そう、覗きポイントは女湯の中にある!」

「いや、そうじゃない、その人形、パーカ人形じゃないか。もしかして、お前集めてるのか?」

「い、いや、集めていない。さっき露店で売っていたのをちょっと買ったんだ。土産になるかと思って」

「どこで売ってた? 売ってたのはこれだけか!?」


 俺が前のめりになって聞く。

 これには若干他の生徒も引いていた。いいんだ、コレクションについて熱く語り、他者に引かれるのは俺たちコレクターにとっては日常茶飯事だ。

「それに費やしたお金があれば、家を買えたんじゃない?」と言われるようなコレクターになるのが俺の夢だった。

 パーカ人形の売っている場所を聞き出そうとする俺の襟首を、マルジュが引っ張る。


「こーちょー先生、どうせ買い物は明日の朝までできないんだから、その話は後にしてよ」

「ぐっ……」

「で、女湯が覗きポイントってどういうこと? まさか堂々と女湯に入るつもり? それじゃあ覗きじゃなくて乱入だよね」


 マルジュが尋ねたら、俺の豹変振りに狼狽していたヨハンが正気を取り戻し、小さく咳ばらいをした。


「あぁ、同士マルジュの言う通り、ただ女湯に入っただけなら乱入。しかも、前を隠されて肝心な場所は目視できない。そうなったら失敗だ。だが、ここを見てくれ」


 それは部屋だった。蒸し風呂部屋だ。

 日本で言うところのサウナと呼ばれる場所。


「この宿の風呂は天井がないが高い壁に覆われていて明るく、蒸し風呂部屋の中は暗い。外から中の様子はあまり見えないはずだ。まず、女子が女湯に入る前に俺たちが女湯に忍び込み――」

「さっきまでの聖地おんなゆとかは使わなくていいの?」


 律儀にツッコミを入れる男子生徒Bの言葉に、ヨハンは首を横に振り、


「いろいろと面倒になったのでもういいだろう。とにかく、風呂は15時まで清掃中で入れないが、実際は14時50分に清掃を終えて職員は出ていく。その十分間の間に女湯に忍び込み、蒸し風呂部屋に“故障中、使用不可”のプレートを掲げ誰も入ってこれないようにしてから、堂々と女湯を覗く」

「となると、問題はバセロナードか。温泉の利用時間は覗きを警戒して、男女で分けられている。そして、担当教諭も覗きを警戒し、この三点を重点的に警備しているそうだ。他にも旅館の職員に見つかったら、バセロナードに知られる恐れがある。この宿のスタッフは若い女性が多いから、俺たちの味方にはなってくれないだろうな」


 俺は地図の三点に、自前のパーカ人形ミックを置いた。学校の犬という意味での犬の指人形だ。


「一番有効なのは囮を使い、バセロナードを引きつける手段だ」


 ヨハンはそう言ったが、首を振った。

 ダメだと悟ったのだろう。


 当たり前だ。囮を引き受けたものは、リスクが高いだけでなく、女湯を覗くことができなくなる。

 しかも、誰かが失敗して計画が明るみに出れば、囮役になった人間も漏れなく罰を受ける。

 ハイリスクノーリターンの役でしかない。


 そんな役を喜んで引き受ける者など……


「俺が行くよ」

『……………………っ!』


 誰もがその声に驚愕した。

 そう言って手を挙げたのは、マルジュだった。


「マルジュ、どうして……」

「わかってるんだ。みんなと違って彼女がいる俺のことをちょっと疎んでいたってことくらい」


「いや、疎んでいたというか、爆ぜろと思っていたぞ」

「俺はもげろって思ってた」

「ハゲロって思ってた」


 思ったより嫉妬の力は強いようだ。

 酷い。


「でも、だからこそ、俺はここでみんなの役に立ちたい」

「……マルジュ、どうやら俺たちはお前を誤解していたようだ。本当は覗きが見つかれば全てマルジュの発案だったと口裏を合わせようとしていたのだが」

「ひどっ! え、マジ? 俺そんなの聞いてないよ」

「安心しろ。お前の犠牲は無駄にはしない。俺たちは必ず聖地を拝み、その土産話をお前に聞かせる」

「あぁ……うん……まぁ、いいんだけどさ。それで、こーちょー先生、ちょっと囮について相談があるんだけど、いいかな? 他のみんなは先の計画を立てていなよ」


 マルジュはそう言うと、俺を呼び、そしてこう尋ねた。


「……何を企んでるの?」


 そう言ったのだ。


「どうして、俺が何か企んでると思う? 俺はこういう悪戯は大好きだぞ」

「いや、だって――」

「……どうした? マルジュにしては歯切れがよくないじゃないか」

「その……」


 マルジュが言った言葉に、俺は思わず笑ってしまった。

明日は日付け変わってすぐの更新になります。

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