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異世界でアイテムコレクター  作者: 時野洋輔@アニメ化企画進行中
Episode11.5 塔の迷宮・後編

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鈴子とふたり

~前回のあらすじ~

鈴子がボロボロのクリスを連れていた。

 診察スキルでクリスのHPを確認する。

 かろうじて生きているようだが、失血という状態異常になっている。早く治療をしないと命の危険がある。


「そいつ、俺のなんだ。返してくれないか?」

「……彼女は日本人じゃないから排除する」


 言葉が通じているのかいないのか。


「日本人じゃないから排除って、鎖国じゃないんだからさ。現代日本はグローバル社会なんだぞ」

「私はちゃんと日本語喋れるから、ほら、どこをどう見ても日本人よ」

「いや、ルシル、それはさすがに無茶があるだろ……鈴子、そいつを返してくれないというのなら、力づくで――」


 クリスを取り戻す――そう言おうとした時だった。

 鈴子はクリスを俺に投げた。


「……ちゃんと面倒見て」

「いいのか?」

「……訳の分からないことを言わさないのなら別にいい」


 ……なんだ、鈴子。明らかに他の神子と違う。

 俺はアイテムバッグからエリクシールを取り出した。クリスにはもうアルティメットポーションを飲む力も残されていなかったから。

 エリクシールを一滴垂らすと、クリスの傷がみるみる塞がっていき、クリスが目を覚ました。


「……コーマさん……すみません、私……」

「寝ていろ。心配かけやがって……」


 怪我は回復したが、怪我をした事実は変わらない。クリスの脳が彼女に体を休めるように分泌物を送っているのだろう。

 彼女は静かに目を閉じた。


「さて、鈴子。事情を聞きたい――お前は何を知っている?」

「……ふたりで歩きながら、話したい」


 俺はルシルに振り返り、右手人差し指でコンコンコンと三回、通信イヤリングを弾く。

 それは、通信イヤリングを三回鳴らしたら俺の封印を第二段階まで解いてくれ、という合図であった。

 ルシルもそれを理解して、頷く。


「わかった。俺も久しぶりに日本観光をしたいと思っていたところだ。クリスを痛めつけたのは、それでも許せないがな」

「……そう」


 俺は再度ルシルを見て、大人しくしているように言い、ふたりで日本の町を歩くことにした。

 無言で進む日本の町。

 相変わらず人が誰もいない。だが、何の音もしないわけではない。

 風が吹き、街路樹が音を立てて揺れた。

 今では大きく数を減らしたカメラの現像プリントの店があり、現在時刻と仕上がり時刻の時計がアナログ時計で表示されている。その時計の長針が音を立てて動いた。


「この世界には電気が通じているのか?」

「……電気だけじゃない。水道とガスもある。電話も通じてるけど、本当の日本には繋がらない」


 そうか……電話もあるのか。


 ならば、あれも使えるのか?

 と、アイテムバッグから、久しぶりにそれを取り出した。

 スマートフォンだ。

 何か機会があるごとに出したことはあるが、ルシルの雷魔法で充電しようとして、メインバッテリーが焦げて使いものにならなくなった。

 今は予備のバッテリーを入れている。


「……それは何?」

「スマホだよ、スマホ。見ればわかるだろ」


 俺は近くの喫茶店を見つけ、その中に入る。

 当然、出迎える店主もウェイトレスも誰もいない。

 俺は四人掛けの席に行き、そこにコンセントの差込口を確認し、スマホの充電用アダプターをアイテムバッグから取り出して充電を開始。


「おぉ、スマホが充電できた!」

「……それ、盗電……だよ?」

「いいだろ、電気代にしても一円未満だし、何より電気代を払う相手がいないからな」


 俺はスマホを起動させる。こんなところで充電する方法があるなら、ルシルに無茶させるんじゃなかったな。ちなみに、スマホの中のデータは無事だった。

 圏外なのは仕方がない。


「鈴子、やっぱりこの世界はお前が作ったのか?」

「……そう」

「凄いな……全く。俺も何かを作ることに関しては誰にも負けない自信があったが、お前に比べたら赤子も当然だよ……」


 そう言いながら、俺は喫茶店のラックにあった新聞紙を見つけて中身を確認した。

 ……平成八年九月十日。八、九、十が並んでいるなぁと思ったが、そういう問題じゃない。

 なるほどな。どうりで店の向いのレンタルビデオショップにDVDが一枚もないと思ったよ。

  

「DVDを見たらちゃんと巻き戻ししなさい、とか母さんが言ってたな。ははは、俺が物心ついたころからビデオなんてほとんどなかったよ。言葉だけは残ってたけどな」

「……未来人?」

「現代人だよ。日本で、お前が死んでからも時は進んでいるってことだ。知ってるか? 俺が今充電している機械、こう見えて携帯電話なんだぞ?」

「……驚き」

「お前のリアクションの薄さが驚きだよ」

 俺はスマホを弄りながら、鈴子に質問を続けた。

「お前、やっぱり日本に戻りたいのか?」

「……当然」

「そうか……じゃあ、もしかして、今回の事件を引き起こしたのは、全部お前なのか?」

「……和食、作れる?」

 鈴子は喫茶店の厨房を見て質問した。

 俺の質問に答えない。

 ……俺は舌打ちをし、アイテムバッグから蓋つき鍋とお椀、割り箸を取り出す。

 そして、お椀の中にその中身を入れた。

「味噌汁だ」

「……飲んでいい?」

「好きにしろ」

 彼女は「……ずずず」と音を立てて味噌汁を飲む。

 割り箸を割り、中のわかめと豆腐を食べた。

 そして――

「……塩分が多い」

「クレーム!?」

「……とても美味」

「……お粗末様」

 やる気がそがれるな。

 俺はお椀と割り箸を取り、厨房でお椀を洗ってアイテムバッグに入れ、割り箸はゴミ箱に捨てた。

「……ついてきて」

「その前に俺の質問に答えてくれ」

「……ついて来たらわかる」


 相変わらず何を考えているかわからないな。

 でも、聞かなければいけないことはまだある。


「ミュートはどうした? 他の精霊は?」

「……ついて来たらわかる」

「行方不明のグラッドストン、教皇はどこにいる?」

「……ついて来たらわかる」

「ユグドラシルがエネルギーを吸い上げていた。最初はこの世界の電気や水道、風のエネルギーに使われているのかと思ったが、それだけか?」

「……ついて来たらわかる」

「……野球はどこのファンだ?」

「バ〇ァローズ」

「そうか……はじめてまともに答えてくれて感謝するが、残念ながら近〇(きん〇つ)はすでに解散してオリックスに吸収されてるんだよ」

「……驚き」


 相変わらずリアクションが薄い。

 が、会話はするつもりはあるようだ。


 やれやれ、ついていけば何が待っているっていうんだよ。


「……どこのファン?」

「あぁ、悪い。質問しておいてなんだが、俺、野球はあんまり見ないんだよ。子供の頃に嫌というほどカードで見たせいで」

「……ベースボールチップスの?」

「知ってるのか?」

「死ぬまで集めてた」


 俺はその時、生まれて初めて父の知り合い以外でベースボールチップスのカードコレクターを発見した。

 それをどうでもいい話と笑うものもいるかもしれないが、俺にとってはコレクションを始めるきっかけとなった品だからな。

 ……その時、俺の中に、ある考えがよぎった。

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