突如起きる異変
骨の砂の流れに合わせて俺とルシルとフーカの三人は進んでいた。
途中で何度も魔物が出てきたが、俺の敵ではない。
そして、砂の流れの先にあったのは――
「……おい、ルシル。これはどういうことだ?」
「知らないわよ! ここに力が集まってるのよ! 私のせいじゃないわ!」
「お前のせいじゃないって、あれだけ自信満々に魔法を使っておいてそれはないだろ!」
何もない砂原のど真ん中に俺たちはいた。
そして、砂の流れはすべてここに集結している。
当然、スカルコレクターはここにはいない。
「……あの、お兄さん、この下から魔力を感じます。何か埋まっているんじゃないでしょうか?」
「「え?」」
俺とルシルは首を傾げ、そのまま足下を見る。
砂の下……か。
俺はアイテムバッグからシャベルを三本取り出し、一本をフーカに渡した。
もう一本をルシルに渡そうとしたが、彼女が無言で首を横に振ったので、仕方なく一本をアイテムバッグにしまい、ふたりで骨の砂を掘っていく。
そして――それは現れた。
「……転移陣か。でも、作動していないぞ」
迷宮の床に描かれた魔法陣をペタペタ触ってみる。魔力のまの字も感じない。
転移陣が作動しているのならこれを掘り当てた時点で俺は転移陣の向こう側に転移させられているはずだ。いや、それより前に骨の砂が転移しているはずだ。
「転移先がないのか? 持ち運び転移陣の片方が閉じている時もこんな感じだろ?」
「これは条件が整っている時に転移陣が作動するようになっているのね。安全装置として、転移先に人がいる時は作動したりしないようになってるでしょ?」
でしょ? と尋ねられても、俺は転移陣は利用しているが、転移陣の仕組みに関して詳しいわけではないのだが。
電車に毎日乗っている人全員が電車がどうやって動いているか知っているわけではないのと同じだ。
「つまり、どういうことだ?」
「わかりやすく言うと、この転移陣は作成者に認められた魔物と一緒じゃないと作動しないみたいなのよね」
「……それは厄介だな。とりあえず、そこらへんにいる魔物をぼこって連れてくるしかないのか?」
スケルトンみたいな不死生物って痛みを感じないから気絶させたりするのも無理なんだよな。毒も効かないし。ルシル料理程度の猛毒なら効果はあるのかもしれないが、それだと逆に死んでしまう可能性もある。不死生物なのに死ぬという表現もおかしなかんじだが。
生きている不死生物(というのももっとおかしな表現だが)じゃないと転移陣の効果がないのかもしれないからな。
「その必要はないわ。転移陣をちょちょいといじるから」
「あぁ、ルシルにはそれが可能だったな……任せていいか?」
「素人が作ったような下手くそな転移陣だから改造が大変だけど……プロテクトがないだけマシね」
素人が組んだゲームのほうが、プログラムが入り組んでいて解析が面倒……みたいな話なのだろうか?
ルシルがぶつぶつと呟きながら、何か作業をしているが、俺には全くわからない。
「時間がかかりそうか?」
「そうね、5分あればできるわ」
「流石だな。じゃあ、俺とフーカは5分、お前を守ればいいってわけか」
どこからともなく現れたスケルトンの軍団。
その数ざっと50体。
砂の中にいるのはわかっていたが、出てくるタイミングを見計らっていたといったところか。
さて、姫を守る騎士の役目、果たさせてもらいますか。
「聖域!」
実戦ではじめてつかう聖域。
これで不死生物が作ってこられない聖域が出来上がった。
そして、光の剣を取り出す。
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聖光の剣【剣】 レア:★×6
聖なる光を放つミスリルの剣。
不死生物族、悪魔族に対し特効性能あり。
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もちろん、フーカの持つ篭手にも使われているミスリルだけでも不死生物に対し非常に効果的なので、ただのスケルトンたちはあっという間に倒れていく。
「よし、ルシル、倒したぞ――ルシル!?」
振り返ると、そこにいたのはうつ伏せに倒れるルシルの姿だった。
「ルシルっ!」
彼女を抱え上げると、銀色の髪が薄くなってきていて、目も虚ろだ。生気をまるで感じられない。
「…………m……」
「どうした? はっきりいえ」
「Babel system Achievement rate thirty percent.Start-up can not」
……え?
バベルシステム? 何を言っているんだ? 英語?
聖域を解き、アイテムバッグからエリクシールを取り出して、ルシルにかけようとした……その時だった。
「あれ? コーマ、どうしたの?」
エリクシールを使う前にルシルが意識を取り戻した。
いったい、さっきのルシルは一体何だったんだ?
「ちょっと待っててね、コーマ。もうすぐ解析が終わるから」
ルシルはそう言うと、いつもと変わらない様子で言うのだった。
「この戦いが終わったら、私の料理をちゃんと食べてよね。今度は上手くいくと思うから」
……あぁ、いつものルシルだ。




