崩れ落ちる屋敷から
「よし、ミッション達成。じゃあ持ち運び転移陣と転移石を使って骨の迷宮に戻るか!」
一度使った転移陣は、転移石があったら自由に使うことができる。
つまり、いつでも骨の迷宮にも、ラビスシティーにも戻ることができるということだ。
「そういえば、勇者試験も途中だったんだな。フライングでアウトだとは思うが、最後まで受けておかないとレメリカさんにぶっ殺される……いや、フライングしただけでもすでに八割殺しは確定しているからな。念には念を入れてエリクシール50本くらい用意しておくか。あの人、時間には厳しいからな」
「コーマ、それより私飽きたからもう帰っていい?」
「あぁ、そうだな――あ、でもどうせだからこのあたりの素材とかとっていこうぜ。変わった物があるかもしれないし」
「そうね! 変わった山菜を採って、コーマのためにテンプラを作ってあげるわ」
「そんなテンドンネタはいらないんだよ! ただでさえ見知らぬ土地の見知らぬ山菜での料理は危険があるっていうのに、それをお前が創ったらそれこそどうなることか」
「やぁね、コーマ。創ったらって、神が世界を創造するみたいな言い方ね」
「お前の料理は宇宙創成で生じたエネルギーと遜色ないんだよ」
「失礼ね、そこまでのエネルギーはないわよ――あ、コーマ、あの茶色いキノコなんていいんじゃないかしら?」
「本当だな、鑑定スキルによると一本で200人を殺すことができる毒キノコらしいんだが――なんだろう、俺の予想だとルシルの料理を食べるよりもあのキノコを食べる方が生存率が高そうな気がするわ」
俺とルシルが日常会話を楽しんでいると、
「あの! お兄さん、一体、何をしたんですかっ!? 崩れ落ちてますよ! 燃えてますよ! 大変ですよっ!」
「そりゃ、雷の数十倍の電気だからな。火事にもなるし崩れもするだろ」
「誰か中にいたらどうするんですかっ!?」
「いるだろ。スカルコレクターが。だから崩壊させたんだし。火葬で燃やした骨は土に埋めるのが俺の国の風習なんだよ」
あいつにはいい結末だろう。
それに、コレクターというのは、コレクションの保存場所には気を使う。たとえ地上の家が崩れ落ちてもコレクションが無事である可能性は高い。少なくとも俺は魔王城が消滅しても、パーカ人形ルームだけは無事になるようにしているからな。
「じゃあ、これで本当に終わりなんですか?」
「――だといいが、どうだろうな。とりあえず、相手の罠にかかるのが嫌だからこうしたんだけど」
「罠? どういうことですか?」
「あれだけ建物の中で騒いでおいて、スカルコレクターが私たちの侵入に気付かないわけないでしょ? それでもスカルコレクターが出てこないってことは、待ち構えているってこと。そうなると、罠がある可能性は高いでしょ」
ルシルは欠伸をしながら言った。
「だから、どうせ戦うなら外で戦いましょ――ってことよ」
「え? 全部終わったんじゃ?」
「相手が普通の人間だったらね。でも、相手は腐っても魔王に連なるものよ。現れるわ」
気配が近付いてきた。
崩れる屋敷の中から、その影が現れた。
小さな影――そして、その頭の上には獣のものと思われる頭蓋骨が乗っている。
「…………っ」
この瞬間、俺は己の行いを悔いた。
屋敷を爆破したことを後悔した――少し考えればわかることだった。
屋敷を爆破したとき、その可能性を少しでも考えるべきだった。
「……ねぇ、コーマ、怒ってると思う? 大丈夫よね」
「大丈夫だろ……さすがにあれだけで怒るようなタイプじゃないだろ」
「いえ、お兄さんもルシルさんも、一度きっちり怒られた方がいいと思いますよ」
うん、俺もこれは怒られても仕方ないと思った。
さすがにやりすぎた。
「……悪い、タラ。お前のことを忘れていたわけじゃないんだ」
そう、崩れ落ちた瓦礫の中から現れたのはスカルコレクターではなく、タラだった。
煤だらけの状態で現れた。
「ただ、お前が追ってくるまでもう少し時間がかかると思ったから」
「ごめんね、タラ。でも、私も屋敷を爆破するなんて知らなかったの。悪いのは全部コーマよ、コーマ」
「こら、ルシル! 全部俺に擦り付けるな。爆破は俺の指示だが、実行犯はこのフーカだぞ!」
「お兄さん、そこで僕に責任をおしつけるんですか? やめてくださいよ、僕はただ糸を引っ張っただけじゃないですか」
「そう、裏で糸を引いていたのはフーカだったんだ」
「裏で糸を引かせたのはお兄さんでしょ!」
俺が言い争っていた時だった。
「……主……」
タラがぽつりとつぶやき、
「申し訳ありません」
そう言って倒れた。
背中に剣が突き刺さっている。
「タラっ! お前……」
俺はタラの後ろにいるもう一つの影に気付き、声をあげた。
そこにいたのは、予想外にも人間の女性の姿をした存在だった。タキシードに燕尾服を着ているクリスくらいの年齢の女性だ。
こいつが、スカルコレクターなのか。
「……ウソ……どうして……」
後ろからフーカの声が漏れた。
「なんで……お姉ちゃんがそこにいるのっ!?」
「久しぶりね、フーカ。元気そうでよかったわ」
姉と言われた彼女は、そう言ってニッコリと笑ったのだった。




