木登り中
とりあえず、シルフィアは地上に寝かせておき、ルシルとともに転移陣を目指した。
ルシルと転移陣の力を使い、樹の下に眠るシルフィアを呼び寄せ、その後に地上に送ろうということだ。
現在、地上五キロメートル。凍えそうなくらい寒い。でもまだ天辺が見えない。
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木登り用鉤爪【その他武器】 レア:★★
獲物を殺すためではなく、木登りをすることに特化した鉤爪。
木登り用とはいえ、こんな鉤爪で引っ掻かれたらただでは済まない。
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どこが木登り用なのかと尋ねられたらよくわからないが、まぁ、樹によく食い込む。樹の中を通るエネルギーが漏れ出ないか心配だったが、ルシルの説明を信じるなら、エネルギーは樹の中心付近を通って吸い上げられているため、表面ならある程度傷つけても平気だそうだ。
それでも、鉤爪で木登りをするのは樹を傷つけるので決して褒められたものではないと思うのだが。
少なくとも日本で、木登りをするために鉤爪をひっかける、なんてやり方をしたら絶対に自然保護団体からフルボッコされるだろう。
とはいえ、足場にできる太い枝と枝との間は、数メートルから数十メートルあるし、思ったよりユグドラシルの樹皮は滑るので、こうでもしないと登れない。
「コーマの脚力なら、普通にジャンプして枝を飛び移って行けばいいんじゃない?」
「そんなことしたら、ルシルの体にも負担になるだろう。一度や二度ならなんとかなるかもしれんが、何度も繰り返すとな」
ルシルも何本か力の神薬を飲んでいるので普通の人間よりは耐久力があるが、ルシルの奴、力の神薬は苦いといってあまり飲まなかったから。最近は魔力の神薬しか飲まなくなったので、さらに力の神薬を飲む機会が減った。
「それならコーマの薬で治せばいいでしょ。幸い、エリクシールの素材になるものがその辺にいっぱいあるんだし」
エリクシールを作るのに必要な素材はアルティメットポーションとユグドラシルの葉だ。
ユグドラシルの葉はルシルの言う通りそこら中に茂っているし、アルティメットポーションはアイテムバッグの中に腐るほどあるので(アイテムバッグの中に入れていたら腐ることはないのだが)、ルシルの言う通り、ここをエリクシール量産工場にすることもできる。
「まぁ、エリクシールとかアルティメットポーションっていうのは最後の手段のようなものだからな」
「最後の手段って、コーマいつも使ってるじゃない。最後の手段というよりかは最初の手段よね?」
「失礼なことを言うな。まるで俺がいつもアルティメットポーションに頼って……ないことは無いと思うけど」
……自分で言いながら、不安になってきた。そういえば、俺、本当にここぞと言う時にアルティメットポーションとエリクシールに頼っている気がしてきた。いやいや、結構自分の力で戦っていると思うぞ。もちろん、アルティメットポーションがあるから怪我も気にせずに戦えるし、ルシル料理も食べられるのだが。本当に、アルティメットポーションがいなかったらルシル料理は絶対に食べられない。
それに、確かに俺は最近、アルティメットポーションの味にも慣れたせいで、ちょっと肩が凝ったからとかそういう理由でもアルティメットポーションを飲んだりするが。
正直に言えば、たとえエリクシールで治療できるとしても、ルシルを傷つけるのは嫌だからな。
クリスが相手なら、片腕が捥げるくらいのことをしても、アルティメットポーションで治療できるからまぁいいか、って思うんだが。
「コーマ、後ろ――」
「あぁ、もう面倒だな。こっちは両手両足が塞がっているっていうのに」
肩越しに後ろを見ると、七色の羽を持つ巨大な怪鳥の魔物が現れた。
――そうだ、あいつにつかまって樹を登れば楽勝じゃないか?
ニヤリと笑みを浮かべ、俺は幹を蹴り、後ろの怪鳥に対して飛んだ。怪鳥は俺の顏を見て飛びあがろうとするが、俺は腕を伸ばして怪鳥の翼を掴もうとし――
「あっ」
鉤爪の切れ味が思ったより凄すぎた。
怪鳥の翼がすっぱり切れた。
「これ、木登り用の鉤爪なのになんで瞬殺するんだよ!」
「コーマのバカ! 落下してるじゃない! コーマは力が強すぎるのよっ!」
「あぁ、くそっ、あれでもないこれでもない」
俺はアイテムバッグからいろんなアイテムを出しては捨てていく。その姿はまるで劇場版ドラ〇もんで、必要な道具が出てこないドラ〇もんみたいな状態だな。
「たらららっららー タケコ――ってこれはただの竹とんぼだ」
「コーマ、落下しているというのに余裕あるわね」
まぁ、最終的にルシルを上に放り投げて地上にたたきつけられた俺がアルティメットポーションで治療してから再度ルシルを改めてキャッチしたらいい程度だからな。とは言わない。
結局アルティメットポーション頼りに思われるからな。
でも、本当に何かいい手段はあるか?
……地上まで、残り二キロ。
「……とりあえず、下にマットでも投げておくか」
とりあえず、アイテムバッグから取り出した緊急用のマットを地上へと放り投げながら――一角鯨と戦う時、ルシルの手によって数十メートルの上空から落とされたことを思い出した。




