竜車で移動
クラスメートは見事に三種類に分かれていた。
パッと見ただけでは二種類に別れているのはよくわかる。
ぐっすり眠れた生徒と、全く眠れていない生徒。
俺は眠れていない生徒の部類だ。コメットちゃんとカリエルナはしっかりと寝たようだ。
では、もう一種類は何かというと、つまり眠れていない生徒の、眠れていない理由だ。
一組は単純に友達と話して寝不足になった、つまりは楽しんで眠れていない生徒。
もう一組は、枕が変わって眠れないとか、王城の中という厳格な場所に緊張して眠れない、つまりは悪い意味で眠れていない生徒。
そして、眠れていない生徒の大半は、移動中の馬車の揺れに身を任せてすぐに睡魔に陥ってしまった。
俺は――もう吐きそうだ。
森を抜け、国境砦で手続きを終えた俺たちは、ようやくコースフィールドにたどり着く。
まず向かうのは、国境沿いなら必ずある竜車小屋と牧場だ。
そして、そこで見たのは――
「うおぉぉぉ、すげぇぇっ! コーチョー先生、これに乗るの?」
「…………揺らすな触るな騒ぐな……昨日食べた物が逆流する……馬車酔いが嫌で朝飯食べなかったのに。昨日の夜に食べたパンってまだ胃の中に残ってたんだな」
「先生の胃の内容物なんて興味ないよ。あと、パンは2、3時間で消化されるから、バターじゃないの? 先生、昨日の夕食にバターを一杯使ってたじゃん」
「バターか……油は消化されにくいって本当だったのか」
マルジュが騒ぐ理由もわかる。まぁ、最初にこれを見たら驚くよな。
大聖堂にいる竜とは違う、地を這う竜。
見た目は地球上にかつて存在したトリケラトプス。ただし、その大きさはそれを凌駕する。
地竜。
コースフィールドで主な移動手段として使われる竜車だ。地竜は背中に子供を乗せて移動する習性があり、その乗り心地は最適。
マルジュだけでなく、他の生徒も興奮しているようだ。と、周囲を見回すと、こそこそとあたりを伺いながら、何か話す男子生徒四人が。
「……で……なんだよ」
「マジかっ!」
「……バカ、誰かに聞かれたら……」
なんだ、あいつら、何を話しているんだ?
チラチラとコメットちゃんやカリエルナたちを見ているが。
俺が声を掛けようかと思ったら、マルジュが先に俺に声をかけてきた。
「コーチョー先生、これに乗ってどこに行くんだっけ?」
「今日はセイオンの町だな。温泉の出る歓楽街として有名な娯楽の町だ」
「温泉? 俺、温泉に入るのは楽しみだよ……先生、乗っていいの?」
そわそわしているマルジュ。他の生徒も竜に乗ってもいいのかと、俺を見ているが、
「ごほんっ……引率は私であることを忘れないように」
バセロナードが咳払いをして言った。
※※※
バセロナードの許可を待ち、
踏み台を使い、竜車に乗り込んだ。
竜車は三体しか用意できなかったので、一番大きな地竜には二班、七人で乗っている。俺たちは小さい竜に五人。
バセロナードが一緒に乗り込んだ。
「……確かにこれは快適ですね……御者さん、この竜車はどのくらいの速度が出るんですか?」
「最高で馬の3倍の速度で走らせることもできますが、私たちは馬より少し早いくらいの速度で進みます」
「それはどうしてですか?」
「地竜は子供を背中に乗せて運ぶ竜です。速度を上げる時は、背中の子供が落ちる可能性が僅かに上がり、地竜のストレスに繋がります。それを続けたら病気になってしまいますから」
「なるほど、子供を一番に考えた優しい竜なんですね」
「はい。地竜のメスは必ず卵を二個産み、オスとメスの双方が背中に卵を乗せ、二頭とも子供を育てます。もしもそうなった地竜がいたら、私たちはかならず彼らを草原に放ちます。彼らは人を襲うことはありませんし、子供が一人前になれば必ず牧場に戻ってきますから」
「それは素晴らしいですね。まさに人と竜の共存。さすがはコーマ殿、なんと素晴らしい教育テーマを――」
「こーちょー先生、見て見て、あそこに角が生えた兎がいた!」
「あれはウサギじゃなくてネズミだぞ」
「マルジュ、竜車から乗り出したらダメよ。落ちちゃう」
「コーマ様、皆様、お茶が入りましたよ」
「……全然私の話を聞いてませんね」
俺はコメットちゃんが淹れてくれたお茶を飲む。
話は聞いていたけれど、聞き流していた。
マルジュの話を真剣に聞いていたかと言われたらそうではない。
さっきから気になるんだよな。
もう一つの竜車に乗っている四人組。全員男の四人組の生徒は草原よりも女子生徒たちを見ているようだ。
んー、気になるな。まさかとは思うが。
※※※
俺たちはセイオンの町にたどり着いた。
さすがは観光が盛んということもあり、お土産屋がいろいろとある。
「皆さん、買い物や観光は明日の午前中に時間があります。今日はこれから宿に向かいますからついてきてください」
バセロナードが俺たちを促す。それでも生徒たちは前へと進まない。見る物全てが新鮮と言った感じだ。
ここはラビスシティーからも近く、多くの観光客が訪れるから、はぐれたりしたら危ないんだけどな。
でも、あちこちに警備の人が立っていて、犯罪の抑止になっている。道に迷えば最悪彼等に宿の場所を尋ねれば問題にはならないか。そう思っているのかもしれない。
こういうのも学生らしくていいよな。そう思っていたら、
「おい、お前等。先生がついてこいって言ってるだろ。観光は明日だ。早く宿にいこうぜ」
「あぁ、俺も長旅でくたくただからな。温泉に入ってさっぱりしたいよ」
「先生、宿に付けば、夕食の時間まで温泉に入れるんだよな?」
「楽しみだな、温泉。知ってるか? 温泉に入ると一週間は肌がツヤツヤになるらしいぜ」
そう言ったのは、先ほどから何やら悪だくみしていそうな生徒だった。
先生が言うよりも、同じクラスメート、しかも複数名が促すことで、生徒たちは自重するようになり、バセロナードに従って前に進む。
そして、俺は確信した。
あの四人……男の聖戦を起こすつもりだな。




