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異世界でアイテムコレクター  作者: 時野洋輔@アニメ化企画進行中
第三部 世界終焉編 Episode12 骨の迷宮

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雪虫が導く下への階段

~前回のあらすじ~

山賊A、B、Cをやっつけた

 かんじきを履いて、ざくざくと、雪の道を歩く。


 氷結の迷宮、ここで必要なのは三つある。


 ひとつは、防寒対策。耐寒ポーションを全く手に入れられなかった人、もしくは必要数手に入れられなかった人は、その寒さをしのぐための毛皮や食料が必要となる。

 二つ目は、戦闘力。魔物と戦うための力。勇者にとって最も必要な力のひとつと言われている。

 三つ目は、体力。とにかく雪の上を歩くという行為は、それだけで体力が奪われる。特に雪を知らずに育った人間にとって、これが一番見落とされる。


 そして、この迷宮で意外と必要がないのが、方向感覚だ。

 実は、この迷宮、下の階に通じる階段が20はあるから、適当に歩けば下り階段が見つかる。

 ただし、その階段は雪に埋もれていて、通常の方法では見つけることはできない。

 そう、雪虫の導きなしには。


「静かですね」

「あぁ、雪が音を消しているんだよ」


 しんしんと降る雪。雰囲気を重視して用意した蓑の上に積もった雪を払い落としながら、俺は周囲を見た。

 フーカの角を隠すにもちょうどいいが、彼女が被ると、まるで妖怪ゆきんこみたいに見えてくる。


「お、みかんユキウサギがいるな」

「本当ですね、可愛いです」


 みかんユキウサギは、この迷宮で最もよく見る魔物だ。

 見た目は普通のウサギなのだが、頭の上にみかんを乗せている。みかんも体の一部のため、着脱は不可能。斬り落とすことはできるのだが、

 戦闘力は極悪。というのも、とにかく出てくる冒険者に対して、頭の上に乗っているみかんの汁を飛ばしてくるのだ。

 あまりの可愛さに笑顔で近付いたクリスが、その両目を潰されたことがあった。 


「いっちょ倒しておくか」

「倒すんですか?」

「みかんユキウサギの落とす、冷凍みかんが美味しいんだよ。食べると爪の中に深刻なダメージが来るけどな」


 霜焼けとかなら問題ない。

 西大陸のバベルの塔で大量にむしってきたユグドラシルの葉から、エリクシール大量生産に成功しため、霜焼けを治す程度に使っても問題ない。

 それよりも問題なのは、爪の間にはさまるみかんの皮だ。あれを取り除くのに一苦労する。

 必死に皮を剥いた冷凍みかんを横から、ルシルに取られたときは本気で殺意がよぎった。

 彼女のためなら死んでもいい、彼女のために生きると思っている俺が殺したいと思った。冷凍みかんで、あの時の強い意志が覆ってしまうとは、俺の意志はその程度のものだったのかと思った。


 でも、それでも美味しいんだよな、冷凍みかん。 


 では、倒させていただきますか、と思った時だ。

 みかんユキウサギが何かの気配を感じ取り、雪の中に潜っていく。

 俺も、その気配を感じ取った。


「フーカ、戦闘の準備だ」

「戦闘――って。お兄さん、そこまでレート―みかんを食べたいんですか?」

「そうじゃない、下から来る! 例の雪虫が」


 北海道で初雪を知らせる、一部では妖精扱いされる虫、雪虫。

 彼らが舞う景色は幻想的でもあり、とても綺麗である。近くで見たら気持ち悪いけど。

 だが、俺がいま言う雪虫はそんなものではない。


「フーカ、後ろに飛べ!」


 俺の言葉と同時に、俺とフーカは後ろに飛ぶ。

 そして、それは雪の中から現れた。


 青く巨大なミミズ――その見た目は巨大ワームを思わせる。

 そして、その口の中には無数の歯があり、口の部分には――恐らく勇者候補か従者候補なのだろう、冒険者らしいものの遺体がひっかかっていた。

 絶命しているだろう。

 冒険者の間で雪の中にいる虫、雪虫と呼ばれる巨大ミミズ、スノーワームが現れたのだ。


「フーカ、ひとりで倒せるか?」

「え? 僕がひとりでですか?」

「とりあえず、ここでフーカの実力を知っておきたい。無理だと思ったらフォローするが……どうする?」

「大丈夫です。行かせてもらいます」


 そう言うと、フーカは聖銀の籠手を合わせた。

 フーカを一気に飲み込もうとスノーワームが雪の中から長い体を出して伸びてくる。

 フーカが横に飛んだ。


(速いな――)


 その速度は、雪の中だというのに速い。

 移動するフーカを追って、スノーワームがその身体を大きく横に曲げるが、フーカのほうが圧倒的に速かった。

 彼女は横からスノーワームの下へと潜り込むと、下からその体を殴りつけた。


 その素早い動きに、蓑の紐が解け、彼女の角が露わになる。


(角が光ってる?)


 淡く光っていた角が、さらに強く光ったと思ったら、ワームの体が宙へと浮いていた。

 まるで日本の龍みたいに空を舞ったワームは――そのまま遠くへと消えてなくなった。


 ……なんて馬鹿力だ。

 これが鬼族の力か。


 俺はアイテムバッグからハリセンを取り出すと、彼女の頭に叩きつけた。

 パシーンと、とてもいい音が鳴り響く。


「やりすぎだバカ。あんな遠くに飛ばしたらアイテム素材が取れないじゃないか」

「あ……すみません、そこまでは考えていませんでした」

「全く……」


 そう言って俺はハリセンを見る。

 彼女の角を叩いたせいで、ハリセンに大きな穴が開いていた。


「じゃあ、12階層に行くか」


 スノーワームの特徴は地下に続く二十ある階段に巣を作り、その周りを歩く冒険者を襲うという特性がある。

 そのため、スノーワームが作った穴を進めば、下に続く階段があるというわけだ。


 この穴も、数時間あれば雪に埋もれてしまうのだが。

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