修学旅行のはじまり
学生服を着たコメットちゃんは、俺を見ると上目遣いで、
「どうですか? コーマ様」
と尋ねた。率直に言って、似合っている。似合っているけれど、ちょっと幼く見えるかな。お姉ちゃんの学生服を背伸びして着ている小学五年生といったところか。
それでも、コメットちゃんもちょっと大きくなったよな。
「コメットちゃん、ちょっと背が伸びたんじゃないか?」
「はい。この前計ったら、人間のコメットにだいぶ近付いていますね。もしかしたらもっと背が伸びるかもしれません」
コメットちゃんがそう言うと、畳に寝転がって塩煎餅を食べていたルシルがこちらを向き、
「コボルトって、グーとタラくらいになると普通は成長しなくなるはずなんだけど……成長しているのは融合が関係あるのかしらね……」
「力の神薬の影響ってことは考えられないか?」
「その可能性も否定できないけど、でもクリスはそれほど成長してないでしょ?」
「そう言えばバストが少し成長してるって言ってたけどな。……俺、力の神薬を飲んでも成長している感じがしないんだよな。才能限界に達したか?」
今までなら力の神薬を飲むとHPが3パーセントくらいは増えていたんだけど、最近は1パーセント、いや、下手したらもっと低い時もある。
そろそろ力の神薬をやめて、反応の神薬を飲み続けるか、もしくは――そうだな、新たな神薬を求めてアイテム作成に勤しむのも悪くない。
「あ、あの、コーマ様。今の話本当ですか?」
「あぁ。まぁ、成長しているのは確かなんだけど」
「いえ、そうではなく、クリス様が力の神薬で……その、胸が成長しているというのは」
「……あぁ、なんというか、コメットちゃん。女性の魅力は胸だけじゃないぞ」
「コーマ様、それは慰めにはなりません。それに、私も成長してるんですから……ちょっとだけ」
「そうか。じゃあ将来が楽しみだな。ところで、ルシルも修学旅行に行くか?」
てっきりルシルも「私も行きたい!」って言い出すと思ってルシル用の学生服を用意していたんだが。
ルシルは身体を起こして、体育座りで俺を見上げながら言った。
「コーマ、忘れてるかもしれないけど、私は人間じゃないのよ。あまり人間と馴れ合ったらその境界線がなくなってしまうわ。コーマが地上で何をしようと干渉するつもりはないけれど、コーマもわかってるんでしょ?」
「それは……まぁな」
俺は人間ではない。魔王だ。それは紛れもない事実だ。
確かに、ルシルの言う通り、深く関わるのは本当はよくないのかもしれない。俺には寿命はない。不死ではないが不老なのだ。だから、俺が生き続ける限り、俺は出会った人間全員の死を見届けなければいけない。
ルシルも不老だし、マユやマネットは同じ魔王なので一緒に年を重ねることはできるが、コメットちゃんとタラ、他にもカリーヌやクリスの命は有限だ。
別れは必ず訪れる。
「旅行前につまらないことを言ったわね。コーマ、これ……必ず明日読んで」
ルシルはそう言うと、俺に紙を渡した。
その手紙が何なのか……この時の俺は予想することができなかった。
※※※
翌日、俺とコメットちゃんは集合場所に訪れた。
ちなみにだが、スウィートポテト学園で護衛の同行は、今回の修学旅行では認められることになった。
スウィートポテト学園には権力者の息子なども多いからな。
そして、今回、コメットちゃんは俺の護衛ということで来てもらった。
ただし、護衛とはいえ男女は別の部屋に別れてもらうことにしている。
中等部にも、ダークシルドの政治家の息子がいて、彼も男の護衛をつけていた。
今回の旅行は班行動をすることになり、俺はマルジュとカリエルナの班に組み込まれた。というのも、他の生徒が俺と一緒の班になるのを嫌がったみたいだ。臨時生徒とはいえ校長先生だからな。先生と一緒に同行したくないと思ったらしい。
冷たいやつらだ。
でも、マルジュはいつもと変わらずに俺を迎え入れてくれた。
「えぇ、この子がコーチョー先生の護衛? あんまり強そうには見えないけど。もしかして、修学旅行とかこつけて、愛人を囲おうとしているんじゃないだろうな?」
「お前はそんな言葉どこで覚えてくるんだよ!」
俺はマルジュのコメカミのあたりをグリグリとして痛めつけた。
小さい体が持ち上がる。
「うわぁ、体罰だぁ! 大人の横暴だぁ!」
「うるせぇ、今日は校長じゃなくて臨時生徒だから、ただの生徒同士のプロレスごっこだよ!」
俺がマルジュと戯れていると、コメットちゃんは委員長と挨拶していた。
あっちは俺たちみたいにプロレスごっこはせずに温和な空気が流れる。
「よろしくお願いします、私はカリエルナです」
「私はコメットと申します。カリエルナ様ですね。コーマ様から話をよく伺っていますよ」
「え? どんな話ですか?」
「とても真面目で優秀な生徒だから、育てればいいいけに……いい校長先生になるって言ってました」
「今、いけに、って言いませんでした? それって続く言葉は生贄しか思いつかないんですけど」
「言ってません。いけになんて言っていません」
「どうして目を逸らすんですか、コメットさん」
「コーマ様は素敵な方ですから、きっと死ぬくらいの無茶は言わないと思いますよ。お給金もたくさん下さると思います」
「いえ、あの生贄もそうですが、私が校長になるのは確定なんですか? 初耳なんですけど」
カリエルナが俺を見てきた。
凄い睨んでいるが、
「ところで、マルジュ。お前、コースフィールドで何をしたい?」
「そうだな。とりあえず竜車に乗りたいかな」
「あぁ、竜車はいいぞ。静かだし、振動もないから酔わないし」
さて、楽しい修学旅行がはじまるぞ。




