表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
483/742

コーマの欲望

 戦いは一方的だった。いや、一方的にさせられたというべきだろう。何故なら、鈴子の攻撃には全くといっていいほど殺意がない、つまりは俺がかろうじて避けれるような攻撃ばかりだったから。

 鈴子は、まるで選択肢を俺に託しているようだった。


 闇の宝玉を貫いたとき、彼女は死ぬだろう。

 闇の宝玉を砕いた瞬間、彼女は精霊との同化が解除され、普通の人間に戻る。

 彼女の脳の部分に宝玉分の空洞ができる。それは人を即死にさせるには十分だ。

 そして、俺の薬は死者を生き返らせることはできない。

 つまり、彼女を救うには、剣で闇の宝玉を砕くことと、彼女の治療とを同時に行わなければならないのだが――鈴子の攻撃に殺意も攻撃性もないとはいえ、彼女の額の宝玉を砕くと同時にエリクシールを使う余裕なんてない。


 俺は天秤に賭けざるを得ない。

 西大陸は救うためには、彼女を倒さなくてはいけない。

 彼女を見逃してしまえば、西大陸が滅びる。 


 彼女はその選択肢を、俺に委ねたのだ。


 だから、俺は剣を抜いた。


「鈴子――俺は俺の欲望のために、お前を倒す!」


 一瞬――ほんの一瞬だが、鈴子が笑った気がした。


 そして、俺の剣は鈴子の額の――闇の宝玉を貫いた。


   ※※※


 六人目の神子――鈴子は倒れた。

 俺が彼女の額の宝玉を砕いたから。


「悪いな……」


 俺は倒れる鈴子を見て、小さく呟いた。


「コーマ!」

「コーマさん!」


 ルシルとクリスの声が聞こえた。


「ルシル、日本への扉はどうなった?」

「……今はエネルギーの吸収が止まってるわ……自然のエネルギーを変換していたのは五体の精霊だけど、地上からエネルギーを吸い上げていたのは、闇の精霊だったみたい。これ以上エネルギーを吸い上げることはなくなったわ。今、扉に溜ったエネルギーを五体の精霊に再分配するための魔法陣を組んだわ。もう少しで元に戻る」

「そうか……とりあえずは終わったか」


 まだわからないことはいっぱいある。全てがハッピーエンドというわけではない。

 死んだものは生き返らない。

 それは、人だけではなく、生物にも植物にもあてはまる。


 今回の被害で、どれだけの植物が枯れたかはわからない。

 予想していた最悪の事態は免れていると信じたいが、それでも食糧難が起こるのは間違いないだろう。


「コーマさん、鈴子さんはどうするんですか?」

「あぁ……鈴子か……たぶん死んでないと思うんだが」


 俺は鈴子の頬をペチペチと叩く。

 すると彼女は恨めし気な眼で俺を見た。


「……なんで?」

「言っただろ。俺は欲深いんだよ。お前を殺さずに西大陸を救う。まぁ、薬を使う余裕なんてなさそうだからよ、こいつを使わせてもらったのさ」


 そう言って、俺は彼女に剣を見せた。

 それは普通の剣ではない。

 かつて、鍛冶師の修行をしたときにできた失敗作だ。


……………………………………………………

癒しの剣【魔法剣】 レア:★×5


斬った相手の傷を癒す魔法の剣。

斬れば斬るほど回復していきます。

……………………………………………………


 一本はエリエールが買ったが、この剣はまだまだ在庫があるのでね。

 俺が剣の説明をすると、鈴子は「……卑怯」とふくれっ面でそっぽを向いた。


『僕達の負けだね……闇の宝玉が砕かれちゃったから、こうして一時的に喋ることはできても、僕はただの精霊に戻る。それにしても、西大陸も、鈴子も助けたいなんて、本当に君は欲深いね。君が女の子ならいい闇の神子になれたのに、残念だよ』

「悪いが、俺はもう、似たようなものをやってるから御免被るよ」


 すでに精霊の代わりに闇の竜だった大魔王を宿しているのでね。

 まぁ、欲深いっていうのは肯定する。どっちかを天秤に賭けるというのなら、俺は天秤ごと奪うことにした。


「まぁ、この勝負は俺の勝ちだ。お前には罰を受けてもらわないといけない」


 そして、俺は彼女にもっとも辛い罰を与えるべく、ルシルに尋ねた。


「ルシル、鈴子を日本に送りたい。手を貸してくれるか?」


 俺の欲望は留まることを知らない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ