魔王亡き迷宮
スカルコレクターを退治した。
だというのに、なんだろう、この気持ち。
『コーマ、終わったの?』
通信イヤリングからルシルの声が聞こえてくる。通信を繋げたままにしていたようだ。
「……あぁ、終わったのは終わったんだが」
『どうしたの?』
「どうもすっきりしないんだよな。何か大切なことを忘れているような気がする」
このセリフは、フラグになる可能性が高いことは理解しているが、そう言わずにはいられない。
少し考えればわかることを思い出せないというか。
『勇者試験のこと?』
「それは諦めている」
勇者試験に関してはまた来年といったところだな。また一年クリスの厄介になればいいだけの話だ。
いや、ちょっと待てよ。
「そうだ、思い出した。タラだ、タラの様子はどうだ?」
『タラならコーマの薬で治ったけど』
「ならタラを起こせ! あいつは試験がまだ続いているから。そしてタラが勇者になることができたら、俺はタラを利用してダンジョンに潜り放題だ! もうクリスに気を使うこともなくなる」
『あ、そうか。聞いてたわね、タラ。今からタラを骨の迷宮に送るから』
「あぁ、そうして――ってちょっと待ってくれっ!」
そうか、思い出した。
とても大切なことを思い出した。
「ルシル、俺をそっちに戻せるか!?」
『え、無理よ。コーマの正確な座標がわからないから――』
「なら、フーカとタラをつれてこっちに転移できるか?」
『うん、それなら。今、コーマの封印を解いているから余裕よ』
「ならば、すぐに来てくれ……あ、その前に――」
俺は破壊衝動をなんとか抑え込む。
今の俺なら第一段階の封印解除までなら自力で抑え込むことは可能だ。
俺の姿が元に戻った。
竜化しているときの姿はフーカには見せられないからな。
「こっちに来たらすぐに再封印を頼む。やっぱりきっついわ」
さっきから、殺せ殺せってうるさいんだよ、俺の中の破壊衝動が。
そういえば、ルシルが成長した姿は見られたんだっけか。
もう、あれは成長期ってことで押し通そう。その後小さくなったことは、老化による低身長化と誤魔化そう。なんだかんだ言って、2700歳だし。
あ、俺が来てもう一年経つんだから、2701歳か。もうそこまでいくと誤差でしかないな。
そう思っていたら、ルシルが転移してきた。一緒に現れたタラは、フーカを背負っている。フーカはまだ目を覚ましていないようだ。
「あ、ルシルお姉ちゃんとタラお兄ちゃんに……知らないお姉ちゃん!」
カリーヌが声をあげた。
フーカを見て嬉しそうにしている。
まぁ、魔王城やルシル迷宮にいたら知らない人が来るなんて滅多にないもんな。
それとは反対に、タラは申し訳なさそうにしていた。
「主、申し訳ない。某の不覚でした」
「気にするな。俺もしょっちゅう油断してひどい目にあってるからな。むしろお前が完璧超人じゃないと知ってほっとしてるくらいだ」
俺はタラの頭をポンと手を乗せ、そしてルシルを見た。
「それで、ルシル。俺、スカルコレクターを倒したんだが、どうなるんだ?」
「どうなるって、もちろん崩壊するわよ」
「勇者試験に勇者候補が参加している。中にいる人はどうなる?」
「そうね……まず、魔物は全員いなくなるわね。そして、崩壊が始まるわ。この迷宮の場合、お父様の魂だけは消滅を免れたから、こうして形を保っていられるけど。でも、コーマも見たでしょ? エントとドリーが倒れた後、ふたりがいた迷宮がどうなったのかを」
「……あぁ、それは――」
崩壊した。決して壊れることのない迷宮が、みるも無残な姿となっていた。
ならば、それはやばい。
「って、やっぱり生き埋めになるのか!?」
「すぐには崩壊は始まらないわよ。でも時間の問題ね。あと二時間くらいかしら?」
……ならば、それは困った。
由々しき事態だ。
間違いなく迷宮の最深部にいるであろうレメリカさんに、俺が殺される。
今回の原因が俺だと知られたら、いや、調べられたら俺が殺される。
ちょっと前に、「あれ? 好感度がちょっとだけ上がったのかな?」と思ったのに、また、好感度メーターが下に吹っ切れて殺意メーターがMAXになる。
「ルシル、俺とタラを転移してくれ! 骨の迷宮に!」
「わかったわ……あぁ、今日はもう転移だらけね」
そう言って、ルシルは俺とタラの転移の準備にかかる。
「あ、ちょっと待て。フーカは――」
フーカはいらない、そう言おうとしたのに、結果、俺たち三人は見事に転移されてしまった。
そして、そこで俺がみたものは。
「……あれ?」
何故か囲まれている俺たち。
周囲には多くの人や魔物。
ルシルの話だと魔物は全滅していると言ったのに。
「……主、この気配」
「言うな、わかってる……あぁ、そうか、忘れていたのはこれだったのか」
スカルコレクターがスライムだと看破した時点で気付くべきだった。
スライムの特性は、自由に変形し、物理攻撃を吸収する体以外にもうひとつあった。
「第二」「ラウンドを」「はじめましょうか」「次は」「さっきの」「ようには」「いかないですよ」
人が、魔物がその言葉を発した。
そう、スライムの特性、それは。
「分裂してるのか……ここにいる全員がスカルコレクターってことかよ」
余談。
現在連載している
「お魚から人外転生の出世魚物語 ブラックバスからいつかブラックドラゴンへ!」
この物語は、もしもコーマがこの世界に来る直前に釣り上げたブラックバスが人外転生していた存在だったら、というコンセプトで連載している作品です。
先日から連載再開しているのですが、いよいよ明日と明後日の更新でコーマが登場しますので、気になる方は是非ご覧になってください。
本当に余談でした。




