ユグドラシルの種の中
~前回のあらすじ~
ルシル、エネルギー不足。
東大陸の西端の岬。
僕は西の空を見ていた。ベリーが役目を終えた今、バベルの塔の中の様子は、僕にはわからない。
ユグドラシルの種。
あれの意味を彼は――ルシファーの忘れ形見――コーマは気付いただろうか?
バベルの塔が復活した以上、天使が復活するとしたら時間の問題。
それなら、いっそのこと天使さえも利用してしまおう。
そのためのキーは、コーマだ。
彼にはせいぜい、僕の掌で踊って貰わなくてはいけない。
「後ろから糸を引くのは楽だけど疲れるよね」
僕はサイルマル王国の城に戻り、謁見の間に出た。
そこには、七体のオーガジェネラルが鎮座し、この国の文官である男が怯えながらも書類を持ってきた。
「……へ、陛下。アイランブルグより書状が届いております」
「あぁ、ご苦労……あぁ、やっぱりね」
アイランブルグから届いた書状は、予想通りの魔王利権に関する書状だった。
全く、一度同盟を組んだくらいで、対等な立場でいると思っているのだろうが、たかが普通の人間風情が。
各国の首脳が、魔王に関して知った現在、その魔王の利権を求めて動き出した。
魔王の利権――迷宮に魔物を生み出し、操ることができる力。
魔物を量産できれば、魔石を量産できるのと同じことであり、そして、魔物が落とすアイテム、それ以前に魔物の存在が人間の軍隊に匹敵、もしくはそれ以上の力を持つ。
現に、この国の近衛兵は全てオーガジェネラルに、そして今はいないがオーガキングを近衛隊長に据えた。
それに反対する人間はもちろんいたが、そういう奴らには、オーガジェネラル一体と戦ってもらうことにした。
参加したのは近衛兵全員と、近衛隊長だった人間だ。もっとも、僕が国王の冠を頂戴した時に仕えていた近衛兵と近衛隊長は全員ベリーに殺されて……おっと、近衛隊長を殺したのは僕だったか。ともかく、全員死んでしまっていたんだけどね。
ちなみに、総勢22名の近衛兵たちだったけど、オーガジェネラルに傷ひとつ付けることができず、全員あっさり死んでしまった。
「……陛下、それで……その」
大臣が何か言おうとして、口を噤む。近衛兵が死んだ今、彼はこの国で僕が魔王であることを知っている数少ない人間だ。
「安心しなよ。僕はこの国の王だよ? この国のことを第一に考えているに決まっている。君も安心して僕に仕えるといい」
「は……はぁ……」
「用が済んだら出て行ってよね。僕は今、考え事をするのに忙しいんだから」
「し、失礼いたします」
出ていく彼を見て、僕はほくそ笑んだ。
もう元には戻らない。
僕が生きている限り、世界は廻り、時間は流れる。
ルシファー、死んだ君はもう何もできない。せいぜい、彼の中で魂となって見ているがいいさ。
※※※
「コーマ、どうするの? 何か方法があるの?」
俺と同い年くらいにまで成長したルシルが尋ねた。
「これだ……これを使う」
俺はユグドラシルの種を取り出し、呟く。
「アイテムクリエイトで何か作れるの?」
「いや、何ひとつないよ。これを素材にしてアイテムクリエイトで作れるアイテムなんて……あったらとっくに気付いてる」
薬も作れない。錬金術にはレシピが必要だから。ならば――武器を作る。
鍛冶スキルで。
俺はユグドラシルの杖を取り出した。
そして、ユグドラシルの種を見る。
大きな種だが、これは大きな殻に覆われている、まるでクルミやピスタチオのような構造になっているように思える。
となれば、本当の種子はこの中にあるはずだ。
まずはそれを取り出す。
ユグドラシルの種子を、鱗で覆われた手の甲で叩く。
とても硬くて、普通の力では割れそうにない。
ならば――と、俺はアイテムバッグからエントキラーを取り出した。
――斬るのは殻だけ――中の種子は傷つけずに。
そう思い、俺は斧を振り下ろした。
止めるんじゃない、引くんだ!
だが、引くのが早すぎたのか、斧はユグドラシルの種にまで届いていなかった。
集中力が明らかに欠如している。
なぜなら、先ほどから常に俺の耳に破壊衝動が響いているから。
殺せ、殺せ、と頭に響き続けている。
その破壊衝動は、寸止めを決して許さない。ユグドラシルの種を壊してしまえと俺に訴えかける。
一度人間に戻ってしまえばいいと思うかもしれないが、封印のON/OFFは、俺とルシルの両方の負担になる。
次こそは――と斧を再度振り下ろす。
引け!
その意志が通じたのか、斧は殻だけを割り、そこから罅が殻中に広がり――そして現れた。
ユグドラシルの種子が。
「……綺麗だ。まるで宝石みたいに」
まるで琥珀のように透けて輝く、野球ボールくらいの大きさの種子を見て、俺は唾を飲み込んだ。
こんな小さな種子(といっても種としてはかなり大きいが)なのに、凄い力を肌で感じる。
これなら――これを使えば――




