鈴子を日本へ!
~前回のあらすじ~
鈴子を日本に戻すとコーマが言った。
「……うん、コーマ、疲れてるのね。さぁ、魔王城に帰りましょ」
ルシルが優しい目で俺の肩を叩いた。
え? 俺、何か変なことを言ったか?
「いや、ほら、俺って欲深いからよ。どうせなら、全員の願いを叶えてしまおうとか、そんなことを思ってさ」
「あのね、コーマ。この子を日本に戻すためのエネルギーは精霊たちに戻してるのよ? それを使えば、西大陸は元に戻らないの。それでもいいの?」
「それは困るが、でも、ルシル。お前の力ならなんとかなるんじゃないか? お前、俺を日本に転送できるって言ってただろ?」
「あれは私が全力の力を出した場合よ。今の私にそんなこと――」
「これまで飲んできた魔力の神薬と魔力の妙薬による魔力の底上げ、ユグドラシルの杖による魔力のブースト、俺の竜化第二段階によるルシルの解放、それでだめか?」
「無理よ。召喚よりも転送のほうが力が必要なの。全盛期の私の力でギリギリ、とてもじゃないが」
「ここから転送するのでも無理か?」
俺の問いに、ルシルは眉を顰めた。
ここは日本でもないが、ルシルたちの世界でもない。
その狭間の空間だ。
ここからなら日本に転送するエネルギーは少なくて済む計算だ。
「……成功率は四割、ううん、三割といったところね……でも、コーマ。わかってるの? 鈴子を日本に送る意味を」
「まぁ、鈴子には悪いが、幸せにはならないだろうな。二十年という歳月は長い。もしかしたら鈴子の両親は既に死んでいるかもしれないし、生きていたとしても鈴子が二十年前に死んだ鈴子だとは思わないだろうな。でも、それも鈴子への罰――」
「そうじゃないわ。コーマ、忘れたの? 私とコーマが最初に躱した約束を」
「……え?」
最初の約束?
それを聞いて、俺は思い出した。俺の表情を見て、ルシルは説明を続けた。
「私はコーマに言ったわよね。全部終わったら、コーマを元の場所に、元の時間に戻してあげるって。それは、世界の間の時間軸に細工をして、この世界の時間の流れと日本の時間の流れを断絶させたからなの」
だから、鈴子が作った扉の向こうに見えたお爺さんは止まっていたのか。
「でも、この子を日本に戻すということは、それを再びつなげることになる。言っておくけど、今の私には再び時間を断絶させる力なんてないわ。少なくとも、これからこの世界で過ごした年月だけ、日本も同じ年月が過ぎることになるの」
なるほど、そういうことか。それは確かに全く考えていなかった。
てっきり、ルシルの魔法には時間移動
「……それこそ今更だろ? 俺は日本に戻るつもりなんてないよ。でも――クリス、ちょっとこっちにこい!」
「はい、すみません、今の話ほとんどわかっていませんでした」
「いいんだよ。それより――」
と俺は呼び寄せたクリスと、隣にルシルがいるのを確認し、スマホを前に突き出した。
そして――スマホの画面には俺とルシルとクリスが映し出される。
「親父! それに母さん、俺、ちょっと異世界にいるから! たぶん日本に戻れないと思うけど、好きな奴もできたし、面白おかしくやってるから」
とムービーを撮影して、今度はカメラを鈴子に向ける。
「それと、この子の世話をしてやってほしい。じゃあ、元気でな」
俺は再度自撮りモードにし、手を振って、ムービーを保存した。
そして、アイテムバッグから牛革をふたつ、魔石を取り出し、アイテムバッグを作成。
俺のアイテムバッグの中に入っている宝石等の貴金属類と、アルティメットポーションを二十本、聖銀の剣五本取り出し、作ったばかりのアイテムバッグの中に、スマホと一緒に入れた。
「鈴子。ということで、このアイテムバッグを俺の両親に届けてくれ。俺の財布の中の全財産も入れておくから、新幹線の代金くらいにはなるはずだ」
「……本当にいいの?」
「頼む。親父と母さんなら、アイテムバッグに入れたアルティメットポーションと聖銀の剣の価値がわかって、俺が本当に異世界にいることを理解してくれるはずだ」
「コーマさんの両親は何をなさってるんですか?」
クリスの問いに、俺は笑って答えた。
「親父は金属関係の研究所長で、母さんは薬品メーカーの研究所長だよ」
だから、ミスリルに関しても、万能薬に関しても必ず研究してくれるはずだ。
もしかしなくても大発見に繋がるだろう。
「あぁ、納得です」
「どういう意味だ?」
「そのままの意味です」
クリスが何か納得するように頷いた。
さて、それでは鈴子日本へ返却大作戦、行わせてもらいますか。
20年の延滞料金を俺に支払うことができるかどうかが鍵だな。
成長無職1巻は本日発売。
実はコーマとルシルが……




