日本探索
~前回のあらすじ~
鈴子はベースボールチップスカードのファンだった。
「いや、その時代のカードは俺もわからんけど……そういえば、プロベースボールチップスは1973年からの販売だもんな……ってことはこの時代でも売ってるのか?」
近くにコンビニがないか周囲を探したが、それどころではないと思い直す。
「コンビニはないけど、スーパーならすぐそこにある」
「よし、行こう!」
俺は鈴子の案内で、今も日本にあるはずの大型スーパーに入った。
店の自動ドアが開き、野菜売り場が俺を出迎えた。
「おぉ、バナナだ、久しぶりに見たな。鑑定できるってことはあっちの世界にもバナナはあるのか……」
そして、俺はお菓子売り場に行った。
「うわぁ、なんか見たこともないお菓子とか、パッケージの古いお菓子が勢ぞろいだな。賞味期限の年代が96年か」
「……聞きたいことがある」
俺がお菓子を見ていると、鈴子が真剣な表情で言った。
俺も多少浮かれていたが一気に引き締まる。
「……何だ? 言ってみろ」
「一九九九年の七月に恐怖の大王は来たの?」
「……いや、それらしいことは何もなかったな。えっと、ノストラダムスだっけ?」
「そう。じゃあ、二千年になるとコンピュータが止まるというのはどうなった?」
「二千年問題か……それも何も起きなかったな。日本は平和なものだった……らしいぞ」
どちらも俺が直接見たわけではないからなんとも言えないが。
とりあえず、ルシルへのお土産に、この時代からも存在した栄養補助食品《カ〇リーメイト》をアイテムバッグへ入れる。
「それ、万引きだよ」
「いいんだよ。どうせ俺の持ってる金はこの時代だと偽札扱いされるだろうしな」
確か、この時代の千円札は夏目漱石、五千円札は新渡戸稲造だったはずだ。
「一万円札は聖徳太子だったっけか?」
「……福沢諭吉」
「それは一緒なのか」
あぁ、デザインが変更になったんだっけか。
どっちにせよ、新札はこの世界では使えないからな。
そして、お菓子コーナーの一番下の棚に、それはあった。
「おぉ、まじでプロベースボールチップスだ。デザインが違うけど……あぁ、この時代はカードが一枚なんだよな。たしか、ハッピーカードってのが入ってるんだっけ?」
「……ハッピーカードを一枚集めるとカードフォルダが、三枚集めるとサインカードが手に入る。私も三枚集めたことがある」
「マジか……親父が聞いたら羨ましがるだろうなぁ」
俺はとりあえずプロベースボールチップスを全部アイテムバッグに入れ、他にも気になるものをアイテムバッグに入れていき、店を出た。
「楽しい世界だな……もちろん、数年どころか、たぶん数週間でスーパーの中は魚肉が腐ったりして大変なことになりそうだが」
「……ハエがたかるね」
「いや、蠅はこの世界にはいないんだろ? 他にも街灯の蛍光灯が切れても交換する人もいないしな……」
「……痴漢が出るね」
「人がいないから痴漢は出ないだろ」
そんなバカな話をしながら、俺と鈴子は歩く。
そして――俺たちは川沿いの道を歩く。川の向こうには線路があるが、当然電車は走っていない。
駅の近くまで歩き、そこから商店街に入る。
その中に、それはあった。
「鳥居か。そういえば、カリアナでも神社は見かけなかったな。全員仏教だったのかな」
俺は鳥居をくぐり、奥の神社へと向かう。
社務所があって、おみくじを売っている。そして、階段の奥にある本殿の前には賽銭箱がある。
「目的地はここなのか?」
「……そう」
「ここって言われてもなぁ。御神木は確かに立派だが、ユグドラシルと比べるとしょぼいし……ってどこに行くんだ?」
「駐車場」
「駐車場って、お前、もしかして今から車で移動するとか言い出すんじゃないだろうな? 言っておくが、俺は車の免許なんて持ってないぞ」
「……私もない。それにあそこは、ほとんど毎日車が止まっていないから」
……ならば、そんなところに一体何があるんだ?
鈴子の言う通り、そこには駐車場があった。
そして、そこにいたのは――
「サラン、ライ、クレイ……」
三人だけではない。水の精霊と風の精霊だろう。五体の精霊が眠っている。
そして、その五人の中心に、ピンポン玉くらいの大きさの穴が見えた。
空間の穴――
その穴の向こうに見えるのは……ここと同じ駐車場だった。
だが、全てが同じではない。
「……人がいる……?」
穴の向こうに見えたのは、犬と散歩をしているお爺さんだった。
だが、時間が止まっているのか、お爺さんも犬も微動だにしない。
「……鈴子、これは――」
「……日本……本物の日本……私の故郷。私が戻りたいと思い続けた場所」
「鈴子、お前、もしかして……」
その答えを出すのは性急だと思った。
もっと別の答えがあるのではないかとも思った。
だが――俺の中の結論はすでに出ていた。
「日本に戻るためだけに、この騒ぎを起こしたのか?」
俺の問いに、鈴子は無言で首を縦に振った。




