骨の迷宮へ突入
いくら待っても、フーカがフリーマーケットの従業員寮に帰ってくることはなかった。
11時になる少し前に、俺は勇者試験の集合場所に向かった。
骨の迷宮の入り口は、特定の手順を踏まないと開かない隠し扉の奥にあるが、その隠し扉は昨日の夜から解放されているそうだ。俺が来たときは、既に俺以外の勇者候補とその従者候補、全員が揃っていた。
11階層へと続く階段から噴き出る空気が妙に肌寒い。
骨の迷宮前。俺を放って、フーカが先に来ているかと思ったが、勇者候補たちの中にフーカの姿は見つからなかった。
嫌な予感がする……いや、嫌な予感しかしない。
「……タラ、ちょっといいか?」
当然のようにここまで残っているタラに声をかけた。ちなみに、タラは昨日は一番乗りでクリアしたらしい。
「主、どうかなさいましたか?」
「フーカのことでちょっと問題が起きてな。あいつとは何回か試験中に会ってるだろ? 見当たらないんだが……ここには来ていなかったか?」
「いえ、某は半刻前に来たのですが、それからは来ておりません。わかりました。匂いを探ればよろしいのですね?」
「頼む。お前の嗅覚に頼らせてくれ」
「主のお役に立てるのであれば、某の毛の先一本まで利用なさってください」
タラは、子供とは思えない武士のような強い意志を持って俺に言った。
全く、俺には過ぎた家臣だよ、お前は。
「フーカの匂いのついているものが必要か?」
「いえ、あの匂いは覚えております……」
そして、タラはその場に四つん這いになった。
急にその場に這いつくばるタラを見て、周囲の人たちは驚いていたが、タラはその鼻で、コボルトの持つ嗅覚でフーカの匂いを探った。
そして、タラは立ち上がり、下へと続く階段を見た。
「やはり、階段の下へと匂いが続いております」
「迷宮の中か……」
どうやってギルド職員の目を盗んで中に入ったのかはわからないが、彼女はひとりでスカルコレクターの元へと向かったのだろう。
普通に探索するだけでスカルコレクターの元にたどり着けるとは思えない。
「タラ、案内を頼んでもいいか?」
結局のところ頼れるのはタラの嗅覚だけだ。
「かしこまりました」
タラが膝をつき、走り出す。その後を俺が続く。
「それでは、勇者試験6日目を始めます。昨日チェックポイントに最初にたどり着いたタラさんから――」
顔だけは何度か見たことがある、だが名前も知らない男性のギルド職員がそう言ったが、それを全て無視し、タラと俺は骨の迷宮の中へと入って行った。
「ちょっと、コーマさん、順番が違いますよ! コーマさんっ!?」
ギルド職員が叫んでいたが、ことは一刻を争う。
全てを無視し、俺は階段を駆け下りていった。
※※※
「ここが骨の迷宮か……てっきり巨大な骨が大量に置いてあるのかと思ったが、白い砂漠だな、これは」
「主、砂ではありません。これは全て砕けた骨です」
「え? これが全部骨の欠片? ……ダメだ、ランクが低すぎて鑑定できない」
俺の鑑定スキルは、土や井戸水、小石といった物は鑑定することができない。
骨の砂もまたしかり。
しかし、この砂全てが骨って、一体、どれだけの数の死体を集めたのだろうか?
集めるなら骨等ではなく、メンコとか集めればいいのに。それなら俺も応援してやるんだが。
これが、ここが骨の迷宮と呼ばれる所以なのか。
「タラ、フーカの匂いを追えるか?」
「勿論でございます」
「よし、頼む」
足の下の感触が砂ではなく骨というだけで踏みつけるのは嫌になるが、そうは言っていられない。
俺たちはフーカの軌跡を辿り、彼女の元へと走る。
途中、足跡らしいものがあり、俺も彼女がここを通ったことを確かめることができた。足跡というよりかは戦いの痕跡といったほうがいいだろうか?
よく見ると、骨の砂の中に半分埋もれた形で、魔石が落ちていた。
恐らく、フーカを迎えに来たスケルトンとひと悶着あったのだろう。
相手はフーカが呪いのせいで弱っていると思っていたに違いない。
「フーカ、無茶しやがって」
「無茶をするのは主の専売特許です」
「そうそう、俺の専売特許……って言って虚しくなるからやめてくれ」
今年の目標は平穏無事に過ごすことだよ。
そう思った時、戦いの音が少し離れた場所から聞こえてきた。




