金平糖
アイテムクリエイトのスキルを手に入れた時から、俺の中で何かが変わっていったのは確かだと思う。
俺はこれまで、何かを集めるのが好きではあったが、何かを作るのは好きではない。何故なら、俺が作ったのはオリジナルな物であり、それはコレクションではないから。それでも、コレクションを無駄にしないという目的のため、例えば琵琶湖で釣ったブラックバスをリリースしてはいけないが捨てることもできず、食べるために料理を学んだりをした。
「俺、何してるんだろ?」
と最初に思ったのは、フリーマーケットの寮を作っている時だろう。
いつ、俺は大工になったんだ? 最初は集めたアイテムの性能を確かめる目的だったが、凝りに凝ってしまった。
その後も、料理を作ったり、武器を作ったりと、俺の中で職人魂は芽生えて言った。
そして――
「……あ、あの、オーナー、一体何をして……なさってるんですか?」
フリーマーケットとクルトたちの工房の間に作った簡易小屋の中、俺はひたすら銅鑼を回していた。
汗だくになって。
それを不審に思って尋ねたのは、リーだった。
「……あぁ、リーか。ちょっと……な。再現したい菓子があるんだが、上手くいかなくて……あと、今のオーナーはメイベルだし、今まで通り普通に話してくれって頼んだはずだが」
「……うん。じゃなくて、あぁ。でも、コーマって、やっぱりメイベルやクリスのような丁寧な口調の人のほうが好きなんじゃ」
「そんなことはないぞ」
少なくとも俺が一番好きな女の子は、横柄で俺の事も呼び捨てにする。
「リーとは丁寧に話すよりも友達のようにフランクに話したいよ」
「……友達……か」
少し落ち込んだように言うリー。
彼女は自分を奴隷の境遇から救ってくれたフリーマーケットの前オーナーに対して憧憬のような念があったらしく、それが俺だと知ってから、時折このようになる。俺のことを好きなのかもしれない。その好意は素直にうれしいが、ルシルは兎も角、コメットちゃんやクリスとの関係も全く進んでいない中、これ以上女の子とフラグを立てることはできないから、悪いがちょっとだけ距離を置いて話させてもらう。
ちなみに、俺が今作っているのは金平糖だ。
金平糖の作り方がわからない。
とりあえず、氷砂糖と水で作った蜜を入れて、熱した銅鑼のような容器の中でかき混ぜればいいと思うんだけど。
何かが足りないんだよな。
それにしても、いろいろと失敗してしまった。
本気で料理作りに挑戦して失敗したのははじめてかもしれない。作りたかったんだけどな、金平糖。
結局できたのは、飴玉みたいな砂糖菓子だけか。しかも大量にできてしまった。
とてもではないが、ひとりでは食べられない。
「リー、この砂糖菓子貰ってくれ。失敗作で悪いが、美味しいとは思うから」
「……ありがとうございます」
「――口調」
「ありがとうね、コーマ」
リーはにっこりと笑って俺の砂糖菓子を受け取った。
そして、俺は即席の菓子工房を出る。
工房の中から、リーの声が聞こえてきた。
……嬉しいのか悲しいのかわからない声。聞かなかったことにしよう。彼女が見せてくれた笑顔だけを心に残そう。
きっと次にあったときは、さっきと同じ笑顔を俺に見せてくれるはずだ。
※※※
「砂糖菓子……ですか? 綺麗ですね」
開店前のフリーマーケットでメイベルに砂糖菓子の入った瓶を100本渡す。
「本物の金平糖はもっと綺麗なんだけどな。とりあえずこれは売ってくれ。値段は任せるから。それと、これはメイベル、ファンシー、シュシュ、アンちゃんにクルト、一応ザードの分も用意しているから配ってくれ」
さらに追加で6瓶を渡した。
「リーの分はないんですか?」
「リーにはさっき渡しておいた……なぁ、メイベル。やっぱりリーって俺のことが好きなのか?」
「コーマ様、その質問を私にしますか?」
「……悪い、聞かなかったことにしてくれ。それと、コメットちゃんのこと、いつ話せばいいと思う?」
「いつでもいいと思いますけど、でも私たち、コメットちゃんが埋葬されているところを見ていますから、コメットに直接会って貰わないと信じてもらえないと思いますよ」
「……そうだな」
はぁ、いろいろとやることが残っているなぁ。
今まで棚上げにしていた問題が一気に押し寄せてきた感じだ。ひとつひとつ解決していくしかないのか。
※※※
「――レメリカさん、おはようございます」
「いらっしゃいませ、コーマ様。今日はどのような御用でしょうか?」
普通に接しているのに殺気が俺に当たる。
レメリカさんの機嫌が悪そうだ。
ルシルが言うには、あの豚様たち、15階層で勇者候補が来るのを待っていたレメリカさんも襲ったらしい。
もちろんレメリカさんは全ての豚を蹴散らしたそうだが。
「えっと、勇者試験は俺も被害者なわけでして」
「今日はどのような御用でしょうか?」
「……ギルドマスターに呼ばれて来ました」
「お話は伺っています。どうぞ執務室へ」
はぁ……と、心の中でため息をし、俺はアイテムバッグから瓶を取り出す。
「これ、俺が作った砂糖菓子ですが、よかったら召し上がってください」
「砂糖菓子……これはコンフェイトでしょうか?」
「コンフェイト?」
「カリアナに伝わる菓子です。少し似ていますね」
あ、そうか。そういえば金平糖って、日本語ではない。戦国時代にポルトガルからコンフェイトという名で伝わったらしい。
となれば、カリアナでも作り方は残っているかもしれない。いや、むしろ改良されているかもしれない。
「これはありがたくいただきます」
「いえ、こちらこそありがとうございました」
これでようやく金平糖が完成しそうだ。
さらにレメリカさんの機嫌もよくなってもらえれば、まさに一石二鳥だろう。
そして、俺はユーリのところに言った。
スカルコレクターに関する報告も、これで四度目になる。
魔王が滅ぶということは、それだけいろいろな問題を孕むらしい。
結局、その取り調べに近い報告は二時間にも及んだ。
「なぁ、今回で終わりにしないか?」
げんなりとした俺に、ユーリが言う。
「そうはいかない。魔王の消滅に関する調査はまだまだ続いているんだからね」
「……はぁ、金平糖を集中して作りたいのに」
「金平糖?」
「これだよ。まだまだ試作品だがな」
俺は瓶の中に入った砂糖菓子を渡した。
「食べていいぞ。甘くてうまいからな」
「ありがたく貰っておくよ。でも、次回も頼むよ」
「はぁ……」
俺は執務室を出て帰ることにした。
とりあえず、今からサクヤあたりに金平糖、いや、コンフェイトについて知らないか聞きにいこうと思った。
そして、執務室を出て一階に行くと、レメリカさんに呼び止められた。
「コーマさん、砂糖菓子はとても美味しかったです。が、美味しすぎますね。普通の人が食べたら短期ですが意識を失う恐れがありますから気をつけてください」
「砂糖菓子で意識を――あ」
そこで俺は思い出した。
俺が本気で料理を作ればどうなるかを。
これは金平糖としては失敗作でも、砂糖菓子としては成功していることに。
急いで執務室に戻ると、恍惚な表情を浮かべて意識を失ったルル。操縦者の意識がなくなったことで眠るように倒れるユーリの姿。
さらに、フリーマーケットで砂糖菓子を買った多くの人が意識を失うというハプニングが起きて町は軽いパニックになった。
だが、砂糖菓子を食べたすべての人は一切フリーマーケットの苦情を入れなかったため、営業停止や罰金などの処分は一切なかった。
そして、さらに後日談ではあるが、その砂糖菓子は“神の涙”と呼ばれ、一部マニアの間で有名になり、数年後には1粒金貨100枚の値段で取引されるまでに至った。
ちなみに、サクヤからコンフェイトを作るのに必要なのは、ケシ粒だと聞いて、俺はついに金平糖を完成させた。
だが、当然、それを誰かに配ることはできず、俺の菓子を食べ続けたおかげで舌が肥えたルシルとふたりで食べるのだった。
ハロウィンネタを書く予定が、ただ金平糖を作るだけの話になってしまった。




