日本への送還
~前回のあらすじ~
ユグドラシルの杖と種を使って――
ユグドラシルの杖の加工を始めた。
杖の柄の部分の加工をする。
煮沸した水の中に、ユグドラシルの杖を浸す。本来なら水に12時間浸したあとに30分ほど煮沸するのがいいのだが、俺の木工スキルのおかげか、ゆっくりとだが杖が曲がっていく。ちなみに、沸騰したお湯の中に直接手を入れているが、竜化第二段階の影響か、熱いのは熱いが耐えられる。
そして、丸めた柄の中央に取り付けたのが、ユグドラシルの種子だ。
雷の杖に、トパーズを付けたら雷鳴の杖になるように、きっと、これでエネルギーが上がるはずだ。
ただし、こんなアイテムは今まで存在しなかったのだろう。
鑑定をしても、それが正しい効果を発揮しているかどうかはわからない。
「ルシル、これならなんとかなるんじゃないか?」
俺は真ユグドラシルの杖(仮名)をルシルに放り投げた。
ルシルはそれを手に取り、
「……全然ダメね。種子は魔力を内に籠めるものだから、魔力を高めるようにできていない……でも、私なら――」
とダメだしの後に、何か呪文を唱える。すると、ユグドラシルの種子の光が杖中に広がっていく。
それを見ただけで、俺はわかった。
杖が、生まれ変わった。
「コーマ、この杖の名前を考えてるの?」
「一応、真ユグドラシルの杖と名付けようと――」
「なら、私が名付けるわね」
俺の意見は無視か。
「ルチミナロッド、そう呼ばせてもらうわ。私が一生使うに相応しい杖よ」
「……そんなに凄いのか?」
「かなり限定的だけど、全盛期の半分くらいの力は使えると思うわ――」
そして、ルシルは杖に力を籠めると――ルシルの姿が成長した。
……彼女を見るのは三度目だ。
一度目は、俺がこの世界に来てすぐに。
二度目は、俺がルシファーに飲み込まれている時に。
大人の姿になったルシルを見て、俺は直感的に思った。
72財宝を集めたらルシルの力が戻る――その可能性はかなり高いのだと。
こうして、72財宝のふたつを組み合わせるだけで、ルシルの力の半分が戻ったのだから。
「……ルシル! 杖の光が薄くなってるぞ!」
「わかってるわよ! 時間が無い――詠唱省略でこの子を飛ばすから――」
「わかった! 鈴子! 舌を噛まないようにしろよっ!」
自分で言いながら、逆バンジーじゃないんだから、とツッコミを入れた。
ルシルが杖を回しながら、鈴子が座る魔法陣の周囲の陣に杖をついていく。
「……あぁ、鈴子、日本に帰ったら何を食べたい?」
「……テリヤキバーガー」
「日本食じゃないんだ!? いや、確かにあの味は日本独自だけど。でも、ワックは俺の時代だと日本から撤退してるぞ?」
「……ウソっ!?」
……おぉ、鈴子がはじめて一番驚いた。まぁ、もちろん嘘だけどな。
「オッテリアが規模拡大してな」
「……モズじゃないの」
「あぁ、モズのテリヤキバーガーも旨いよな……」
「……あれは神」
「でも、モズならオニオンフライだな。なんでオニオンフライってワックやオッテリアにはないんだろ?」
「……オニオンフライ?」
「え? お前の時代ってオニオンフライなかったっけ?」
「……わからないけど、なかったと思う」
そうか、軽くジェネレーションギャップだな。
モズと言えばオニオンフライだと思っていたのに。
「日本に帰ったら何をするんだ?」
「……読みかけの漫画、全巻制覇」
「はは、そりゃいいや」
「……あと、お父さんとお母さんに会いたい」
「そうか。辛いかもしれないぞ」
「……理解してる」
「なぁ、浦島太郎は玉手箱の話とか、そういうことを全部知ってたら竜宮城から帰ったと思うか?」
「……そういう例えはいらない。全部……全部理解してる。それでも私は日本に戻りたい」
「そうか……じゃあ、元気でやれよ」
「……光磨、あなたこそ」
「おう、俺は元気にしてるって親父たちに伝えてくれ」
「コーマ、準備ができたわ」
ルシルが言う。そうか……準備ができたか。
「ルシル、頼む」
「うん――送還!」
詠唱も何もない、味気ない魔法。
ルシルの一言に鈴子の姿は一瞬にして消えた。
光の粒子になる訳でもなければ、うっすらと姿が消えるわけでもない。
彼女の痕跡など最初からそこになかったように。
……無事に日本に帰れたか? とは聞かない。
なぜなら、彼女は日本に帰ったのだから。
ルシルが俺に再封印を施し、俺の姿は人間のものに戻る。
これで全部終わった。
『さようなら、鈴子』
「一緒にいかなかったのか? ミュート」
『まぁね。ニホンがどんなところかは知らないが、彼女の話だと、精霊の存在しない世界なんでしょ?』
「そうだな、お前はきっといい研究材料になるだろうな」
『それは嫌だなぁ。人の心を見るのは好きだけど、心の中を見られるのはあまり好きじゃないし――でも、ニホンに行ったほうがよかったかな』
「まぁ、日本は平和な分欲深い人間も多いからな。人間の欲が好きなお前には楽園かもしれないぞ」
『そういう問題じゃないよ。日本に繋がったことで、あいつが復活するからね』
「……あいつ?」
『じゃあ、コーマ、お休み。僕はもう寝るよ……僕の力、ほとんどさっきの戦いで無くなっちゃってさ――もう眠いんだよね』
「おい、待て! あいつって誰なんだ」
俺の問いに、ミュートはその名を述べた。
『天使……だよ』




