踏みにじる枯山水
「いや、勢いよく飛び出してきたのはいいんだが、スカルコレクターの居場所が全くわからなくてな」
考えてみれば、魔王の居場所なんて簡単に辿りつけるわけがない。
マネットの時は火竜が守っていたし、マユの時は人間の住む町の中で人間として生活をしていた。ブックメーカーの住む書庫に関しては、迷宮側の入り口は巧妙に隠されていたしな。
そして、俺はこれまでクリスと何度も迷宮を潜ったが、魔王を見つけたことはない。
ギルドマスターを操って地上で生活しているルルや、国王陛下として城の中にいる本物のベリアルみたいに、迷宮の中に魔王がいない場合もあるだろう。
それに、この迷宮はただでさえだだっ広いからな。
「どこかの魔王みたいに迷宮の一番下にいるっていうのならわかりやすいんだけど、そうじゃないかもしれないしな」
「それで、私を呼んだってわけね」
「本当はお前じゃなくてカリーヌとスライム軍団を呼んで人海戦術もとい粘海戦術でも行おうと思ったんだけど、地上から勇者候補7名様が来るからな。最短でたどり着きたい」
「勇者試験はどうしたの?」
ルシルが尋ねた。
「あぁ、勇者試験なら落ちたぞ。順番無視して潜って来たからな」
「本当なんですか? え? お兄さん、僕の為に勇者になるのを諦めたんですか!?」
フーカが泣きそうな顔になる。
まぁ、フーカのためだと言われたらその通りなんだけど。
「まぁ、ぶっちゃけ微妙だったんだよな。こいつは実は勇者嫌いだしな」
「……あぁ、そうでした! 咄嗟のことで忘れてましたが、お兄さん、なんで転移陣を持ち歩いているんですか? それでこの人は誰ですか? あと、スライム軍団を呼ぶってなんですか? 魔王ってなんですか?」
「……よし、ひとつだけ答えてやろう。こいつはルシル。俺の妻だ」
「はじめまして、コーマの妻のルシルよ。主人がいつも世話をしているわね」
「「…………っ!?」って、なんでお兄さんも一緒になって驚いているんですか?」
いや、ちょっとルシルをからかって遊ぼうと思ったのに、思いもよらぬ返しにおれがどぎまぎしていた。
普通なら「主人がいつもお世話になっております」と言うところを「主人がお世話しています」と言うところあたり、ルシルらしいのだが、それよりも俺の事を主人と呼んでくれたことに対してドギマギしている。
「冗談よ。私はコーマの配下で、コーマは私の従僕。そんな感じかしら」
「……複雑な関係なんですね」
フーカは驚きすぎて達観したような口調で言った。
今はその話を掘り下げるよりも、スカルコレクターの元へ行くのが先だと思ったのだろう。
「大変よ、コーマ。この子、クリスより面白味が足りないわよ」
「だな、クリスと比べたらどうしても真面目なんだよな」
「あの、正解が見つからないんですが、僕はどうしたらいんですか?」
フーカが困った顔になる。
「そうだな、とりあえずルシルに任せればいい。ルシル、スカルコレクターの場所はわかるか?」
「本当に丸投げね。コーマ、魔石あるだけ頂戴」
「あるだけって、軽く一万個は超えているが」
「どれだけ貯めこんでるのよ。百個でいいわ」
仕方ないじゃないか。落ちた物は全部拾ってしまうのが俺の癖なんだし、うちのスライム、仲間同士で融合したときに余った魔石を持って来てくれるんだから。しかもうちのスライムの魔石、かなり大きいんだよな。試しに魔石を買い取りしてくれる店に持って行ったら金貨で支払われ、ドラゴンでも狩ったんですか? と聞かれたくらいだ。
スライムの魔石です、なんて言っても絶対に信じてもらえないだろうな。
俺は魔石を麻袋に入れて、ルシルに手渡した。
ルシルはそれを全て骨の砂の上に落とし、魔法を詠唱する。
ルシルの体が中学生くらいにまで成長した。
『流れゆく死者の怨念、その力、終結し、集結する場所。流動せし力路を示したまえ。砂流動案内』
すると、巨大な風が巻き起こり、大地の骨の砂がまるで日本庭園の枯山水のようになる。
静止しているのにまるで流れる川みたいだ。
「……即席の魔法だったけど、上手く行ったみたいね。ここの骨の砂に残った力の残滓が向かう先にスカルコレクターはいるわよ」
元の姿に戻ってしまったルシルはそう言うと、芸術ともいえる大地に足跡を残し、砂の示す先へと歩いて行った。
あいつには芸術に対する敬意というものはないのだろうか?
と思いながらも、まぁ仕方ないよなと思い、俺は歩いていった。
「あの、お兄さん。今、ルシルさんが大きくなったような……それに、え? 即席の魔法って聞こえたんですが」
「あぁ、まぁなんだ。慣れろ」
俺はフーカにアドバイスを送ると、
「置いていくぞ」
と言って先へと歩き始めた。
「ルシル、もう帰っていいぞ」
「ここまで来たんだから私も最後まで見ていくわよ」
「頼むから、危ないと思ったら帰ってくれよ」
「危ないと思わせないように努力しなさい」




