鈴子の目的
~前回のあらすじ~
日本への道が開きかけていた。
「……さっき、ユグドラシルがエネルギーを吸い上げているのを見た。クリスが言うには、大聖堂の周りにも異変が起こっているそうだ。それもお前の仕業か?」
俺の問いに、鈴子は首を横に振る。
「……違う、大聖堂の周りだけじゃない。西大陸全てからエネルギーを吸い上げている」
「お前、自分が何を言っているのかわかってるのかっ!? 植物が枯れるだけでもどれだけの食糧が無くなるかわかってるのか!? この大陸、全部の国が海に面しているくせに、海洋漁業を大々的に行ってるのフレアランドだけなんだぞ! 知ってるか? アクアポリスの住民って、『え? 海ってしょっぱいよね? そんなところに住んでる魚って食べれるの?』って言うんだぞ! あそこの国内の水はめっちゃ綺麗だから、相対的に海の水が汚いとか思っているのかもな。ただでさえグルースのせいでアースチャイルドの畑が荒らされて、他の国から食糧の支援を行ったから、どこの国も予備の食糧なんてないんだぞ! お前も知ってるだろ!」
「……知ってる」
「だよな、会議一緒にしたもんな! ダークシルドも食糧送ってくれたもんな! なら、なんでこんなことを――」
「……地上に戻るため。それだけ」
鈴子は小さな声で、だが確かな意志を持ってそう言った。
「……だから、私は何人かの欲を刺激し、戦争を引き起こした」
「え? 待てよ、戦争を起こしたのは水の精霊ディーネだろ! 結局、目的は最後までわからなかったが」
「……彼女がそう思っていただけ。そう思うように仕向けた。彼女はとある理由で、強い人間を求めていた。最後にあなたに出会えて本望だったと思う。そして、そうさせたのは私。最初にダークシルドを攻められたのは想定外だったけど……結果オーライ」
『闇の精霊の力は、夢だからね。思い込みの激しいディーネに何度も同じ夢を見せて、それにあった事件を起こすことによって予知夢だと思いこませるのは簡単だったよ』
突如として、その声は聞こえた。
無邪気な子供のような声。
『直接話すのははじめましてだね。僕の名前はミュート。闇の精霊だよ。好きなのは人の欲望。だから、僕は鈴子のパートナーだ。彼女は生まれながらに、ううん、生まれ変わりながらに、日本に戻ることへの執念だけで生きていたからね』
「そうだった……のか?」
そうは見えなかった。
はじめて会った時も、二回目に会った時もマイペースで……日本のことも自分のこともあまり語らず、何を考えているのか正直わからないと思っていた。
まさか、そこまで日本に戻りたいと思っているなんて。
「なんで俺に言わなかったんだよ、そんなに日本に戻りたいなら――」
「……日本に戻る方法を知ってるの?」
「……いや、それは……」
俺は知らない。七十二財宝を集めてルシルの力を集めれば――日本に戻ることができる……なんてルシルが言っていたが、その情報はルシルからのものだし、俺自身、最近半信半疑だったりする。
それよりも、魔力の神薬を飲ませ続けたほうが彼女の力が戻るのではないかと思っている。数十年かければ。
……そうだ。
「今すぐは無理だが、時間をかければ方法が――」
「――もう必要ない。もうすぐ、世界の扉が開く。塔が完成する。後少しで、もう少しで私は日本に帰れる」
「日本に帰ったらどうなる? エネルギーは地上に戻るのか?」
「扉を通るのにエネルギーを使うから、その分の地上にエネルギーは戻らない……大丈夫、あなたが通る分のエネルギーも残ってるから」
「……今のを聞いて少し安心したよ。つまり、お前が扉とやらを通らなかったら、エネルギーは戻るわけだな」
俺はアイテムバッグから、エントキラーを取り出した。
「ということで、ルシル、聞こえていたか? どうすれば扉を壊すことができる?」
俺は通信イヤリングでルシルに問いかけた。
実は、ルシル達と別れてから、通信イヤリングはずっとつなげたままにしてあった。
『ええ、凄いわね』
「……あぁ、凄い計画だな。でも達成させるわけにはいかないよな」
『この、オサルのマーチってチョコレート菓子、クッキー生地の中にチョコレートが入っているのよ! コーマが前に作ったチョコレートクッキーはクッキー生地の中にチョコレートを練り込んでいたけど、これはさくさく生地の中に――』
「お前は、一体どこで何をしている!」
『スーパーマーケットでお菓子を食べてるわよ? クリスと一緒に』
「いいから、扉を壊す方法を教えろ!」
俺は通信イヤリングに向かって力いっぱい叫んだ。
「くそっ、今がどれだけ非常事態かわかってるのか!」
『スーパーマーケットでスナック菓子について熱く語ってた君が言う台詞?』
……闇の精霊ミュートは、そんな正論を俺に言って述べた。




