足下の気配
フーカがスノーワームを倒した。
スノーワームが作り出した穴はまるでスノークラフトやカマクラみたいに頑丈になっている。
「明かり」
光魔法を唱えると、手のひらから光の球が現れてゆっくりと浮かび上がった。
照明代わりになるアイテムは大量にあるのだが、手軽に使う分にはこの魔法が一番手っ取り早い。
「お兄さん、光魔法も使えるんですか?」
「簡単な魔法だけだがな……」
足下が滑りやすくなっているので、手を壁にあてて支えながら、穴を潜っていく。
三分ほど歩くと、階段が見えた。
その階段を下りていくと、12階層にたどり着く。
12階層にたどり着いても、一面銀世界。目新しいものなどなにもない。
つまらない。
「目的地は15階層だから、あと3回ですね」
「行きだけを考えたらそうだけど、下りていくにつれて敵はだんだんと強くなっていくからな……とりあえず、適当にうろついて、また雪虫が出てくるのを待つか」
「そうですね……あ、お兄さん、ここに何か埋まってるみたいですよ」
「何かって、何が?」
「えっと、ちょっとわかりませんが」
……何が埋まっているかわからないが埋まっている……か。
まぁ、行程を考えると時間にも余裕はあるし、掘ってみるか。
アイテムバッグからシャベルを取り出して、掘ってみる。
三度ほど掘ったところで、カンっ、と音が鳴った。
何かを掘りあげたようだ。
シャベルを置き、手で雪を払いながら、それを掘り出した。
ブルークリスタルのような、半透明の宝石。
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氷結晶【素材】 レア:★★★★
氷の力が固まり、結晶となった。氷の力を持つ。
氷そのものではないので、常温でも溶けることはない。
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おぉ、はじめて見る素材だ。
氷の力……おぉ!?
案の定、レシピを見たところ氷関係の武器や魔法書を作ることができるらしい。
氷魔法はルシルが得意とするところなので彼女には必要ないだろうが、俺にとってはありがたい。
「どうやって見つけたんだ? フーカ」
「鬼族の角は魔力に敏感なんですよ。魔力の篭ったアイテムなどが埋まっていたらわかります」
「凄いな――うん、他にもあったら教えてくれ」
アイテムバッグにシャベルと氷結晶をしまい、俺達は雪の上を歩いていった。
この迷宮攻略法としては、さっきのようにスノーワームを倒して階段を見つけるのが正攻法の攻略法なのだが、もうひとつ、誰かが倒したスノーワームの穴を便乗して使わせてもらう方法もある。
「お兄さん、見てください、あそこに穴がありますよ! 誰かが13階層に向かったんだと思います」
「だな……でも――罠がしかけてある」
うっすらと糸のようなものが見える。
ここを誰かが通ろうとしたら雪の穴が崩れるようになっているようだ。
まぁ、苦労して倒した雪虫の穴を、全く戦いに参加していないライバルに使われるというのは心地よいものではないのだろうが、こういうところに罠をしかけるのは、性格悪いよな。下手したら死ぬぞ。
そう思った時、雪煙があがった。
誰かがスノーワームと戦っているのだろう。
「よし、俺たちも手伝って、穴を使わせてもらおうぜ」
「わかりました」
俺たちは足を早めて、戦いのある方向へと向かった。
そして、そこにいたのは、
「子供?」
フーカがそう言ってしまう冒険者。フーカも十分見た目子供だろうと思うが、たしかに子供だった。
「あぁ、これは助太刀の必要はなさそうだな」
タラが四匹のスノーワームに囲まれながらも、無双をしていた。
自分の体よりも大きな聖銀を背負っているが、それを使わずに己の拳だけで敵を倒していく。
戦いは一方的だった。
「……凄いです……フーカよりも小さいのに」
「フーカ、あいつの戦い方は参考にするなよ。実力も経験も規格外だからな」
俺はそう言って、その子供に声をかけた。
「精が出るな、タラ」
「……主、お見苦しいところをお見せしました」
俺と、そしておそらくフーカも同じことを思っただろう。
(お見苦しい? え? どこが?)
まぁ、自分を強く戒め、上を目指すタラにとっては見苦しい結果だったのかもしれない。
「お兄さん、知り合いですか?」
「あぁ、こいつはタラと言ってな……うーん俺の……配下?」
「某は主の第三の配下、タラと申す」
タラが第三の配下ということは、第二の配下はおそらくコメットちゃんのことだろ。
第一の配下は……ルシルか? まぁ、ルシルは魔王軍元帥という肩書きを用意しているので、俺の配下であるのは間違いない。それは本人も認めているところだが、どっちが上かと聞かれたら、絶対にルシルのほうが偉そうだよな。
「タラ、いくら耐寒ポーションを飲んでいるからって、さすがにその服装は寒くないか?」
タラの服装はいつもと変わらない薄着だ。見ているこっちが寒くなる。
「いえ、某、耐寒ポーションは服用しておりません」
なん……だと!?
俺はアイテムバッグから温度計を取り出す。
……氷点下23度……人が生きていく上で快適とは縁遠い。
「某、昔は氷の海を裸で渡ったこともございます。それに比べれば、このような場所、涼しい風の吹いてる野原と何ら変わりござらん」
間違いなく、ゴーリキのしての冒険譚だろう。相変わらず、人間の限界を超えている。
「あ……あぁ、そうだ、この穴、使わせてもらっていいか?」
「もちろんです。このあたりは雪虫を含め、魔物が多く湧き出るゆえ、某はもう少し修行をしてから後を追います。ところで、そちらの女性は?」
「あ、あぁ、こいつはフーカだ」
「はじめまして、鬼族の娘、フーカと申します……お兄さんの従者候補として一緒に迷宮を潜らせてもらっています」
自ら鬼族と名乗るフーカ。俺の配下だということを知り、俺への信用の証として名乗ったのだろうか?
そう思ったが、後で話を聞いたところ、鬼族と獣人族とは昔から仲が良いそうだ。お互い、結構苦労しているらしい。
本当はタラは獣人ではないのだが、そのあたりを追求すると話がややこしくなるので黙っておく。
「凄いんだぞ、フーカは。角の力で雪の下のアイテムを見つけることができるんだぞ」
「……うむ、そのようなこと――」
そう言うと、タラは雪の中に拳をつきつけた。
そして、引き出すとその手に握られていたのは、一粒の種だった。
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スノーシード【素材】 レア:★★★
スノーフラワーの種。雪の中で根を張り、発芽する。
花が咲くまで七年かかり、咲けば一時間で散ってしまうため、幻の花と言われる。
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またもや知らないアイテムだ。
「某の鼻をもってすれば、このように地中に埋もれたアイテムを掘り起こすことなど容易いこと」
「……お兄さんお兄さん、この下にまた鉱石が」
「待っていて下され、主。今すぐ珍しい魔物を仕留めて――」
「いや、対抗してもらって、俺としてはレアアイテムが手に入るのは嬉しいんだが、今は勇者試験中だからな」
タラのここまでの対抗心を見るのは非常に珍しかった。
ちなみに、雪の下を掘ったり、ここを掘ったらアイテムがあるとか言ったりする二人を見て、
(まるで花咲か爺さんが飼っている犬みたいだな)
と思ったことは黙っておく。




