山登りの会話
「お兄さん、何をしてるんですか?」
無重の羽を見つめていると、フーカが話しかけてきた。
俺はニヤリと笑う。
「羽から絨毯を作るんだよ」
「羽で絨毯ですか?」
「まぁ、普通は絨毯って言ったら織物だからな。羽からは織物を作れない。羽を織り込むんだよ。そうすることで美しい光沢のある絨毯になるわけだ」
童話「鶴の恩返し」でも、よく鶴の羽から織物を作っていると思われがちだが、あれも羽を織り込んでいるらしい。
もっとも、孔雀の羽などは西陣織の材料になるので、一概には言えないだろうな。
「それは楽しみですね。できたら僕にも見せてください」
「あぁ、楽しみに待ってろよ」
俺はアイテムバッグに羽をしまうと、山登りを再開した。
山登りは順調だ。途中で土砂崩れがあって何人か巻き込まれそうになり、しかもそれで通常の登山ルートが塞がってしまっているが、別段問題はない。
これまでの迷宮に比べたらここはまだ楽なものだ。
恐らく9名の勇者候補全員揃って、今日はクリアできるだろう。
「フーカ、明日はいよいよ骨の迷宮なんだが、お前の目的を聞いていいか?」
「……………………」
「仇討ちか?」
俺の問いに、フーカは直ぐに答えられない。
俺たちは無言で山を登った。途中、襲ってくる鳥たちは瞬殺していく。
暫くしてその思い口を開いた。
ただし、それは明確な答えではない。
「わかりません」
明確な答えではないというのが、彼女の答えだった。
「最初は、お姉ちゃんのことを知りたかっただけなんです……わかっています、たぶんお姉ちゃんはもう死んでいるってことくらい。スカルコレクターの目的が骨だというのなら……でも、僕のこの目で確かめたかったんです」
「そっか……」
「……でも、そのスカルコレクターが目の前にいたら、僕はどうなるかわかりません」
その声は少し震えていた。
姉のことを思い泣いているのか、自分の中の怒りが恐ろしくて震えているのか、前を歩く俺にはわからない。いや、彼女の顔を見たところでわからないだろう。
「安心してください。お兄さんの邪魔はしません。明日は別行動をしましょう。そうしたら、お兄さんがスカルコレクターに襲われることはありません」
「いやいや、俺もスカルコレクターには用事があるからな。こちとら、生まれたその時からコレクターだ。そのコレクターの名を汚す魔王を放ってはおけないよ!」
「マオウ?」
「……魔法使い! 骨を使うような悪い魔法使いは放っておけないよ! 勇者なら……な」
「そうですね。お兄さんならきっと立派な勇者になれますよ」
そう言った時、山頂が見えてきた。
山頂には一方通行の転移陣があった。
この転移陣を潜れば今日はクリアとなる。
転移陣を潜ると、レメリカさんが待ち受けていた。
「これが明日の集合場所の地図になります。遅れないでください」
「わかりました、ありがとうございます」
俺は骨の迷宮の地図を受け取る。
骨の迷宮は勇者も立ち入り禁止の場所のため、詳しい場所は俺も知らなかった。
地図を見ると、結構巧妙に隠された場所にあるようだ。よくフーカの姉たちは骨の迷宮にたどり着けたな、と思ったが、まぁ恐らく彼女たちが11階層に駐在しているギルド職員たちを昏倒させたのち、スカルコレクターの部下が迎えに来たのだろう。
「じゃあ、明日に備えて俺たちは帰って寝るか。朝にフリマの寮に迎えに行くからな」
「はい、お兄さん。明日お願いします」
俺はそう言うと、フーカと別れた。
そして、翌朝、俺はフリマの寮に行ったのだが、いつも寮の前で待っているはずのフーカがいなかった。
もしかして、寝坊でもしたのかと寮の中に入っていくと、一階を掃除しているリーがいた。
「コ……コーマ様。ようこそおいでくださいましゅた」
「いや、リー、できればいつも通りにしてほしいんだが」
俺がここの元オーナーだと知ってから、リーはいつもこんな感じだ。いつも通りにしてほしいんだが、当分難しいだろうな。
こういう風に敬われるのが悪いというわけではないのだが。
「ところで、フーカを見なかったか?」
「ふ、フーカしゃまなら今朝早くに出て斬られました」
「斬られた!? 誰に」
「出ていかれました」
どんな噛み方だ。と思ったが……そうか。もう出て行ったのか。
どこかに買い物にでも行っているのだろうか?
だが、いくら待っても、フーカが戻ってくることはなかった。




