フーカの目的
~前回のあらすじ~
ブラックバスを食べるためにレストランを目指した。
驚いた。まさかこんなことになっているなんて。俺はこの世界に来て、全てをわかっていた気になっていた。西大陸で死線を何度か乗り越え、学校の長になり教える側の人間になった。いや、教える側で言えば、クルトを弟子にしたときから教える側だった。
だが、俺の知らないことがまだあったなんて。
「なんて……」
俺はそう呟き、首を大きく横に振る。
俺は天を仰いだ。全てを知った気になっていた。傲慢だった。そうだ、俺に傲慢の称号を与えよう。
知っているだろうか? 地球においてルシファーという名前の魔王は傲慢の象徴であることを。
ルシファーやベリアルといった魔王の名前が地球にいたころから存在した理由はいまだにわからず、もしかしたらこれが何かの伏線であるのではないかとか思っているが、今はそんなことはどうでもいい。
とにかく、俺は自分の傲慢さを呪った。
「シェフを呼べ!」
俺が大声を上げると、若い給仕の女性が慌てて厨房へと入った。ちなみに、いつもいるらしいオーナーはここにはいない。俺が以前処分を頼んだ「バッカスの酒」が何か問題があったらしく、俺には会いたくないそうだ。返せとか言わないのに。それを除いても、かつて俺は勇者ふたりとともにここに訪れたことがあり、しかもこの店を今日のために貸し切り予約したのはラビスシティーで一番大金持ちになったメイベルである。相当なVIPであると思っているのであろう。
慌てて駆け付けた50歳くらいのシェフは、「どうかなさいましたか?」と尋ねた。
すると、俺は立ち上がり、
「マーベラス!」
拍手をした。
「素晴らしい料理だった。この魚は調理が難しい魚のはずだが、ここまで見事に臭みを消し去り、淡白な味を引き出せるなんて。俺の中でミシュラン三ツ星を与えたい出来だったよ。デセールを追加注文したいのだが、君の腕を見込んでぜひ最高の物を頼むよ」
わざわざデザートをフランス語で言った。翻訳魔法の前ではフランス語だろうと英語だろうとロシア語だろうと関係ないのだろうが。ロシア語でデザートを何と言うかは知らない。
すると、シェフの男は一安心し、俺の悪乗りともいえる発言に乗ってきた。
「ウィムッシュ、旦那様のご期待に添える一品を作ってご覧に見せましょう」
「おいおい、フーカは俺の妻じゃないぜ、シェフ。男女を見たら夫婦と思うなよ。それを言ったらシェフとそこのウェイトレスも夫婦になっちまうぜ」
「ええ、彼女とは先週籍を入れました」
「マジかっ!? 凄い年の差婚だな!?」
俄か作ったキャラ設定が脆くも崩れ去る。
五十歳と二十歳。そんな年の差婚があるんだな。いや、この料理の腕なら毎日食べたいと思うかもしれない。
「いえいえ、私と妻は同い年ですよ」
「マジかっ!?」
え? 本当に?
シェフが見た目更けているのか、ウェイトレスが若作りに大成功しているのかどっちだろうか? 怖くて聞けない。
「あの、お兄さん、それで話なんですけど」
「ブラックバスの話か?」
「違います、いえ、美味しかったんですけど……僕が言いたいのはスカルコレクターです」
スカルコレクター。フーカを狙っている魔物達の親玉なのは間違いないと思う。
そして、その名は確かにユーリから貰った魔王の一覧にもあった。
「そういえば、フーカはコレクターという言葉が嫌いだったが、やっぱりスカルコレクターのことを知っているのか?」
「僕には、お姉ちゃんがいたんです」
いた。その言葉が意味することに、俺の中からおふざけモードが消える。
「三年前、僕たちが隠れ住んでいた鬼族の村にスケルトンが現れました。大した強さはなかったのですが、お姉ちゃんを含め何人かがそのスケルトンから呪いを受けました。たぶん、僕が今日受けた呪いと同じものだと思います」
三年前……俺がこの世界に来るよりも前の話か。
「死んだ……のか?」
「わかりません。呪いを解くために、呪いを受けた鬼族は全員、このラビスシティーの中にあるという骨の迷宮を目指しました。迷宮への不法侵入ということで、当時結構問題になったそうですが、それ以降の消息はわかっていません」
重い空気が流れる中、
「お待たせしました、当店自慢のデセールになります」
フルーツの盛り合わせがテーブルに置かれた。シェフ自ら運んできて、俺に目配せをした。
「……あぁ、ありがとう。これ、祝儀だ、受け取っておいてくれ」
俺はそう言って、アイテムバッグから小銭の入った袋を取り出して、シェフに渡した。
先ほどとのテンションの違いにシェフは一瞬戸惑ったが、
「ありがとうございます」
とお金の入った袋を持って下がっていた。
……なるほどな、フーカが骨の迷宮を目指す理由もわかった。
そして、スカルコレクターか……その名前が示す意味を考える。
そのままだと、そいつが集めているのは骨――特に頭蓋骨だろう。そして、鬼族の頭蓋骨はやはり普通の人とは違うんだろうな。その頭の角が。
「……お兄さん、すみません」
「いんや、気にするな。骨の迷宮まで行くのは変わらないよ」
「いえ、そうではなく、僕、思ってしまったんです。お兄さんが三年前にいてくれたら、お姉ちゃんたちは苦しまずに済んだんじゃないかって。お兄さんのせいじゃないのに――少しお兄さんを恨んでしまったんです」
「それこそ気にするな。俺が何もできなかったのは事実だからな。それより、果物を食べようぜ――」
俺はそう言って、オレンジを食べた。
そのオレンジはやけに酸っぱく感じた。
「金貨三十枚っ!?」
厨房の奥から先ほどのシェフの奥さんと思われる女性の叫び声が聞こえてきた。
……適当にチップを渡したが金貨三十枚(約三千万円)も入っていたのか。
返すって言われても受け取らないけどな。




