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謎の少女

 ミュートが消えた。いや、もともと姿は見えなかったわけだが。

 残した言葉は意味深だった。

 天使――か。天使といえば、ディーネが化けていたアルモニーという名前の魔王の姿は天使っぽかったが、ああいう奴が相手なら、確かに厄介だ。それとも、抽象的に天使だというのなら――と、俺はチラリとルシルを見た。

 大人バージョンのルシルは確かに誰もが見惚れる絶世の美女だが、あれは天使というよりは堕天使だ。

 となれば、俺にとっての天使は――


(アンちゃんか?)


 ふと、どこかのロリコン鍛冶師の生霊が乗り移ったかのような考えが脳裏をよぎった。まぁ、アンちゃんは天使だよな。

 でも、天使か。

 魔王がいるのなら、天使がいてもおかしくはないと思うが。


 でも、天使って、いわば神の使いだよな?

 ミュートは、それがまるで悪い存在のように語っていた。


 そう思った時、本殿の照明が消えた。


「エネルギーの供給が断たれたのね……コーマ、そろそろ脱出するわよ」

「あ……あぁ、そうだな、ここですることは全部――」


 俺はそう呟き、「あぁぁぁぁっ!」と思い出した。


「忘れてた! グラッドストン! 教皇はどこにいった?」

「グラッドストン? 誰それ」

「教皇だよ。一応、この世界の教会の最高責任者らしいが……やべぇよ、さすがに放置はダメだよな」


 今回の事件の黒幕が鈴子だとするのなら、グラッドストーンは巻き込まれただけになる。

 鈴子はついて来ればわかるとか言ってたくせに、結局何もわからないぞ。


「ん? コーマ、もしかしてグラッドストーンって、長い髭の男?」

「あぁ、白い髭の爺さんだよ……見たのか?」

「髭の色は知らないけど、長い髭の人なら、そこにいるわよ」

「え?」


 俺が見ると、本殿の奥に石像があった。

 その石像の姿はグラッドストーンその人で間違いなさそうだが、え? 石化?

 診察スキルで確認する。


【HP32/32 MP61/61 石化】


 うわ、弱っ。いや、一般人としては平均レベルか。

 どうやら人間なのは間違いないようだが、でも、一体どうして石化なんかしてるんだ?

 鈴子にやられたのか?


「とりあえず連れて行くか」


 俺は石像の重さを確認するように力を軽く籠める。


「ここで石化解除しないの?」

「地上に戻ってから元に戻すよ――一般人だというのなら、ここで元に戻してパニックになられても困るだけだしな」


 俺は石像を持ち上げようとして――膝から崩れ落ちてしまった。

 

「コーマ、大丈夫!?」

「いや、ちょっと第二段階の状態が長くて、負担が身体を襲ってるだけだ……大丈夫――今アルティメットポーションを飲むから」


 俺はアルティメットポーションを取り出して一気に飲み干す。

 だが、それをしても疲れは取れないが、空元気で俺はルシルに笑いかけた。


 その時、通信イヤリングが鳴った。

 クリスからだ。あいつも心配していたんだろう。


「クリス、安心しろ。こっちは無事に終わった」

『それはよかったです。でも、コーマさん、女の子が迷い込んだみたいで――ちょっと来てください』

「女の子? わかった、すぐに行く」

「どうしたの?」

「女の子が迷い込んだそうだ。ったく、サクヤにはちゃんと転移陣を見張ってるように頼んでおいたのに、何してるんだ、あいつは――」


 俺は通信イヤリングを切り、グラッドストーンの石像を抱え上げると、本殿を出て、賽銭箱に感謝の意味を込めて銅貨を投げ入れ(かと思えば柏手も願い事もせず)、神社裏の駐車場へと向かった。


「おぉい、クリス! 女の子って、その子か?」


 そこにはクリスと一緒にいたのは、十歳くらいの女の子だった。

 フードのような帽子を被っている。


「あれ? この子どこかで見たような……」


 俺はグラッドストーンの石像を下ろしてそう呟いた。

 記憶を辿っていくと、俺がはじめて大聖堂に来たときのことを思い出した。

 そして、彼女は俺を見て、呟くように言った。虚ろな瞳で。


「……魔王の残滓」


 その言葉に、さらに記憶が鮮明になる。


「あなたはまだ魔王について知らない。でも、もういい。私は復活できる。繋がった。世界が繋がった。私は天に戻る」

「……お前は一体」


 彼女はそう言うと、グラッドストーンの石像に手を当てた。

 すると、一瞬にして、グラッドストーンの石化が解除された。

 彼は膝からアスファルトの大地に崩れ落ち、周囲を見回す。


「こ……ここは」


 驚くのは無理はない。駐車場とはいえ、異なる世界の風景であることは見て取れる。

 だが、グラッドストーンが一番驚いたのは、少女の存在だった。


「――天使様、何故御姿を……」

「今までお疲れ様。もうお休み」

「なっ」


 少女がグラッドストーンの体に手を触れる。すると、グラッドストーンはまるで、水分が奪われたミイラのように干からび、そして砂のように消えた。

 その光景に、俺たちは目を丸くした。


「お前は……お前は一体なんなんだ?」


 俺が問いかけた。だが、彼女は俺の質問に答えず、じっとクリスを見た。

 クリスが一瞬のうちに後ろに飛びのく。

 人が意味不明の攻撃で死ぬのを見ているのだ、そうするのは当たり前だ。


「――勇者クリスティーナ。あなたの父親はよく知っている」

「え?」

「私は一度、あなたの父親とともに戦ったことがある。闇の魔竜――ルシファーと」


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