引き継がれし剣技
俺とフーカは走っていた。
骨の砂の上を。白い景色が続く地を走る。
スカルコレクターはこの先にいるらしいが、階段や扉のようなものは見えない。代わりにいたのは――
「あれって、どうやって飛んでるんだ?」
空飛ぶ竜だった。ただし、それも全て骨でできている。
「……スケルドラゴンか……確かそんなドラゴンがいるって聞いたことがあるな」
「あれはレッサースケルドラゴンですね。スケルドラゴンよりは弱いです」
いったい、どうやって飛んでるんだ?
あんなスカスカの骨で滑空とかできないだろう。浮いているとしたら魔法の力か?
反対側を向いているので気付かれないかと思ったら、旋回してこちらを認識したように急降下してきた。
面倒だなぁ。とアイテムバッグから神雷の杖を取り出した。
はぁ……ベリアルみたいに咆哮とか、それこそレメリカさんみたいに怒気というか覇気だけで追い払えることができれば楽なんだけどな。
何かそういうアイテムはないものか。怒気発生装置とか。
……試しにやってみるか。
「むん……」
怒気を出してみる。怒っている。殺したいと思っている。殺気も放っている。
「お兄さん、レッサースケルドラゴンが来てます。息を止めて何をしてるんですか?」
スカスカの殺気を通り抜けて、フーカに話しかけられた。
……恥ずかしい。
「雷よっ!」
俺はそう言って雷を放った。
レッサースケルドラゴンを雷が包み込み、骨は粉になって魔石とともに落ちていった。
「行くぞ」
俺はそう言って走り出そうとし、足音が自分のものしか聞こえないことに気付いた。
振り向くと、フーカが立ち止っている。
「……どうした?」
「あの、タラさん大丈夫でしょうか?」
「タラなら大丈夫だよ。俺の一番の部下だ」
死して魂になった後に俺に仕えたいと思ったゴーリキ。そしてそんなゴーリキの魂を受け入れてまで俺の役に立ちたいと思ったタラ。ふたりの魂が混ざり合い、今のタラになった。
そう言えば、初めて殺気を向けた相手も、ゴーリキだったんだよな。
※※※
某と相対するスケルトンから怒気が消え失せ、今は単純に剣気だけが纏っていた。
スケルトンの骨の剣が残像を残し何本もの剣となって某に襲い掛かる。
幻夢剣。
某が長年かけても極めることができなかった剣の秘奥義のひとつ。まさかこの目で見ることができるとは思わなかった。
「幻夢剣は不死生物と相性がよい。この身に生まれ、僅か三カ月で修得することができた。人の身ならば、このような短期修得は叶わなかっただろう」
スケルトンが語る。
だが、某はそれに返事をする余裕はない。
上から、下から、横から、後ろから、そして前からも迫りくる無数の剣を躱すために全神経を集中していた。
一太刀でも浴びれば、その傷が敗因になりかねない。
「どうした? 逃げるだけでは倒せぬぞ、小僧」
徐々にではあるが、某の逃げる範囲が狭められている。じわじわと真綿で首を絞められるような戦い方。
だが、某はそれをあえて続けた。
もう少し――もう少し。
某は剣を抜き、剣の残像を打ち返そうとする。
だが、残像である剣は実体のある某の剣では剣を弾くどころか軌道を逸らすこともできない。
「…………っ!」
避けたと思った剣の死角からもう一本の剣が某の腹目掛けて飛んで来た。
咄嗟に剣で打ち払おうとするが――
「ぐっ――」
某の脇腹を剣がえぐるように突き刺した。
だが、普通に躱した時には現れない隙が現れ、某は無数の剣の中から抜け出すことに成功した。
こうして怪我を負うと、主の薬の素晴らしさがよくわかる。
主の薬があるから安心して戦える。
「何を笑っている?」
スケルトンが尋ねた。
「主の素晴らしさを再認識したところだ」
そして、某は剣をスケルトンに向ける。
「気に食わぬな」
スケルトンもまた骨の大剣を某に向けた。
「行くぞ! スケルトン」
「来い、小僧!」
某が前に跳んだ。
速度ならこちらが上――幻夢剣も速度は大したことはない。
それなら斬られる前に斬る。
そう思って突き出した剣――だが、某の剣が届こうとしたとき、スケルトンはあろうことか両手で持つはずの剣を左手だけで持った。そして――骨の剣を収めていた鞘で某の突き出した剣を受け止めたのだ。
某の動きが一瞬止まる。
それを見計らったように、某の周囲に無数の剣が現れた。ここまで囲まれればもう避けることもできない。
「終わりだ」
スケルトンが言った。
「その通りだ。もう終わっている」
某はそう言うと、己の剣を見た。
スケルトンの首骨を後ろから貫いた己の剣を。
「……幻夢剣、あの一瞬で極めたのか……小僧」
スケルトンが倒れた。
某の生み出したものを含め、幻の剣の全てが消え失せた。
スケルトンの足から順番に消え失せている。元々頭蓋骨から生み出されたせいだろう。
「よく言う。某に覚えさせるために幻夢剣を見せたのだろう」
「……コーマ殿には迷惑をかけたからな。せめてもの詫びだ……死ぬ前に、其方の名前を聞いていいか」
「名……か。某の名は」
そして、某はかつて捨てた、だが、確かにそこにあった某の名を告げた。
すると、スケルトンは少し驚き――そして笑ったように見えた。
「そうか……そうか、某はあのお方に仕えることができていたのか」
その言葉を最期に、そのスケルトンは消え失せた。
己を最強の傭兵と信じて、だが修練を怠らなかった某の骨と記憶を持つスケルトンは。
某が夢を叶えたあとも苦しみ続けた、もう一人の某が磨き続けたこの剣技、確かに引き継いだぞ。




