スカルコレクターの正体
フーカがお姉ちゃんと呼ぶ女性。
にっこりと微笑み、彼女の名前を呼ぶ。
燃えさかる屋敷の火の粉が飛んできて、彼女の帽子に引火したため、彼女は表情ひとつ変えず、その帽子を脱いだ。
すると、彼女の頭には鬼族特有の角が生えている。
だが、もちろん、俺の警戒が解かれるわけがない。タラを刺したのは物理的に見てあいつしかありえないのだから。
俺はアイテムバッグから鉤付きロープを取り出し、それを放り投げてタラにひっかけ、思いっきり引っ張った。タラの体がくるくると舞い、ルシルの前に落ちた。その時にタラがいつも被っている頭蓋骨が落ちた。
「ルシル、アルティメットポーションは持っているな!?」
「持っているわ。大丈夫、ポーションを飲むだけの体力はあるみたい」
そうか――と俺は彼女を見た。
「随分と悪趣味じゃないか? スカルコレクター」
「悪趣味? なんの話でしょうか?」
「頭蓋骨に憑りつくことでその人の姿と、そしておそらく力と記憶を得る――それがお前の力じゃないのか?」
俺の憶測に、背後からフーカの息を飲む音が聞こえた。
それ以外の予測なんて出るわけがない。
本物の姉が生きていてハッピーエンドみたいな展開なんてあるわけがない。
「……ふぅ、せっかくフーカに幸せの中で死んでもらおうと思ったのに」
それが悪趣味だって言うんだよ。
俺の中の怒りが沸々と沸きあがる。
だが――俺の怒りが沸騰するよりも先に、彼女の怒りが限界を迎えた。
「……ふざ……けるな」
怒りの声でフーカが言う。
「お姉ちゃんの姿で、お姉ちゃんの声で、お姉ちゃんの記憶で、僕の名を呼ぶなっ!」
「待て、フーカっ!」
「お姉ちゃんをこれ以上汚すなっ!!」
俺の制止も聞かず、フーカが飛び出す。
彼女の顔の血管が浮かび上がり、角が赤く光った。
フーカのHPが三倍近くに膨れ上がる。ということは、力なども強くなっているのだろう。
まるで――俺の竜化みたいに。
「ふふふふふ、いいわ、いいわよ、フーカ。もっと、もっと怒りなさい!」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
フーカがスカルコレクターに殴り掛かる。彼女の拳がスカルコレクターを殴って押し倒した。
そして、何度も何度も何度も、スカルコレクターの顏を殴る。
「……痛いよ、フーカ」
スカルコレクターが泣きそうな顔でそう言った。
姉の顏でそんなことを言われ、フーカの拳が止まる――がそれも一瞬だけだった。
「あああああああぁぁぁぁぁっ!」
彼女がこれまでにない大振りの攻撃でスカルコレクターを殴ろうとした、その時だった。
スカルコレクターの手が伸びた。
まるで手から先が刀になったように。
そして、それがフーカの腹を貫いた。
「言い忘れていたわね、フーカ。私は頭蓋骨だけしか盗んでいないから、首から下は自由に変形できるの。こういう風にね――」
「がふっ――許さないっ」
口から血を吐きながらも、フーカはスカルコレクターを睨みつけた。
「いいわ。私に怒りを向けて、そのまま死になさい。そうすれば、貴方の頭蓋骨は赤く光ったまま残ることになる。この子も仲間たちも失敗したけど、今度こそ最高の状態で保存しないといけないわ――ね」
スカルコレクターの腕がフーカの意識を奪い去る。
それでも彼女の角の光は消えない。
それだけ彼女の怒りが強いということであり、それがスカルコレクターを喜ばせた。
だが、それもそこまでだ。
俺の剣がスカルコレクターの腕を切り裂いた。
そして、解放されたフーカをルシルの前に放り投げる。
「ルシル、患者一人追加だ。ただし、目を覚まさない程度に治療してやってくれ――偽物とはいえ姉が殴られるところを見せたくないだろ」
「……邪魔するのですか?」
「あぁ、スカルコレクター。言っておくが、俺は人間は人間でも、この世界の人間じゃない。異世界の人間って奴なんだけど興味あるか」
「異世界の人間? あははははは」
すると、俺を睨み付けたスカルコレクターは大笑いして立ち上がった。
「今日はなんて素晴らしい日なんでしょう。鬼族の最高状態の頭蓋骨だけでなく、異世界人の頭蓋骨まで手に入るなんて」
「お前、俺に勝てると思ってるのか?」
俺は剣を向け、スカルコレクターに言う。
「あなたこそ、私に勝てると思ってるの? 私はスカ――」
スカルコレクターが名乗りを上げようとした同時に、俺の剣がスカルコレクターの胴体を真っ二つに切り裂いた。
相手の名乗りをいちいち待っているほど、俺の道徳心は高くない。
「それで私に勝ったつもり?」
「いんや、確かめさせてもらっただけだ。お前の正体――全く、何の因果だよ」
スカルコレクターの正体を見抜き、俺は悪態をついた。
「よりによってスライムかよ……戦いにくいな」




