海賊シミターの抜刀術
~前回のあらすじ~
海へと落ちた。
空から落ちる途中も私はタイミングを計っていました。
泳いで滝から脱出すると、水圧が重力へと変わり、自由落下が始まった。
落ちている間も周囲を見回す。
迷宮の中とは思えない広い海。
だが、三十キロ程先には青い壁が見える。
壁と天井に囲まれた海か。
そして、大きな島が二つ見える。
町のような建造物もある。
コーマさんと合流するなら、近い方の島に行くべきか。
そうおもい、着水地点を確認。
すると、大きな船が見えた。
マストのない大きな船と、その周りを小さな手漕ぎボートが囲んでいる。
このままだと船にぶつかってしまう。そう思い、私は空を蹴った。
さっき覚えた多段ジャンプのスキルがいきなり役に立った。
そして、私は小船とボートの間に落ちた。
ってあれ? この状況、もしかして。
巨大な水柱をあげて。
「何だ? 人が落ちて来たぞ」
声が上がった方向を見て私はさっと手漕ぎボートへと上がり、アイテムバッグから剣を取りだした。
頭にバンダナを巻いた男二人が私を見て、男達はシミター風の剣を抜こうとした。
咄嗟に剣のベルト部分だけを切り裂き、剣をひっかけて鞘ごと剣が海の中に沈んだ。
「ひ、ひぃぃぃっ!」
「お、お助けぇぇぇっ!」
別に命を取るつもりはないんですが、戦意を喪失し、隠している武器もなさそうなので、私は小船から伸びたロープを伝って大きな船へと移った。
そこはすでに戦場となっていて、海賊風の男、先ほどの二人の仲間と思われる人たちが、兵士と思われる人を囲んでいる。
そして、兵士達の奥には女の子や商人風の男が縮こまっていた。
落ちている時から確信していましたが、この船は今、海賊に襲われているということでしょう。
ならば、助太刀しないわけにはいきません。
「海賊達! 私が相手です! 死にたくない人はすぐに海に飛び込みなさい!」
甲板の端で、そう叫んでみたんですが、海賊はこちらを向き、
「あぁ? 生意気な女だな。どこから湧いてきたか知らないが、お前から痛めつけてやる」
そういって、男はシミターを抜いて私に襲い掛かってきました。
大振りな攻撃。脇があまくて隙だらけ。
それに――
「そんなに慌ててきたら海に落ちますよ」
さっと横に避け、男の足をひっかけた。
「う、うわぁぁぁ」
男は簡単にバランスを崩して海へと落ちていく。
ついでに、登ってこれないようにロープは切っておきます。
「よくもガウリレイを! 貴様っ!」
今度は別の男二人が切りかかってきましたが、私は片方のシミターを剣で受け止めると、それを受け流してもう一人の男と衝突させました。
そして、二人を後ろから死なない程度に斬りつけ、海へと落とします。
あと3人。
一番強いのは、右目に眼帯を付けた茶色いセミロング髪の女性みたいです。
その女性が私の剣に興味を持ったのか、
「おい、あんた、私と一騎打ちで勝負しないかい?」
そういって、シミターを抜いてきました。
「……わかりました。ですが、手加減できるかわかりませんよ」
「ほざきな」
女性は鞘を収めると、腰をひくくして、独特な構えを取ります。
あの構えは――抜刀術!?
シミターで使う人は初めてみましたが、間違いありません。
試合開始の鐘なんてありません、合図など何もなく、彼女は私めがけて跳びかかってきた。
抜刀術の対処法――それは――
神速には神速。剣を抜く前に勝負をつける。
私もまた前に飛び出し、彼女が剣を抜く前にその手を突きました。
彼女の手の甲から血飛沫が飛びます。
「ぐっ……やるねぇ……」
彼女は後ろに飛びのき、私と距離を置きました。
「もう諦めなさい! その手では剣は握れません!」
「そうだねぇ……」
そう言って、彼女は船室へと続く扉を横目でみる。
すると、その扉が開かれ、男が出てきた。
「姉御、例の薬手に入れやした!」
「でかした! 退くよ、野郎ども!」
「へい!」
そういい、男達は女性と一緒に海へと飛び込んでいきました。
何かを盗まれた? 追おうかとも思いましたが――怪我をした兵士達をみると放っておくことはできません。
「大丈夫ですか!? この薬を飲んでください」
コーマさんからポーションをいくつか預かってアイテムバッグに入れてあるので、私はそれらを一本ずつ怪我をした兵士さんに渡しました。
「ありがとう……助かったよ。君は一体」
ポーションを渡し終えると、奥にいた商人風の男の人が私の前に来て、
「いやいや、助かりました。なんとお礼をいっていいのか」
「いえ、勇者として当然のことをしたまでです」
「勇者? あなたはもしや地上から来られたのですか?」
「はい。ギルドの命令で」
「なんと、冒険者ギルドの。申し遅れました、私はサウスアイランドで島長の店で働いておりますサントと申します」
「クリスティーナです。クリスとお呼びください。ところで、私の連れが一緒にこのあたりに落ちてきたはずなのですが」
「……上から落ちてきたといってもこのあたりの海流は速いからなぁ、とりあえず船員にはあたりを警戒するように言ってみるが」
「わかりました……ではお願いします」
コーマさんはあの水中でも呼吸できるポーションを飲んでいたし、妙なアイテムをどういう経緯で入手したのか山ほど持っているから、平気だとは思うけど。
それでも、やっぱり心配ですね。
船が走ること10分後。
耳元が振動しました。
「あ、そうだ。これがあったんだ」
私は通信イヤリングを手に取り、
「コーマさん! 無事ですか!」
『お、クリスも無事だったか』
コーマさんの声が聞こえてきた。
元気そうな声に、私は胸をなでおろしました。
『悪いが暫く用事ができたんで、別行動になるからな。じゃ』
「ちょ、コーマさん! コーマさん!?」
通信が切れていました。
「もう、コーマさぁぁぁぁん!」
自分勝手な従者に、私は流石に怒っていました。
※※※
クリスのやつ、怒ってるだろうなぁ。
通信イヤリングをオフにしながら、俺はクリスが怒ってる姿を想像して笑った。
まぁ、一番は、あいつが無事だったことに安堵しているんだけどな。
「それにしても悪いな、乗せてもらって」
俺は小船に乗って、楽にしていた。
島まで5キロくらいありそうだからな。
泳いで移動するのは正直嫌だったから、本当に助かった。
「いや、いいんだよ。あたい達も良質の傷薬を貰ったからね」
女海賊は自分の手の甲の怪我を見て言う。
俺が最初にあったときは血まみれだったその手は、今は傷痕一つ残っていない。
「でも、いいのかい? あたい達が海賊だってわかってるんだろ?」
「いやぁ、海賊相手じゃないと集められない情報ってあると思うんだよね」
そう呟き、俺はほくそ笑んだ。




