骨の迷宮~フーカsideその2~
寂しい景色。そう思ったのは、足元の砂のように見えるのが骨の欠片だと気付いたのとどちらが先なのでしょうか?
そんな疑問が頭に一瞬浮かびましたが、そんな考えは霧散していきました。いえ、霧のように散ったというよりは、それこそ握りしめた砂のように手のひらから零れ落ちていったのでしょう。この場合、砂に見えるのはやはり骨の粉末なんですけど。
本当に足下の骨の欠片を両手で掬い上げ、救いのないこの景色を見て僕はどこかで、この骨の中にお姉ちゃんの骨がないように願っていた。ううん、もしかしたらどこかでこの骨の粉末のどれからお姉ちゃんの骨であってほしいと願っていたのかもしれません。
コレクションなんてよくわからない理由で殺され、頭蓋骨を奪われているよりは、ここで死んで、骨の欠片となって埋もれていたほうが幸せなのかもしれないと思ったのです。いいえ、死者は何も思いません。僕がそうあって欲しいと願ったのです。
「……ふふふ」
思わず笑みがこぼれてしまいました。
姉が生きているのかもしれないと一縷の希望に縋り続けた僕が、ここに来て姉の死を望んでいるその滑稽過ぎる矛盾に。
じっとしていると、僕を案内するはずのスケルトンはひとりで歩いていった。本当に何も考えていない、頭の悪いスケルトンです。
人語を操る魔物は“魔人”と呼ばれ、知的で強敵だと聞いたことはあるのですが、そんなことはないようです。
いえ、考えてみれば人語を使っていましたが、器用に操っているという感じではありませんでしたね。教わったことしか言えない感じです。
ゆっくり歩き、階段を下り、さらに暫く歩きます。
「そろそろ勇者試験がはじまる頃です。急がないと人が来ますよ」
無駄とはわかっていてもそう声を掛けました。
すると……というわけではないのでしょうが、新たなスケルトンが三体見えてきました。
「……来たな、鬼族の娘。スカルコレクター様がお待ちだ」
スカルコレクター。その名を聞き、僕の中に複雑な感情が芽生えます。種だった感情が膨れ上がります。
「スカルコレクターはどこにいるんですか?」
「この先。リーダー、待ってる。リーダー、スカルコレクター様の場所知ってる」
「そう……この先にリーダーさんがいて、その人ならスカルコレクターの場所を知っているわけですか」
僕はそう言うと、息を吐き、そして聖銀の籠手を振るいました。拳を振るいました。
撫でるような感覚でも、そのスケルトンは骨が砕け、魔石を落としました。
僕の思いもよらぬ行動に、スケルトンは魔物の本能を取り戻したかのように僕に襲い掛かります。抵抗するようなら殺していいと言われていたのでしょう。
スカルコレクターの狙いはおそらく、僕ではなく、僕の頭蓋骨なんですから。
ですが、スケルトンは僕の敵ではありませんでした。
スケルトンが使う鉄の剣が、まるで小枝のように僕の篭手にあたるだけでへし折れたのですから。
(……強すぎますよ、お兄さん)
一時とはいえ主だったあの人の顔を思い浮かべ、僕はもう一度小さく笑った。
「スカルコレクター、ただでは死なない。僕を呼んだことを後悔させてあげます」
そう息まいて、僕は拳を骨の大地に叩きつけました。骨の粉が舞い上がりました。
僕は走ります。
あのお人好しの、誰よりも僕にとって勇者であるお兄さんが来るよりも前に、全てを終わらせるために走りました。
走ると、先ほどのスケルトンが言った通り、別のスケルトンがいました。
あれが、リーダーなのでしょう。先程のスケルトンよりも大きく、そして骨の大剣を持っていました。
「来たか、鬼の小娘よ。迎えにいかせたスケルトンはどうした?」
「……あなたは僕の言葉を理解できるのですか?」
「スカルコレクター様より人だったころの記憶の複製を与えられておる。力も人間だったころの数十倍もの力を与えられておる。思わぬ掘り出し物だからとあの方は仰っておられた」
スケルトンのリーダーはそう言うと、僕を見て言います。
「スカルコレクター様の呪いを解いたか?」
「…………っ!」
隠していたわけではありませんが、言い当てられたことに僕は少し驚きました。
そして、呪いが解かれているのがばれているということは、敵は僕がここに来たことに気付いたはずです。
そう、僕が自分の呪いを解くためでなく、スカルコレクターに敵対してやってきたことに。
「どうやって呪いを解いたか聞いてもよいか?」
「自力で解きました」
僕は間髪入れずに嘘を付きました。
お兄さんのことを知られてはいけないと思ったのでしょう。
スカルコレクターの呪いを解くアイテムをお兄さんが持っていることを知られたらお兄さんが危ないかと思いました。
ですが――
「……コーマ」
と、スケルトンはあろうことか、お兄さんの名前を告げたのです。
「……っ!?」
当然、驚きを隠せません。ですが――
「そうか、やはり……うむ……なるほど」
スケルトンは考えるように、まるで人間のような姿で、それでいて隙のない体勢でつぶやきました。




