女の会話
リーリウム王国の客間。
私、コメットはベッドの上で話していました。テーブルの上に置かれたブドウジュースを酌み交わしました。
一気に飲むには勿体ないほど高級そうな瓶に入ったブドウジュースなので、一口、いえ、半口飲んだだけで、テーブルの上に戻します。
私の前に座るカリエルナさんも同じようで、お互い、グラスに注がれたブドウジュースの量はほとんど減っていません。
それを見て、私とカリエルナさんはお互い笑い合いました。
「意外ですね。校長先生と一緒にいる人ですから、こういうジュースは一気に飲む人だとばかり思っていました」
「これは昔からの癖ですから、たぶん一生抜けないと思いますよ。それに、コーマ様は贅沢をなさる人ではありません。食べ物も私たちが育てた野菜や穀物などを好んで使ってくださいますし。最近はブラックバス料理にはまっているんですよ。自分で釣って試行錯誤なさっているんです。家も自分で建てましたし」
「それは凄いですね。校長先生はなんでもできますから……あ、校長先生って呼び方はやめたほうがいいですか?」
「いいえ、誇らしいですよ。コーマ様が他の方から敬われるのは従者としてとても嬉しいです」
「え? 従者なんですか?」
カリエルナさんは意外そうな顔で言いました。
「てっきり恋人かと思っていました」
「そうなれたらうれしいんですけどね……ちょっと手ごわい相手がいるので」
私はルシル様の顔を思い浮かべて言いました。
ルシル様は、「私とコーマはこのあとも数百年、数千年と悠久の時を生きることになるのだから、コメットが死ぬまでの数十年は、遠慮せずに付き合えばいいのに」と仰って下さいますが、コーマ様がその気になるにはあと何年かかるかわかりませんが、いつか振り向かせてみせます。
「カリエルナさんはマルジュくんと恋人同士なんですよね。どうしてマルジュくんと付き合うことになったんですか?」
「そうですね……マルジュは学校で一番の天才なんですよ」
「いきなり惚気ですか?」
私が笑って言うと、カリエルナさんも笑ったけれど、首を横に振りました。
「そうならいいんだけど、私は嫉妬したんですよ。一番おちゃらけて、勉強もさぼってばっかりのマルジュに勉強で負けたことがとても悔しくて。三回連続マルジュに負けた時、私、言っちゃったんです。『なんでそんなに遊んでばかりなのに私より勉強ができるのよ』って。悪い子ですよね。いつもは真面目に勉強しろってマルジュに怒ってばかりなのに、マルジュが私よりも勉強ができることに怒っちゃうなんて」
「そんなこと……」
そんなことないと言おうとしたけれど、カリエルナさんはそんな自分が嫌いなのだと思いました。彼女はそれが嫌だと思って変わろうとした、もしくは変わったのでしょう。
「私は言って恥ずかしかったです。でも、マルジュは笑いながら言ったんです。『いいんちょ。俺は目標にしている人がいる。悪いけど、こんなところでいいんちょなんかに負けていられなんだよ』って……マルジュはそう言って、私に分厚いノートを見せてくれたんです」
「ノート?」
「勉強のノートでした。マルジュ、もう学校の中等部で習う範囲の授業、全部、自力で学び終えてるんです。たぶん、私たちが勉強の復習をしたり、寝ていたりする間に」
カリエルナさんが言った言葉を聞いて、私は思いました。普通は「遊んでいる間に勉強しているんでしょう」と言うところを、復習と寝ている間、というあたり、カリエルナさんは余暇の時間は勉強と休息しかしていないんだろうなと思いました。
「私は学校で与えられたことしかできていません。でもマルジュはいつも先を見て行動しているんです。マルジュに負ける理由を、私はその時にようやく知ったんですよ」
「……未来を見て行動……偉いですね。それでマルジュくんのことを好きになったんですか?」
「いいえ、私はさらにマルジュに嫉妬しましたよ。マルジュにできて私にできないわけがないと。それで私も予習をはじめたわけですけど、自力での予習って限界があるんですよね。それでわからないところはマルジュに聞いて、一緒に勉強するようになり――なんですかね、そのうち彼とずっと一緒にいるのが普通だと思うようになったんです」
「ずっと一緒にいるのが普通……ですか?」
「はい。それで、好きとか嫌いじゃなくて、マルジュと一緒にいたら楽しいかな? って思うようになったんです」
この時、私はふと疑問に思いました。
「好きじゃないのに付き合ってるんですか?」
「おかしいですか?」
「……おかしくは……んー、どうなんでしょうかね」
「じゃあ、今度はコメットさんとコーマ様はどうやって出会ったんですか?」
……あ、やっぱりそうなりますよね。
えっと、コーマ様が魔王であったりとか、そのあたりはぼかして話さないといけません。
「えっと、私のはじめての出会いは二回あるんですが」
「はじめてなのに二回あるの?」
「ちょっと複雑な事情がありまして。どっちの話をしましょうか。私が瀕死の重傷を負っていたところをコーマ様に助けられた時の話と、私が奴隷だったところをコーマ様に助けられた時の話と」
「……あの、コメットちゃんってもしかして、私が思っているより壮絶な人生送ってない?」
カリエルナさんの問いに、私は笑顔で答えました。
「いいえ、普通ですよ」
普通じゃない。




