大樹の頂点の転移陣
~前回のあらすじ~
樹から落ちた。
絶賛落下中。
遠巻きに先ほどの怪鳥たちが見ているが、仲間を一刀両断したせいで俺たちに攻撃してくる様子はない。
「あ、あれがあったな」
「コーマ、何か思いついたの?」
「あぁ、さっき一角鯨と戦っていた時のことを思い出したんだが。そういえばこんなものを作ったなと思ってさ……とりあえず 水障壁 《 ウォーターバリア 》 ! 水障壁 《 ウォーターバリア 》! 水障壁 《 ウォーターバリア 》!」
薄い水の壁を作る。俺たちの落下の衝撃には耐えられずにすぐに消滅するが、僅かに落下速度が下がる。
そして、俺は俺はアイテムバッグからとある袋を取り出す。
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魔物寄せの粉【薬品】 レア:★★★
魔物の好きな香りの粉。使うと周辺の魔物を引き寄せる効果がある。
使い時を間違えたら取り返しのつかないことになる。
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魔物寄せの粉。かつて、一角鯨をおびき寄せるために使ったこの粉だ。
これを少量体に振りかける。 水障壁 《 ウォーターバリア 》によって濡れた体に、粉がよくくっつく。
そして、その威力は確かだった。
遠巻きに見ていた怪鳥が急旋回し、俺めがけて急降下してきたのだ。
鋭い爪のついた足が俺の体を掴もうとする――が俺は木登り鉤爪をアイテムバッグにしまい、両手で怪鳥が持つ天然の鉤爪を受け止め、そしてくるっと回って、怪鳥の背中に飛び乗った。
「うぅ、気分悪い」
後ろでルシルはげんなりしている。
怪鳥は俺たちを振り落とそうとする。
「……俺も気分悪い……」
そういえば、俺って馬車とか揺れのひどいもの苦手だったんだよな。
と思ったら、他の怪鳥が追ってきた。
俺たちの乗っている怪鳥は、それらの怪鳥から逃げるように急上昇した。なんだろう、鳥の顔を見ると泣きそうになっている。
俺たちを乗せているせいで、他の怪鳥が追いつきそうだ。
ここで追いつかれたら厄介なことになるのは目に見えているからな――
アイテムバッグから神雷の杖を取り出し、
「雷よっ!」
と叫んだ。杖から放たれた雷が、後続の怪鳥を消し炭にした。
それに最も驚いたのは俺たちを乗せている怪鳥だ。
後ろと俺とを何度も何度も見比べた。顏を真っ青にしている。
「俺たちの強さがわかったのなら、頂上まで飛べ――じゃないとお前は焼き鳥として俺たちの晩餐になるぞ」
俺の言葉がわかったのだろうか、怪鳥は俺たちを乗せたまま樹の頂上目掛けて飛ぶ。
怪鳥の口の中に力の妙薬と、耐寒ポーションを飲ませ、俺たちも耐寒ポーションを飲む。
流石にこの高度になると酸素がかなり薄い。
酸素ボンベは持って来ていないが、酸素が薄くなっている様子はない。
「このあたりに上昇気流が発生しているのよ。きっと、さっき地上を燃やしたときの熱だけじゃなくて、ユグドラシルの葉全体に空気をいきわたらせるために何か力が働いているのね」
「なるほど……だから、この鳥も飛び続けていられるのか」
怪鳥は先ほどから羽ばたいていない。風に乗っているようだ。
そして、俺たちが見たのは――星空だった。先ほどまで昼間のように明るかったのに。
いつの間にか成層圏ぎりぎりにまで到達していた。
そして、ようやく見えた。
「頂上だ……」
樹の頂上が見えた。
頂上は平らになっていて、あまり広くない。
そこに転移陣が光り輝いている。
ルシルはさっそくその転移陣を解析して、地上にいるシルフィアを召喚させる術式を編みだすことにした。
そのルシルに、俺は気になったことを尋ねた。
「なぁ、ルシル……ここって迷宮の中なんだよな。じゃあ、あの星は何だ? まさか迷宮の中にも宇宙があって、宇宙人とかがいるとか言うんじゃないだろうな? 嫌だぞ、魔王VSエイリアンとか」
「……もちろん、本物の星じゃない……とは思うけど……何なのかしら?」
ルシルもよくわかっていないらしい。
そして、ルシルは転移陣の解析を終え、地上にいるシルフィアを召喚。
そのまま地上の転移陣へと送還した。サクヤなら見つけてくれるだろう。
「ルシル、転移陣を弄って、エネルギーを地上に戻すことはできないのか?」
「んー、このエネルギーを地上に送っても吸い上げる力はあるから――エネルギーのループが起こって、最悪迷宮全体が爆発する恐れがあるわね」
電気回路のショートみたいなものか。
それは確かにまずいな。
爆発の余波で地上に何があるかもわからない。
「……クリスがいるのはこの先か?」
「ええ、そうね……」
「よし、行くか」
覚悟を決めて転移陣に潜った。
そして――俺の視界に最初に映ったのは――足元の大地――ではなくアスファルトの道だった。
「……え?」
道の先には、自動車用の一時停止、「止まれ」の文字が日本語で書かれていた。
その横には赤色の一時停止の道路標識が立っていて、その横にカーブミラーまである。
電柱にはチラシが張られていた。ピンク色の紙に電話番号。
「……コーマ、なにこれ? 日本語の数字がいっぱい書かれているけど」
「子供が見てはいけない類のチラシだから無視しろ……あと、日本語の数字じゃなくてアラビア数字だけどな……ってどういうことだよ……日本に戻って来た、なんてさすがにないよな」
人っ子ひとりいないこの現状。
家の中からも人の気配はまるでしない。
「日本そっくりの町……か。じゃあ、ここのボスはやっぱり」
「……ボスは失礼」
突如聞こえて来た声に振り返ると、そこに彼女がいた。
「鈴子……か……」
日本の転生者という闇の神子が俺の背後に立っていた。
俺は彼女を睨み付けた後、彼女の手を見た。
彼女の手にはひとりの女性の腕が握られていた。
彼女が引きずっていたのは、血塗れのクリスだった。




